自社の規模拡大や経営方針を練る際に、「事業投資」という選択肢を選ぶ経営者も存在する。事業投資は、誰がどのような目的と行うものなのだろうか。今回は、事業投資とは何か、事業投資はどのような目的で実行されるのか、事業投資に関わるプレイヤー、事業投資の事例などを解説する。
目次
事業投資とは何か
事業投資とは、事業への投資によって利益をあげる投資方法だ。事業投資には、企業の買収、株式の購入、出資などのさまざまな形式がある。事業投資に明確な定義はなく、何かしらの事業に投資して利益をあげようとする行為全般を指すと考えれば良いだろう。
株式を購入するという事業投資に似た行為として、「株式投資(株式への金融投資)」がある。「株式を購入する場合の事業投資」と「株式投資」に明確な定義の違いはなく、どちらも「株式を購入する」という行為である。事業投資と呼ぶケースでは、一般的に、中長期目線を持って経営に介入して事業価値を高めたり、既存の事業と組み合わせたりして、結果として株式価値を高める。
事業投資はどのような目的で実行されるのか?
事業投資は、投資である以上、最終目的は原則として利益をあげることだ。では、利益にはどのような種類があるのだろうか。
キャピタルゲイン
「キャピタルゲイン」とは、保有している資産を買値より高く売却することで得られる売買差益のことだ。例えば、1,000万円で購入した資産が1,300万円になったときに売却すれば、差額の300万円(手数料や税金を除く)がキャピタルゲインとなる。なお、売却することによって損失が出た場合は「キャピタルロス」と呼ぶ。
キャピタルゲインを得るための代表的な資産が株式だ。一般的に、個人投資家が株式に投資をする際は、事業投資ではなく金融投資を呼ばれている。一方、明確な金額の区切りはないものの、投資銀行や総合商社などがある程度大きな額で株式に投資をする際は、事業投資と呼ばれる。
インカムゲイン
インカムゲインとは、資産保有中に得られる収益のことだ。代表的なインカムゲインには、株式の配当や債券の利子、不動産の家賃などがある。事業投資で対象企業の株式を一定割合確保して子会社化(グループ会社化)した場合は、その企業の売上や利益を自グループの連結決算として集計できる。
インカムゲインとキャピタルゲインは相反するものではなく、上手に投資をすれば、資産の保有期間中はインカムゲインを得て、売却時にキャピタルゲインも得られる。
新規事業の創出と既存事業とのシナジー効果
さらに、事業投資の利益として挙げられるのが、新規事業の創出と既存事業とのシナジー効果だ。既に本業や既存事業を保有しているプレイヤーが、この利益を狙って事業投資を行うことが多い。
シナジー効果がうまく発揮されれば、結果的にキャピタルゲインやインカムゲインに繋がることが多いが、本業や既存事業があった上でのメリットであることを忘れてはならない。
事業投資に関わるプレイヤー6つ
ここからは、事業投資に関わる主なプレイヤーについて解説していく。事業投資に関わる主なプレイヤーとして、以下の6つが挙げられる。
1.投資銀行
投資銀行は、インベストメント・バンキング(IB部門)とも呼ばれている。「銀行」と名前がついているが、実際は証券業の一種だ。
各社によって詳細は異なるが、国内外の事業会社、金融機関、国や政府機関、フィナンシャル・スポンサーなどに対して、債券・株式の引受、M&Aアドバイザリー、為替や金利ヘッジを含むソリューションの提案などを提供している。
投資銀行は自分の資金で株式などのトレーディングをする「自己勘定」も行うが、それは事業投資というよりは金融投資(純投資)とみなされることが多い。
投資銀行が事業投資に関わるのは、事業投資を行おうとする事業会社のアドバイザーとなってM&Aアドバイザリー業務を行う時だ。事業会社にM&Aの資金が足りないときは、債券・株式の引受を通じて資金調達の支援をすることがあり、クロスボーダー案件の場合は、為替や金利ヘッジといったソリューションを提供することもある。
2.総合商社
事業投資を行う代表格が「総合商社」であり、三菱商事、伊藤忠、三井物産、住友商事、丸紅などがある。
総合商社は、他社の株式の一定割合を購入して大株主として経営参加し、以下のように「ヒト・モノ・カネ・情報」といったリソースを投下して利益をあげようとする。
・自社の社員を経営陣として送り込む
・自社グループの物流網を活用する
・新規設備資金を投じる
・自社グループのノウハウを活用する。
総合商社は、投資先の企業価値を向上させて利益を上げることを投資目的としているが、株式を売却することもあるため、インカムゲインとキャピタルゲインの両方が発生する可能性がある。なお、配当を出しているならば」、配当もインカムゲインに該当する。
3.ベンチャーキャピタル
ベンチャーキャピタルとは、ベンチャー企業やスタートアップ企業など、高い成長が予想される非上場会社に対して出資を行い、キャピタルゲインを狙う投資会社のことだ。
主に投資した企業のIPO(新規上場)やM&Aを狙っており、出資金額に対して大きなキャピタルゲインが得られる。しかし、すべての出資先がIPOやM&Aをされるわけではない。むしろ、このような出口を迎えられるのは出資先の少数の企業だ。
非上場株式はハイリスク・ハイリターンであり、ベンチャーキャピタルは多くの企業に出資することでリスクを分散させている。出資先のほとんどで損失を出してしまっても、限られた出資先が大きく利益をもたらすことによって、トータルで損益をプラスにできる。
ベンチャーキャピタルの中には、出資先の経営コンサルや本業を支援することで企業価値を高めようとすることもある。
4.PEファンド
PEファンドとは「プライベート・エクイティ・ファンド」の略で、企業の株式に投資するファンドだ。PEファンドとベンチャーキャピタルは混同されることが多い。
ベンチャーキャピタルは、ベンチャー企業やスタートアップ企業など創業して日が浅い企業に投資することが多い。それに対してPEファンドは、潜在的な成長力を活かせていない創業して比較的時間が経っている企業への投資が多い。
PEファンドは、そのような企業に投資して企業価値を高めてから、IPOもしくは他社への売却などによってリターン獲得を目指す。PEファンドは、自己資金や投資家から集めた資金、ローンで調達した資金などによって、3~5年程度の時間軸を前提に企業を買収する。
5.事業会社
事業会社も事業投資のプレイヤーとなり得る。なお、前述の総合商社も事業会社のひとつだが、総合商社は事業投資が事業の柱となっているため、区分して紹介している。
昨今は、縮小する国内事業を補うために海外の同業他社を買収したり、自社とシナジーがある技術やサービスを持ったスタートアップ企業を買収したりする事例が目立つ。
6.個人富裕層
個人富裕層も事業投資のプレイヤーである。富裕層であっても、時価総額が大きくなりやすい上場株式に事業投資を行うのは、資金力の観点からかなり難しい。しかし、非上場株式であれば、案件によっては個人でも事業投資が可能だ。
創業して間もないベンチャー企業やスタートアップ企業にリスクマネーを供給する個人投資家を、「エンジェル投資家」と呼ぶ。個人で事業投資はできるが、最低でも1,000万円単位の投資になることも少なくない。非上場株式は流動性が低くハイリスクであることを考えると、資金に余裕がある富裕層でないと投資をするのは難しい。
事業投資の成功事例
ここからは、事業投資の事例を紹介していく。今回は、総合商社の伊藤忠によるファミリーマート(ユニー・ファミリーマートホールディングス)への事業投資を見ていこう。なお、2021年2月期のユニー・ファミリーマートホールディングスの有価証券報告書によると、伊藤忠は50%を所有する筆頭株主になっている。
伊藤忠は、1998年にファミリーマートの発行済株式総数の約30%を取得して以降、ユニー・ファミリーマートホールディングスを長期的な企業価値拡大に向けた柱のひとつと位置付けている。食料品や日用品などのさまざまなサービス分野で、横断的な取組みを推進している。
例えば、ファミマカフェは、伊藤忠が原料豆の集荷・精製工程を含めたコーディネートなどをしている。また、伊藤忠の100%子会社であり、日本最大規模の業容を誇る食品流通企業の日本アクセスは、ドライ・チルド・フローズンといった全温度帯対応の独自インフラを全国449拠点に整備して、ファミリーマートを縁の下から支えている。
いかに本業や既存事業とシナジー効果を生み出せるかを考える
今回は、事業投資とは何か、事業投資はどのような目的で実行されるのか、事業投資に関わるプレイヤー、事業投資の事例などを解説してきた。
事業投資は、キャピタルゲインやインカムゲイン、シナジー効果などを狙って、事業に投資して利益をあげる投資方法であり、事業会社やベンチャーキャピタル、PFファンドなどが行うことが多い。
中小企業経営者は、事業投資によっていかに本業や既存事業とシナジー効果を生み出し、自社の成長を高めることができるかという視点で考えるといいだろう。