「過去ばかり振り向いているようではだめだ。自分がこれまで何をして、どのような人間だったのかを受けとめた上でそれを捨てれば良い」アップルの共同設立者の1人である、故スティーブ・ジョブズ氏の名言だ。失敗と成功を繰り返しながらも、創造力と革新性をもって仕事に取り組んできたジョブズ氏ならではの言葉である。ジョブズ氏は数多の名言を残しているが、筆者は上記の言葉が一番のお気に入りだ。失敗や挫折に直面した時「過去ばかり振り向いているようではだめだ」「自分がこれまで何をして、どのような人間だったのか」「しっかり受けとめた上で」「それを捨てれば良い」と一字一句噛みしめるように自分に言い聞かせている。この言葉に何度救われたことだろう。

それはさておき、ジョブズ氏の影響を受けた起業家は多い。エリザベス・ホームズ被告もその1人だった。2003年、当時19歳だった彼女は「数滴の血液から病気を診断することができる」という革新的なアイディアで医療ベンチャー、セラノスを創業した。ジョブズ氏を彷彿とさせるような黒いタートルネックのセーターを身にまとった彼女は、いつしか「女性版ジョブズ」とも呼ばれ、セラノスの時価総額は一時90億ドル(約9892億8127万円)に達したこともあった。だが、その革新的なアイディアに技術は追いついていなかった。全てが発覚した時、彼女は「女性版ジョブズ」から「被告」へと転落した。

今回は「女性版ジョブズ」と呼ばれた起業家の話題を交えながら「スマート血液検査(Smart Blood Test)」の市場動向についてもリポートしたい。

女性版ジョブズ、多数のエスタブリッシュメントを手玉に…

エリザベスホームズ,現在
(画像=KanaDesignImage / pixta, ZUU online)

『米セラノスの詐欺事件で初公判、血液検査で「うそをつき不正をした」と検察』そんなタイトルが英BBCニュースのヘッドラインに並んだのは9月9日のことだった。投資家や医師、患者らに対する詐欺罪等に問われたエリザベス・ホームズ被告の裁判が9月8日、カリフォルニア州サンノゼの裁判所で始まったことを伝える記事である。BBCニュースは、ホームズ被告が金と名誉のために「うそをつき不正をした」とする検察側の主張に対し、弁護団は「経験のない女性実業家が会社経営に失敗しただけ」と反論していると伝えていた。

2003年、当時19歳だった彼女はスタンフォード大学の化学工学科を中退、「数滴の血液で240種類の血液検査を迅速かつ安価に行う」ことを謳った医療ベンチャー、セラノスを創業した。黒いタートルネックを着用した彼女は「女性版ジョブズ」と呼ばれ、人脈をどんどん広げていった。セラノスの虚構を暴いた犯罪ノンフィクション『Bad Blood: Secrets and Lies in a Silicon Valley Startup(悪い血:シリコンバレーのスタートアップの秘密と嘘)』(ジョン・カレイロウ著)では、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官や、世界的なメディア王として知られるルパート・マードック氏、ジェームズ・マティス元国防長官といった多数のエスタブリッシュメントが手玉にとられる様子が描かれている。