2015年にSDGsが採択された影響で、社会問題・環境問題への意識は世界的に強まっている。本記事ではSDGsの概要や実情に加えて、国内の導入事例などをまとめた。特に海外進出や成長を目指す経営者は、今押さえておきたいポイントを確認していこう。
目次
持続可能な社会を目指す「SDGs」とは?
気候変動や貧困をはじめ、現代の人類はさまざまな社会問題や環境問題に直面している。例えば、2020年には新型コロナウイルスが世界中で猛威をふるうなど、これまでになかったような問題も生じ始めた。
このような社会問題・環境問題を解決するための目標として提唱されたものが、本記事で解説する「SDGs(エス・ディー・ジーズ)」と呼ばれるものだ。「持続可能な開発目標」とも言い換えられるSDGsは、人々が地球で暮らし続けていくことを目的として2015年9月の国連サミットにおいて採択された。
SDGsの背景とビジネスとの関係性
国連加盟国の共通目標でもあるSDGsは、2015年になってからいきなり提唱されたものではない。下記の年表を見ると分かるように、世界の社会問題・環境問題に対してはそれ以前から議論がなされており、SDGsの枠組みは少しずつ形成されていった。
また、SDGsが採択された数ヶ月後には、フランスで開催された「COP21」においてパリ協定も採択されている。パリ協定は京都議定書をより具体化したものであり、環境問題を解決するためのプロセスや枠組み、世界共通目標などが新たに設定された。
このように、社会問題・環境問題に対する意識は世界中で強まってきており、最近では企業の寄付活動や環境への取り組みに目を向ける投資家も少なくない。さらに消費者の意識も変わりつつあるため、現代の経営者はSDGsに関する知識をしっかりと身につけておく必要がある。
SDGsの17の目標とターゲットの例
SDGsは17の目標と、各目標を深堀りした169のターゲットから構成されている。では、具体的にどのような目標やターゲットがあるのか、以下で一例を紹介しよう。
上記の通り、SDGsでは期間や数値などの「具体的な達成目標」が設けられている。一つひとつの目標を細かくチェックすると、現代社会がどのような方向に向かっているのかが分かりやすくなるため、時間に余裕のある方は169のすべてのターゲットを確認してみよう。
世界はSDGsをどう受け止めている?日本と海外の実情
人間環境宣言や京都議定書などに比べると、SDGsの目標やターゲットは細かく設定されているため、さまざまな社会問題や環境問題に効果があると感じられる。では、世界の人々や企業などは、実際にSDGsをどのように受け止めているのだろうか。
ここからは日本と海外に分けて、SDGsに関する実情を紹介していこう。
日本のSDGs達成度は18位
SDGsが採択された影響で、現代の日本では多くの企業や人々が社会問題・環境問題を強く意識するようになった。2021年にSDSN(持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)が公表した「持続可能な開発報告書(Sustainable Development Report)」によると、2021年における日本のSDGs達成度は世界で18位、過去6年間(2016~2021年)の平均順位は15.7位とされている。
SDGsに関しては日本政府もさまざまな施策を進めているため、以下で近年の取り組みを簡単に紹介しよう。
日本のSDGsに関する取り組みは「SDGsアクションプラン」をもとに進められており、このプランの内容は定期的(半年もしくは1年に1回)に見直されている。例えば、2020年12月に発表されたSDGsアクションプラン2021では、以下の4つの項目が重点事項として盛り込まれた。
【1】感染症対策と次なる危機への備え
【2】よりよい復興に向けたビジネスとイノベーションを通じた成長戦略
【3】SDGsを原動力とした地方創生、経済と環境の好循環の創出
【4】一人ひとりの可能性の発揮と絆の強化を通じた行動の加速
SDGsアクションプランに目を通しておくと、政府の方向性や具体的な施策を把握できるため、内容が更新されたら欠かさずチェックしておきたい。
SDGs達成度では北欧が上位を占める
同じくSDSNが公表した資料を参考にすると、SDGs達成度のランキング上位は北欧が占めている。なかでもフィンランドやスウェーデンの達成度(スコア)は85ポイントを超えており、日本をはじめとするアジア諸国は差をつけられている状況だ(※2021年の日本のスコアは79.8)。
日本より順位が低い先進国もいくつかあるものの、北欧やヨーロッパにおけるSDGs達成度と比較すると、日本のSDGsに関する取り組みは決して進んでいるとは言えない。国によってはSDGsの考え方が一般層にまで広く浸透しており、すでに消費活動や投資活動にも影響を及ぼしている。
特にSDGsの観点から投資先を選ぶ動きは世界的に加速しているため、日本国内の経営者にとってもSDGsは軽視できないものになってくるだろう。
欧米では何が注目されている?SDGsの世界のトレンド
SDGsが採択されてからすでに5年以上が経過しているが、特に注目度の高い欧米ではどのような取り組みが注目されているのだろうか。ここからは欧米を中心に、世界のトレンドを紹介していく。
日本にも必ず到来するグリーン・フィンテック
SDGsにおいて注目度が高い分野としては、まず「グリーン・フィンテック」が挙げられる。これは、金融と技術を融合した「フィンテック(Fintech)」に、さらに「環境保護への貢献(Green)」という観点を加えたものだ。
具体的にどのような取り組みがなされているのか、いくつか例を紹介しよう。
グリーン・フィンテックに関する取り組みは幅広い層から注目されており、例えばTrineが提供するソーラーエネルギー関連の金融商品には1万人を超える投資家が集まった。また、同プロジェクトのデフォルト率が低い(1.7%)ことからも、世界的な関心の高さがうかがえる。
グリーン・フィンテックの波は「日本にも必ず到来する」と言われているため、引き続き世界の動向をチェックしておくことが重要だ。
飲食業界では「ビーガン食」が注目の的に
肉や魚、卵、乳製品などが含まれていない「ビーガン食」も、近年の欧米で注目されている存在だ。ビーガン食をとり入れると、身体の健康状態を整えられるだけではなく、生き物の無駄な殺生や自然破壊などを抑えることができる。
このような考え方はSDGsが採択されるまでややニッチだったが、近年では欧米を中心にサステナブルな飲食店や食材店が増えてきた。例えば、イタリアのレストランである「グリーンステーション」は、穀物を中心としたヘルシーメニューを提供するだけではなく、ナイフなどの食器類にも生分解性(※土に100%還る性質)のものを採用した。
また、ビーガン食品は味気ないものが多いとされるが、その常識も覆されつつある。植物由来の代替肉をはじめ、ビーガン用の食品はバリエーションが豊富になってきており、今ではピザやパン、お菓子、調味料まで見られるようになった。
日本には浸透しづらい食文化かもしれないが、ひとつでもブームになるビーガン食が登場すれば、その状況も大きく変わるかもしれない。
ブランド力に左右される業界では「環境・人種・ジェンダー」がトレンド
商品の売れ行きがブランド力に大きく左右される業種は、SDGsにより一層力を入れている。
例えば、コスメ用品などを取り扱う美容業界では、多くのグローバル企業がSDGsへの取り組みを公開している。なかでも目立つものは、環境や人にやさしい商品をつくる「環境・人種・ジェンダー」に関連する取り組みだ。
これら3つの要素は、企業外部から見ても状況が比較的わかりやすい。つまり、ブランド力に影響を及ぼす要素であるため、美容業界では2015年以前(※SDGs採択前)にも環境や人体に配慮するスタートアップが注目されていた。
このようにブランド力が重視される業界は、将来的にSDGsが存在意義になるかもしれない。簡単に言えば「SDGsへの貢献度=ブランド力」になる可能性があるので、ブランドに左右されやすい企業は早めに計画を立てておこう。
SDGsの取り組みはなぜ必要?世の中の企業が取り組むワケ
今やSDGsは世界中で注目されているが、そもそもなぜ取り組む必要があるのだろうか。環境や社会を改善することはもちろんだが、実はSDGsに取り組むと企業には次のようなメリットが発生する。
○企業がSDGsに取り組むメリット
・イメージアップやブランド形成につながる
・製品またはサービスに付加価値が生まれる
・ビジネスチャンスや新規事業の創出につながる
・金融機関から評価され、資金調達が有利になる
逆を言えば、SDGsに消極的な企業は将来的に評価されなくなる恐れがある。その根拠を示すために、以下ではESG投資(※)に関するデータを紹介しよう。
(※)環境・社会・ガバナンスの観点から投資を行うこと。SDGsに取り組んでいる企業ほど、投資家から高く評価されやすい(詳しくは後述)。
上図の通り、2014年頃から世界のESG投資残高は大きく伸びており、2020年には35兆ドルの大台を突破した。このことから、世界中の投資資金はSDGsに貢献する企業に流れていることが分かる。
つまり、環境や社会への貢献度によって投資価値が判断されつつあるので、財務情報だけにこだわっている企業は世界から取り残されてしまうかもしれない。本当の意味での企業価値を高めるためにも、今一度SDGsへの取り組みを見直してみてはいかがだろうか。
日本企業におけるSDGsの導入事例
SDGsの考え方は世界中の投資家に浸透しつつあるため、最近ではSDGsに関する取り組みを行う国内企業も多く見られるようになった。この流れについていかないと、業種によっては競争力を失ってしまう恐れも考えられる。
ここからは日本企業の導入事例をまとめたので、特に海外進出や成長を目指している経営者はしっかりとチェックしていこう。
明確な目標を盛り込んだ6つのチャレンジ/トヨタ自動車
国内最大の自動車メーカーであるトヨタ自動車は、「人とクルマと自然が共生する社会」を目指して以下の6つのチャレンジを推進している。
「トヨタ環境チャレンジ2050」と呼ばれるこの取り組みでは、各チャレンジの具体的な目標も設けられている。例えば、上記【2】ではCO2排出量の目標が「2013年比35%削減(2030年まで)」のように設定されているため、外から見ても「目標をどれくらい達成したのか?」が分かりやすい。
このように多角的にSDGsを導入するだけではなく、明確な形で数値・期間目標を設定している点はぜひ参考にしたいポイントだ。
発展途上国における食料問題や健康問題の解決/NEC
大手電機メーカーであるNEC(日本電気)は、主に海外で持続可能な社会づくりを目指している企業だ。以下で挙げるように、NECは独自のノウハウや技術をうまく活用しながら、食料問題や健康問題の解決に貢献している。
・健康維持を目的として、チリの学校給食プログラムに給食配給管理システムを導入
・ケニアの一部地域で電子母子手帳を導入し、母子の健康や安全に子育てできる環境を推進
・食品の在庫管理や発注を効率化するために、需給を最適化するプラットフォームを開発
ケニアなどの発展途上国においては、日本では考えられない問題が日々発生している。こういった地域に目を向ければ、NECのように優れたノウハウや技術をもっていない中小企業でも、SDGsに貢献できる可能性は十分にあるだろう。
特に海外進出を目指している経営者は、世界的なアピールの意味合いも含めて発展途上国への貢献を検討しておきたい。
SDGsの促進や浸透にも貢献/滋賀銀行
地方銀行にあたる滋賀銀行は、SDGsが採択された後に以下の3つを柱とする「しがぎんSDGs宣言」を発表した。
さらに、同行は社会問題の解決を起点としたビジネスを積極的にサポートしており、SDGsの考え方を浸透させることにも貢献している。滋賀銀行のこれらの取り組みは高く評価されており、2018年の「ジャパンSDGsアワード」では特別賞に選ばれた。
一定の資金力や企画力をもつ企業であれば、この事例のようにSDGsに取り組む企業をサポートする方法もひとつの選択肢になるだろう。
中小企業がSDGsに取り組む方法・手順とは?
SDGsへの取り組みは簡単に始められるものではなく、無理に実施すると効果が表れない上に、多くの費用や時間を無駄にしてしまう。ここからはSDGsに取り組む手順をまとめたので、参考にしながら計画を立てていこう。
【STEP1】活動体制の整備
具体的な取り組みを考える前に、まずはSDGsの活動体制を整えなくてはならない。具体的な準備としては、主に以下の3つが挙げられる。
上記の中でもマッピングは特に重要性が高いため、以下で例を紹介しておこう。
○マッピングの例
・教育事業を行っている場合
直接的には「質の高い教育をみんなに」、間接的には「人や国の不平等をなくそう」に関連している。
・トラックによる運送業を行っている場合
直接的には「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」や「気候変動に具体的な対策を」など、間接的には「住み続けられるまちづくりを」に関連している。
マッピングを行うポイントは、「直接的な関連性」と「間接的な関連性」の2つを明確にすることだ。間接的な関連性まで明確にすると、中長期的に取り組むべき課題や自社のあるべき姿などを見極めやすくなる。
【STEP2】優先課題の決定
SDGsには多くの目標があるため、ひとつの企業がすべてを達成することは難しい。コストや時間を極力抑えるためにも、具体的な取り組みの前に「優先課題」を決めておくことが必要だ。
優先課題については、以下のステップを踏むとスムーズに決めやすくなる。
○優先課題を決める手順
【1】自社が貢献できそうな目標を見極める
【2】自社事業が悪影響を及ぼしている目標を見極める
【3】169のターゲットを意識し、優先課題を絞り込む
SDGsへの貢献度を高めるには、関連する取り組みを新たに始めるだけではなく、現時点で悪影響を及ぼしている工程を見直すことも必要だ。そのため、自社のバリューチェーン全体を確認し、悪影響を軽減できるような対策を考えなくてはならない(上記【2】)。
また、優先課題を絞りこむ前には、169のターゲットにも目を通すことが必要になる。17の目標だけに目を向けると、取り組みの細かい方向性がズレてしまう恐れあるので、最終決定の前には必ずターゲットも確認しておこう。
【STEP3】数値目標の策定
優先課題が決まったら、いよいよ具体的な目標や計画を策定していく。ここで言う「目標」とは、SDGsで設定されている17の目標ではなく、自社が独自で達成すべき目標のことである。
SDGsの各目標にはさまざまなアプローチの仕方があり、企業によってとるべき対策は異なる。また、対外的に進捗を公表することも必要になるため、例えば「二酸化炭素を●●%削減する」「女性社員を●●%増やす」のように自社独自の数値目標を決めなくてはならない。
では、数値目標はどのように設定すべきなのか、以下で一例を紹介しよう。
上記のフレームワーク(SMARTモデル)の項目をすべて満たすと、より明確な目標を設定しやすくなる。ひとつでも満たしていない項目がある場合は、内容をうまく調整しながら数値目標を組み立てていこう。
【STEP4】計画の策定と経営への統合
数値目標を設定した後には計画を策定するが、このプロセスでは計画をうまく経営に統合させることが重要だ。経営への統合に失敗すると、社内の部署やメンバーがスムーズに機能しなくなってしまうため、以下のような手順を踏んで慎重に作業を進めたい。
○計画を経営に統合するまでの流れ
【1】数値目標と169のターゲットを意識し、具体的なアクションプランを考える
【2】SDGsの要素を各部門や事業に組み込む
【3】ここまで決めた内容(方針や計画)を社内で共有する
本当の意味でのサステナブル企業を目指すには、SDGsに関する方針・計画を社内全体に浸透させる必要がある。そのため、上記【3】の社内共有は定期的に実施することを意識し、社内報や朝礼、イベントなどさまざまな機会を活用していこう。
【STEP5】SDGs活動の開始と改善
ここまで進んだら、ついに具体的なアクションプランを実行する。ただし、初年度から完璧なプロジェクトを作り上げることは難しいため、同時に「評価・検証・改善」を行うことも忘れてはいけない。
また、これまで行ってきた取り組み内容については、効果が分かりやすい形で公表することも必要だ。例えば、目標の達成度・進捗度をホームページなどにまとめておくと、外部へのアピールにつながるだけではなく、ステークホルダーから貴重な意見やアドバイスを受けられる可能性がある。
このように、SDGsへの取り組みは上層部だけで始めるものではなく、各部署や従業員、顧客などのステークホルダーまで巻き込んでこそ成功と言える。初年度の活動が終わった後には、反省点を活かして翌年度以降の計画を改善する必要があるため、できるだけ多方面からの意見をとり入れられる環境を整えておこう。
SDGsの計画や取り組みを成功させる5つのポイント
SDGsへの取り組みを成功させるには、ほかにも押さえておきたいポイントがいくつかある。例えば、実際の取り組みを通して正当な評価を受けるには、世界の動向を意識した上で計画を立てなくてはならない。
そこで次からは現在のトレンドなども踏まえて、世の中の企業・経営者が知っておきたい5つのポイントを紹介する。
1.ESG投資を意識した経営方針を考える
前述でも触れたが、SDGsとの関連性が強いワードとして「ESG投資」と呼ばれるものがある。これは世の中の投資家が、「環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)」の3つを軸として投資先を選ぶ手法のことだ。
ESG投資はヨーロッパやアメリカを中心に浸透しており、2018年時点でのESG投資の市場規模は約31兆ドルと言われている。日本においてもESG投資の注目度は年々高まってきており、2016年からの2年間で国内の市場規模は約3倍に膨れ上がった。
つまり、国内企業が長期的な成長を遂げるには、「ESG投資への意識」が欠かせないものになる可能性がある。SDGsに関する取り組みにはさまざまな形があるものの、海外進出や成長を目指している経営者は「環境・社会・企業統治」を軸として今後の方針を考えたい。
2.とにかく早めに行動・準備を始める
SDGsの概念を若い世代に伝える活動が世界中で進められている点も、現代の経営者が押さえておきたいポイントだ。例えば、日本では「ESD-J」と呼ばれる組織がさまざまなプロジェクトを通して、若年層に「持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Development)」を実施している。
若い世代にSDGsの考え方が浸透すれば、社会問題・環境問題に対する意識はさらに強まる可能性が高い。ESDを行う組織は世界中に存在するため、5~10年後にはESG投資が世界経済を大きく動かすようになり、SDGsへの取り組みが企業価値に直結する可能性も考えられるだろう。
このような現状を踏まえると、世の中の企業や経営者は早めに行動を起こす必要がある。社会問題・環境問題に関する目標はすぐに達成できるものではないため、SDGsやESG投資の時代が本格的に到来する前に万全の準備を整えておこう。
3.経営トップが積極的に関わる
SDGsへの取り組みは、社内の共有体制や協力体制を築いていることが大前提となる。例えば、上層部が大まかな方針だけを決めて、あとのアクションプランなどを現場に任せる方法では、本来の目標を達成することは難しい。
したがって、SDGsへの取り組みを始めるのであれば、経営トップが積極的に関わっていくことが必要になる。方針や計画の策定はもちろん、アクションプランの実行や検証にいたるまで、すべてのプロセスを社内一丸となって取り組まなくてはならない。
特に注意しておきたいのは、各部署や事業などがうまく機能したタイミングで、経営トップがSDGsから離れるパターンだ。SDGsの世界的なトレンドや動向、ルールなどは頻繁に変わるため、経営トップが離れると変化についていけなくなる恐れがある。
経営トップが本気で取り組んでこそ、社内での共有や協力、日々のブラッシュアップが可能となるため、しばらくは経営者や役員なども積極的に関わることを意識しよう。
4.目標を高くしすぎない
SDGsに目標設定は必須だが、あまりにも高い数値目標を設定すると次のような弊害が生じてしまう。
○高すぎる目標を設定するリスク
・想定以上のコストがかかってしまう
・達成度や進捗度が下がることにより、外部からの評価が下がる
・達成できる見込みがない状態が続くと、社内のモチベーションが下がる
SDGsに関する目標は、そもそも達成できるものでないと意味がない。SDGs対策に費やせるコストや時間は限られているので、あくまでも「無理のない範囲」「本業に支障がない範囲」を意識して目標設定をすることが必要になる。
特に、SDGsに慣れていない企業や優れた事例のみを参考にしている企業は、自社に見合わない目標を設定するケースが多い。このような失敗をすると、負担の増加によって本業にも支障が生じるため、プランや目標を考える際には「実現可能性」をこまめにチェックしておこう。
5.従業員のメンタルやモチベーションをケアする
実際にSDGsのプランを実行すると、想定以上に業務量や負担が増えてしまうケースは珍しくない。そのため、現場でプランを進める従業員のメンタル・モチベーションは、徹底的にケアをすることが必要だ。
特に本業との関連がないプランに取り組む場合は、SDGsを導入するとどうしても新たな業務が発生してしまう。あまりにも業務量が増えると、各従業員の生産性が下がったり離職してしまったりなどの弊害が生じるだろう。
従業員のメンタル・モチベーションをケアする手段としては、定期的にSDGsに関するアンケートをとる方法や、理解を得るための説明会を実施する方法などが挙げられる。また、業務量に見合った報酬を出すこともモチベーションにつながるので、なかでも中心的にプランを進める従業員に対しては昇給・昇進させることも検討したい。
SDGsの情報はどこから収集する?役に立つ書籍やリンク集
最近では多くのメディアがSDGsを取りあげており、さまざまなツールで情報収集ができるようになった。そのなかでも、ここからは「書籍」と「インターネット」に絞って情報収集に役立つものを紹介する。
SDGsの情報収集に役立つ書籍
まずは、SDGsの情報収集に役立つ書籍を「入門レベル・応用レベル」の2つに分けて紹介しよう。
一般的なビジネス書を読めるレベルであっても、SDGsの専門書を読みこなすことは難しいとされている。そのため、SDGsの基礎知識を十分に理解できていない場合は、入門レベルの書籍から入ることを検討しよう。
SDGsの情報収集に役立つリンク集
次は公的機関のものを中心に、SDGsの情報収集に役立つウェブサイトを紹介しよう。
国内だけでもさまざまなウェブサイトが存在するため、すべてのページに目を通すことは難しい。費やせる時間は限られているので、不足している知識や情報を補えるサイトに絞って情報収集を進めていこう。
専門家への相談もひとつの選択肢
SDGsの計画を立てている際に、既存事業への影響を不安視する経営者は少なくない。また、SDGsの目標は中長期にわたって達成するものであるため、取り組み内容や業界によっては具体的な効果を予測できないケースもあるだろう。
このような悩みを抱えたら、ひとまず専門家に相談をする方法もひとつの手だ。SDGsコンサルティングを行っている企業では、主に以下のようなサービスを受けられる。
○SDGsコンサルティングの例
・成果目標の策定
・サステナビリティポリシーの策定
・SDGs対策の必要性や効果の検証
・具体的なアクションプランの提案 など
もちろん費用はかかるが、特に企業事例が少ない業界や、本業とSDGsの紐づけが難しい企業にとって専門家は心強い存在になる。コスト次第では中長期のロードマップも作成してもらえるため、十分な知識がなくてもSDGs活動の基盤を整えられるだろう。
また、依頼コストのねん出が難しい場合は、政府や自治体が開設している相談窓口の利用を検討したい。例えば、中小機構はSDGsへの取り組みに不安を抱える企業に対して、対面・電話・オンラインで無料利用できる「SDGsに関する相談窓口」を開設している。コンサルタント会社と同程度のサービスを受けることは難しいが、公的な窓口でもプラン策定のヒントは得られるはずだ。
ただし、実際のプランを運用するのはあくまで企業であり、専門家がプロセスの全てを請け負ってくれるわけではない。専門家に相談をする場合であっても最低限の知識は必要になるので、少なくとも本記事で紹介した内容はしっかりと理解しておこう。
多くの事例に目を通し、ノウハウや技術を活かせる計画を
今回解説したように、SDGsは将来的にビジネスの軸となる可能性がある。すでに取り組みを始めている企業も少なくないため、時代に乗り遅れない企業を目指すのであれば、具体的な施策や目標を早めに考えることが必要だ。
ただし、プロジェクトによっては膨大なコストがかかってしまうため、SDGsに関する計画を立てる際には多くの事例に目を通し、自社のノウハウや技術をうまく活かせる形を模索していこう。
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