同族経営が見直されているのはなぜ?メリット・デメリットと成功のポイント
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鈴木 まゆ子
鈴木 まゆ子(すずき・まゆこ)
税理士・税務ライター。税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU online」「マネーの達人」「朝日新聞『相続会議』」などWEBで税務・会計・お金に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著)」。

同族経営の強みが今、世界で見直されている。日本ではマイナスイメージがつきまとう同族経営が、実は長く安定的に事業を続けられるシステムだからだ。今回は、同族経営が注目されている理由やメリット・デメリット、同族経営の成功のポイントについて解説する。

目次

  1. 同族経営とは
  2. 同族経営が見直されている理由2つ
    1. 1.株主重視の「収益偏重主義」への反省
    2. 2.安定した経営を長く続けられるのが強み
  3. 同族経営のメリット3つ
    1. 1.経営者であり株主でもある
    2. 2.長期的な視点での経営が可能
    3. 3.継続性
  4. 同族経営のデメリット3つ
    1. 1.独善的な経営になりやすい
    2. 2.身内びいきをする
    3. 3.経営者の候補が限定的
  5. 同族経営の成功事例
    1. ファーストリテイリング
    2. 星野リゾート
  6. 同族経営を事業の成功につなげるポイント2つ
    1. 1.倫理と信念を大事にする
    2. 2.親族以外の従業員も大事にする
  7. 同族経営のデメリットを認識してメリットを活かそう

同族経営とは

同族経営とは、特定の親族が事業や組織の経営を行うビジネス形態のことである。創業者一族が企業の株式の大半を所有して、何らかの形で事業に関わっているのが一般的である。同族経営は、「ファミリービジネス」「家族経営」とも呼ばれている。

同族経営の主体となる組織が「同族会社」であり、創業者や経営者の一族が株式の大半を保有している企業を指すが、『法人税法第二条十号』では次のように定められている。

「同族会社とは、会社の株主等の3人以下及びこれらの同族関係者の有する株式の数または出資の金額の合計額が、その会社の発行済み株式又は出資の総数又は総額の50%を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合、その会社の特定の議決権の50%超を有する場合及びその会社の社員又は業務執行社員の過半数を占める場合におけるその会社をいう」

要約すると、「会社の経営権の半分以上が親族などにあるなら、同族会社になる」ということだ。

同族経営が見直されている理由2つ

海外では1990年代から研究対象のひとつとして注目されていた。2000年前後から事業承継についての論文が次々と発表され、現在、イギリスのオックスフォード大学やケンブリッジ大学などで同族経営が研究対象となっている。

同族経営は、なぜ見直されているのだろうか。それには2つの理由がある。

1.株主重視の「収益偏重主義」への反省

2000年以降、インターネットの普及や経済連携のありようの変化、新興国の急成長や自由貿易協定の締結などに伴い、国際的な資本の移動がスピーディに行われている。その結果、短期投資で利益を回収したい株主が増加し、短期的な収益に主軸が置かれるようになった。

株主のこうした要求に応じるべく、企業は業績悪化時に安易なリストラを行って利益を回復させたりもした。しかし効果は一時的で、「従業員のモチベーションが低下した」「次の収益の柱となる事業が育たない」といった課題に悩まされるようになった。

2.安定した経営を長く続けられるのが強み

上場企業の多くは、株主の要求に応え続けることで疲弊していった。対照的だったのが同族経営で、長期的な事業の成長を示して安定的かつ持続的に経営しており、100年超続く企業は珍しくない。

また、同族経営は、長期的な視点で事業を営んでおり配当を安易に行わないので、内部留保が厚い。現金は、売上や利益以上に事業経営の命綱であり、内部留保が厚ければ、それだけ持続性が高く環境変化にも強い。また、新規事業を立ち上げるときの投下資本にも困らない。

こういった同族経営特有の強みが、持続可能性を重視する現代に見直されているのである。

同族経営のメリット3つ

同族経営には、次の3つのメリットがある。

1.経営者であり株主でもある

同族経営は、そもそも大株主が創業者である。つまり、「株主=経営者」であるためビジョンが一致しており、利益の最大化に経営者として尽力し、その結果を株主の立場として受け取る。そのため、意思決定と行動が早く目指すべき方向も同じである。

さらに、株式と経営は同族内で共有される。非同族会社の上場企業と違い、経営陣は株主の顔色をうかがったり、経営責任を厳しく追及されたりすることが少ない。

そのため、親族の了解さえ得れば、大胆な経営改革を行いやすく、失敗しても解任されるリスクは低いのだ。そして企業と事業、そしてステークホルダーは自分の財産であるため、最後まで責任を取る。サラリーマン社長にはない、同族経営ならではの強みだ。

2.長期的な視点での経営が可能

非同族経営の上場企業は四半期で決算を行い、その都度、株主に業績の内容や背景を説明しなくてはならない。つまり「3ヵ月間」という短い期間ごとに結果を出さなくてはならないのだ。状況によっては、株主からの追及を恐れるあまり、経営陣は短期的な視野で事業を展開し、地道にコツコツ事業を育てていけない。

一方、同族経営は、短期的な利益にはならなくても、いずれ収益と柱になる事業なら育てていく価値があると考えられるので、新規事業を始めたり、既存の事業を時代に合わせて変化させたりしやすい。つまり、長期的な視野に立った経営計画を立てられる。

日本経済大学大学院の特任教授であり、ファミリービジネス研究の第一人者である後藤俊夫氏は、「同族経営の企業の中には『短期10年、中期30年、長期100年』で自社を見ているところもある」と言う。

3.継続性

創業者一族が保有している株式は、同族内で受け継がれていく。経営権と一緒に、企業の理念や思い、事業の展望や目的も引き継がれるため、事業を継続しやすい。立ち上げた事業が一代目で完成しなくても、二代目、三代目と引き継げる。

事実、同族経営は非同族経営よりも存続率が高い。独立行政法人経済産業研究所『同族企業の生産性-日本企業のマイクロデータによる実証分析-』によれば、「オーナー経営企業は非オーナー企業に比べて約5%存続確率が高く、役員が10%以上の株式を所有している企業の存続確率は10~11%高い」としている。

同族経営のデメリット3つ

同族経営にはメリットの一方、デメリットもある。日本で同族経営がネガティブに捉えられているのは、このデメリットが目につくからだ。

1.独善的な経営になりやすい

同族経営は、経営者と株主が一致しているため、監視機能が働かず、創業者一族のワンマン経営になりやすい。自社の業績が下がっていても向き合おうとせず、安易な融資で乗り切ろうとすることもある。それでも高い報酬は手放せず、最悪の場合、モラルハザードに陥ってしまう。こうなると、親族以外の従業員の士気低下にもつながる恐れがある。

2.身内びいきをする

同族経営の場合、仮に自分ではなく親族内の他のメンバーが企業の資金を私的に流用したり、横領したりしても、目をつぶってしまう恐れがある。身内ならではのウェットな関係が、企業モラルよりも優先してしまうことがあるのだ。

3.経営者の候補が限定的

同族経営は、身内の誰かが次の経営者になることが大前提であるため、後継者を探しにくい。社内の従業員やM&Aで外部人材が社長に就任することはあるが、親族内に後継者がいない場合のオプション的措置でしかない。最初から赤の他人を後継者に据えようとしないのが、同族経営の特徴である。

大胆な経営改革ができるのは同族経営の強みだが、それは「経営のセンスのある適任者が身内にいた場合」の話に過ぎない。親族内に後継者にふさわしい人物がいなければ、いくら経営資源が豊富でも、いずれ事業経営は終焉を迎えてしまう。

同族経営の成功事例

ここで、同族経営の成功事例を見てみよう。

ファーストリテイリング

「ユニクロ」「GU」といったファッションブランドで知られるファーストリテイリングは、同社の会長兼社長である柳井正氏の代で急成長した。同氏は2代目だ。

柳井正氏は、大学卒業後ジャスコに入社したが1年足らずで退職し、父が立ち上げた紳士服専門店を手伝うようになった。この紳士服専門店がファーストリテイリングの前身である。

それまでの地味な衣料品から、オシャレかつ低価格で購入できるカジュアル衣料販売に切り替えることで、ブランドイメージを一新した。大胆な変革や事業展開は同族経営ならではと言えるだろう。

星野リゾート

星野リゾートは、大正時代から続く老舗の温泉旅館だ。現在の社長である星野佳路氏は、4代目にあたる。星野佳路氏は、大学卒業後の1988年、星野リゾートの前身である星野温泉旅館に入社したが、身内の公私混同に嫌気がさし、当時の社長だった父親と激しく対立した。一時は他社に転職したものの、1991年に父を追い出す形で社長に就任する。

その後、同氏は観光業界で激しくなった競争に勝つため、「顧客満足度向上」「収益力向上」をスローガンにコスト削減とサービスに注力し、「また来たい」と思わせるリゾート施設を全国に展開した。

さらに、父の代のトップダウン的な経営への反省から、フラットな組織づくりを意識し、従業員が能力を発揮しやすい人事制度を採用した。

同族経営を事業の成功につなげるポイント2つ

同族経営の「株主=経営者」「長期的視点」「継続性」という特徴は、少し気を抜くば経営の悪化や破綻の原因になりかねない。事業の成長や成功につなげるには、次の点を意識する必要がある。

1.倫理と信念を大事にする

同族経営は、既述のとおり身内びいきが働きやすく独善的になりやすい。「少しくらいいいだろう」という気持ちが「プライベートの支出を企業の経費にする」「決算をごまかして融資を受けようとする」といった行為につながる。

2018年、王子製紙の会長であった井川意高氏が自身のカジノの借金を返済すべく、自社から約106億円もの大金を引き出して事件となった。同氏の著書『熔ける」には、企業の資金に手を付けるときの心理が次のように記されている。

「余裕資金ならばまだ良かろう。この資金を使ってバカラを戦い、これまでの赤字分を取り戻すのだ」

同族経営は、第三者からのチェックもないため、非同族経営に比べて自分に甘くなりやすい。だからこそ、自ら法令遵守に対する意識を高めなければならない。

2.親族以外の従業員も大事にする

同族経営は創業者一家が経営権を握るものの、実際の事業には親族ではない人間が従業員となる。つまり、親族の人間と親族外の人間が同じ環境で働くのだ。経営陣の人事やコミュニケーションのありよう次第で、従業員の士気を高めることもあれば、下げることもある。

同族経営でも、従業員を重要な戦力であり仲間として大事にし、能力を発揮しやすい環境を整えられるのなら、理念や目標に沿って事業を順調に展開できる。しかし、親族内の利益優先で公私混同の経営を行うなら、従業員の士気やモラルも低下してしまう。

同族経営のデメリットを認識してメリットを活かそう

同族経営は、「古くさい」「公私混同」などのマイナスイメージがあるが、「経営者=株主」であることから、事業を長期的かつ安定的に継続させるには効率的な経営形態だ。

ただ、同族経営は独善的な経営になりがちというリスクもあるため、自社の従業員をどう見るか、どう接するかも、同族経営の成否を分けるのである。

文・鈴木まゆ子(税理士/税務ライター)

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