シンカー:日本の20年金利の動きも、企業と政府の資金需要の合計でもあるネットの資金需要が左右していると考えられる。基軸通貨である米ドルの長期金利をアンカーとして、米国の10-30年金利差も影響を与える。両要因の基調の動きに、日銀の金融政策要因(コールレート、国債買い入れ、イールドカーブコントロール、信用サイクル)などが加わり、長期金利が決定すると考えられる。長期金利の同様の推計と比較すると、イールドカーブコントロールは10-20年金利差に20bp程度のフラットニング圧力となっていることがわかった。

会田卓司,アンダースロー
(画像=PIXTA)

長期金利(10年金利)の動きは、企業と政府の資金需要の合計でもあるネットの資金需要が左右していると考えられる。基軸通貨である米ドルの長期金利をアンカーとして、米国の10-30年金利差も影響を与える。両要因の基調の動きに、日銀の金融政策要因(コールレート、国債買い入れ、イールドカーブコントロール、信用サイクル)などが加わり、長期金利が決定すると考えられる。短期的な需給要因などによる変動を考慮するため、1標準誤差を基準にして、ダミー変数で調整する。

10年金利=-0.6 + 0.5 コールレート + 0.4 米10年金利 + 0.6 米10-30年金利差 + 0.01 短観中小企業貸出態度DI - 0.08 ネットの資金需要 - 0.04日銀当預GDP比(前年差) - 0.3 YCCダミー + 0.5 アップダミー- 0.4 ダウンダミー; R2=1.00

大きな財政赤字が継続していても、金利の高騰や財政破綻とならない理由は、企業貯蓄率が異常なプラスで、財政収支と企業貯蓄率の和であるネットの資金需要が弱いからだ。財政赤字だけを見ていても、長期金利の動向は理解できないことになる。民間の資金需要の動きも総合的に見ないといけない。民間の過剰貯蓄が財政収支をファイナンスする力となるからだ。長期金利の推計は20年金利にも応用できる。

20年金利=-0.2 + 0.4 コールレート + 0.4 米10年金利 + 0.9 米10-30年金利差 + 0.01 短観中小企業貸出態度DI - 0.09 ネットの資金需要 - 0.03 日銀当預GDP比(前年差) - 0.5 YCCダミー + 0.5 アップダミー - 0.5 ダウンダミー; R2=0.99

イールドカーブコントロールのダミー変数(マイナス金利導入から、イールドカーブコントロールの開始を経て、現在まで1を置く)の係数は長期金利でー0.3、20年金利で-0.5となっている。イールドカーブコントロールは10-20年金利差に20bp程度のフラットニング圧力となっていることがわかった。ネットの資金需要がかなり強くなり、長期金利や20年金利に上昇圧力がかかっても、日銀がコントロールできれば安定を続けることができる。ネットの資金需要の20年金利の係数は0.09であり、日銀当座預金残高の前年からの変化の係数は0.03である。ネットの資金需要が拡大しても、その3倍を日銀が国債買いオペなどで流動性供給すれば、20年金利の上昇圧力は抑え込むことができるようだ。ネットの資金需要の長期金利の係数は0.08であり、日銀当座預金残高の前年からの変化の係数は0.04で、その倍で抑え込むことができることを考えると、20年金利のコントロール力はやや劣る。

短期的な需給要因のダミー変数と係数がほぼ同じでキャンセルアウトされる米10年金利、DI、日銀当座預金を除くと、10-20年金利スプレッドの推計にも応用できる。コールレート、米10-30年金利差、ネットの資金需要が決定要因となっている。新型コロナ前の2019年と2020年以降を比較し、米10-30年金利差は30bp程度の拡大、ネットの資金需要は4%程度の拡大となっている。それぞれ、7bp程度と10bp程度のスティープニング圧力となっている。コールレートを-0.05%で固定することにより、ネットの資金需要と米10-30年金利差による日本の10-20年金利差のマトリクスもつくることができる。

10-20年金利差=0.4 - 0.1 コールレート +0.04米10年金利 + 0.2 米10-30年金利差 +0.01日銀当預GDP比(前年差) - 0.01 ネットの資金需要- 0.24 YCCダミー

図1:リフレ・サイクルを示すネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支)

リフレ・サイクルを示すネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支)
(画像=内閣府、日銀、岡三証券 作成:岡三証券)

図2:10-20年金利差と推計値

10-20年金利差と推計値
(画像=Refinitiv、岡三証券 作成:岡三証券)

表:10-20年金利差のマトリクス

10-20年金利差のマトリクス
注:コールレートは-0.05%で固定(画像=岡三証券)

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岡三証券チーフエコノミスト
会田卓司

岡三証券エコノミスト
田 未来