本記事は、藤嶋由香さんの著書『一緒に飲みたくない客は断れ!』(ポプラ社)の中から一部を抜粋・編集しています。

史上最低の居酒屋大崩壊時代

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(画像=PIXTA)

現在、私はやきとん屋、ホルモン屋の女将として、毎日、朝締めの豚を血だらけになって捌(さば)き、おいしいホルモンをお客様にお出しすること、「美味しかったよ!」と言われることを最大の喜びとして、日々を過ごしています。

もともとサービス業が好きで、女性をきれいにするお手伝いができたらなと思い、以前はエステ店の経営を行っていました。

当時は、1人でも多くの女性に、生きる希望や活力、勇気を提供し、充実した人生を送っていただきたい──。そんな気持ちで取り組んでいました。

けれど、いつしか「もっと多くの人の笑顔に携われる仕事がしてみたい」と思うようになり、辿り付いたテーマが「食」でした。

食べることは、命をつなぐ本能的行為です。

美味しいものを食べることで、明日への活力が生まれ、みんなを笑顔にできる──。

食には、そんな力があると思ったのです。

その決心の直後、私は職人気質の板前である夫を接客面でサポートする女将としてお店に立つようになりました。

あれから12年。

ありがたいことに、店舗数も拡大し、順風満帆な日々を送っていました。

しかし、2020年に入り、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により事態は急変。人が生きていく上で欠かせない「食」を扱う職業でさえも、全否定される時代が訪れてしまったのです。

ニュースでも、連日「倒産」や「廃業」といった文字が目立つようになってきました。

ここで知っていただきたいのは、「倒産」と「廃業」は異なるということ。

「倒産」とは、会社自体がなくなることを指し、「廃業」とは、その事業のみをたたみ、会社自体は存続することを意味します。

帝国データバンクの発表によると、2020年の飲食店事業者の倒産件数は、過去最高となり、業態別で最多となったのは「酒場・ビヤホール」で、全体の24.2%もの店が倒産を余儀なくされました。

しかし、それ以上に増加しているのが休廃業の件数です。

特に東京都内では、飲み会をはじめとするビジネス利用の減少や、国や自治体による2度の緊急事態宣言と3度の営業時間短縮要請の発令があり、2020年は何とか乗り越えたものの、2021年1月にやむを得ず廃業を決断したお店も多くありました。

弊社でも、4店舗中1店舗を廃業せざるを得ない状況に追い込まれました。

緊急事態宣言に伴う営業時間短縮要請に際しては、政府から1日6万円の協力金が支給されるため、小規模店などでは「これで生き残れる」と安心しているお店もあります。

しかし、それで安心してはいられません。

次の策を考えなければ、コロナが収束した後に生き残るのは難しいと思うからです。

果たして、みんながワクチンを接種し、コロナが収束したからと、すぐに飲食店の活気が戻ってくるのでしょうか?

もちろん「戻ってほしい!」と願うばかりです。

けれど、現実問題、以前のような活気を取り戻し、お客様に安心して楽しんでいただくには、10年はかかるのではないでしょうか?正直、私はそれくらいの覚悟をしています。

このことを考えると、非常に胸が痛いです。なぜなら、私にとってお店とは「生き物」だからです。

人間が食事をしなければ餓死してしまうように、お店も開店しなければ、存在しないも同然。たとえ開店できても、お客様に心から楽しんでいただき、「また来たい」と思っていただけなければ、そこに幸せや成長はありません。

コロナ禍だからと営業もせず、ただ時が過ぎるのを待ち、ぼんやりしているようでは、あっという間にお客様の心は離れてしまいます。これは居酒屋だけでなくすべてのサービスにも当てはまると思います。

確かに今は、大変な時ですが、原点に戻れるチャンスとも言えます。

あらゆる業界がピンチに陥っている時代こそ、笑顔の集まるホットステーションが求められています。多くの業界の大崩壊時代ですが、崩壊と同時に新しい創造が生まれるチャンスでもあるのです。

一緒に飲みたくない客は断れ!
藤嶋由香(ふじしま・ゆか)
新橋のもつ焼き居酒屋「やきとんユカちゃん」店主。居酒屋経営コンサルタント・居酒屋コメンテーター。1976年、北海道室蘭市生まれ。
短大時代、モデル・歌手の道を目指し、20代の頃、クラウンレコードからジャズシンガーとしてデビューし、アルバム2枚をリリース。モデル、歌手、ホステス、エステスクール講師、エステ店経営者を経て結婚、夫が経営していた串焼屋の女将となる。
「居酒屋文化の推進」をライフワークとし、多方面にて活動中。YouTubeチャンネル「やきとんユカちゃんねる」を運営。コロナ禍による営業自粛要請と戦う「新橋一揆」や権力に対する歯に衣着せぬ発言で注目を集め、これまで100を超えるメディアから取材を受けている。
Twitter https://twitter.com/yakitonyukachan
Instagram https://www.instagram.com/yakiton_yuka_chan
Youtube https://youtu.be/UuGykaQ87D8


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