中国、論文の数・質ともに世界一に 日本はインドにも抜かれ過去最下位に没落
(画像=JBOY/stock.adobe.com)

中国が、自然科学系の学術論文の数・質(他論文からの引用の数)共に世界1位となったことが、文部科学省科学技術・学術政策研究所の研究報告書で明らかになった。対照的に日本は、インドや韓国にも追い抜かれ、世界の経済大国とは思えない順位の低迷を示している。

論文数・質 上位10ヵ国

同報告書「科学技術指標」は、主要国の科学技術に関する活動をさまざまな角度から分析・評価したものだ。その活動には、化学、材料科学、物理学、計算機・数学、工学、環境・ 地球科学、基礎生命科学、臨床医学などがあり、研究開発費や人材、論文数、特許出願数などから評価する。各国の研究開発力を示す指標として活用されている。

2017~2019年までの論文を分析した2021年版の上位10ヵ国は、以下の通りである。量的観点から発表された論文数と、質的観点からTop10%補正論文数(他の論文から引用される回数の多い論文数)を順位付けている。

論分数(分数カウント法)

中国、論文の数・質ともに世界一に 日本はインドにも抜かれ過去最下位に没落

Top10%補正論文数(分数カウント法)

中国、論文の数・質ともに世界一に 日本はインドにも抜かれ過去最下位に没落

中国、論文の数・質ともに世界一

今回の分析結果で最も注目すべきは、中国が論文数のみならず、論文の質の高さの指標であるTop10%補正論文数でも首位に輝いた点だ。同国がトップ10全体に占める割合は論文数が21.8%、論文の質が24.8%と他国を大きく引き離している。

1997~98年時点では論文数が9位(2.7%)、Top10%補正論文数は上位に入ってすらいなかったことを考慮すると、中国の目覚ましい成長に驚かされる。2007 ~09年には論文数とTop10%補正論文数が共に2位(9.3%、7.6%)に急上昇した。

全分野(化学、材料科学、物理学、計算機・数学、工学、環境・ 地球科学、基礎生命科学、臨床医学)において1~3位と圧倒的な成長力を誇示している。

日本の論文の質の高さ 過去最低の10位に

一方、1997~98年のランキングでは論文数が2位、論文の質が4位だった日本の影響力は年々低下し、2021年版ではそれぞれ4位、10位と過去最低の順位に後退した。論文の質は、以前は圏外だったインドにも追い抜かれた。過去10年間の伸び率を比較すると、論文数で268%、質で599%という驚異的な成長を遂げた中国とは対照的に、日本は論文数で横ばい、質では10%低下した。

その他の項目から日本の状況を見てみると、パテントファミリー(2ヵ国以上への特許出願)数は2004年以降1位を死守しているが、ここでも中国が着実に追い上げており、特に情報通信技術と電気工学分野でじわじわとシェアを奪われている。

新型コロナウイルス感染症関連の論文においても、上位25ヵ国のうち日本は14位(1.4%)であるのに対し、中国は米国に次いで2位(16.5%)と大きく差が開いた。重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)、ジカ熱といった他の感染病の研究論文においても、同様の格差が見られる。

明暗を分けた2つの要因

同研究所は、日本と中国の科学力が逆転した要因をいくつか挙げている。

1.研究者の数や研究費が増えていない

日本の研究開発費と研究者数は共に3位だが、近年は、中国を含む他の主要国のような大きな伸びは見られない。

主要国(日米独仏英中韓)の研究開発費の指数を見てみると、2000年から2019年にわたり、中国の指数が24.7倍、韓国が6.4倍、米国が2.4倍増加したにも関わらず、日本はわずか1.2倍と主要国のなかで最も勢いに欠ける。中国の公的機関部門の研究開発費は2013年に米国を超え、2019年には主要国中最大の規模となった。

2.人材の縮小

中国が大学および公的機関部門の研究者数で、規模、成長率共に勢力を拡大しているのに対し、日本は大学部門の研究者数が5年前から1.5%減、公的機関部門の研究者数がわずか2.5%増だ。

未来の人材育成に関しても、博士号取得者数最多の米国や取得者数が年々急増している中国や韓国、英国では、2020年度の取得者数が15~20年前の約2倍に増えているが、日本では2006年をピークに減少している。

また、強みである技術を活用した新製品やサービスの導入という点で、国際展開力が弱い可能性も指摘されている。

日本が「米中の壁」を超えるための課題とは?

しかし、「日本の科学技術力がこのまま世界のリーグから転落してしまう」と失望するにはまだ早い。長期にわたり成長が頭打ちしているとはいえ、日本は多くの指標で高順位を保っており、まだまだ余力は残っていると期待できる。

たとえば、各国・地域の経済規模の差を考慮した研究開発費総額の対 GDP 比率では、勢力図がガラリと変貌する。日本(3.51%)は、イスラエル(4.85%)、韓国(4.52%)に次いで3位と非常に高い水準を誇っており、台湾(3.36%)とスウェーデン(3.32%)がトップ5入りしている。一方、ドイツは8位(3.12%)、米国は10位(2.95%)、中国は14位(2.14%)、英国は22位(1.73%)だ。

また、女性の研究者の割合は低いものの、新規採用研究者に占める女性研究者の割合は総体的に増加しているなど、多様性も広がりつつある。

日本が米中の壁を超えるためには、国際展開を視野に既存の強みをさらに強化すると同時に、研究時間や博士課程学生数の増加を促進することが課題となりそうだ。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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