結果の概要:個人所得、個人消費ともに前月、市場予想を上回る
11月24日、米商務省の経済分析局(BEA)は10月の個人所得・消費支出統計を公表した。個人所得(名目値)は前月比+0.5%(前月:▲1.0%)と前月からプラスに転じたほか、市場予想(Bloomberg集計の中央値、以下同様)の+0.2%も上回った(図表1)。個人消費支出は前月比+1.3%(前月:+0.6%)と前月、市場予想の+1.0%も上回った。また、価格変動の影響を除いた実質個人消費支出(前月比)は+0.7%(前月:+0.3%)とこちらも前月、市場予想の+0.5%を上回った(図表5)。貯蓄率1は7.3%(前月:8.2%)と、前月から▲0.9%ポイント低下した。
価格指数は、総合指数が前月比+0.6%(前月改定値:+0.4%)と+0.3%から小幅上方修正された前月を上回った一方、市場予想(+0.7%)は下回った。変動の大きい食料品・エネルギーを除いたコア指数は前月比+0.4%(前月:+0.2%)とこちらは前月を上回った一方、市場予想(+0.4%)に一致した(図表6)。前年同月比は総合指数が+5.0%(前月:+4.4%)と前月を上回った一方、市場予想(+5.1%)は下回った。コア指数は+4.1%(前月改定値:+3.7%)と+3.6%から小幅上方修正された前月を上回った一方、市場予想(+4.1%)に一致した(図表7)。
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1 可処分所得に対する貯蓄(可処分所得-個人支出)の比率。
結果の評価:物価上昇圧力の高い状況が持続
個人所得は失業保険給付が減少したものの、賃金・給与の増加などから10月は前月比でプラスに転じた。一方、個人消費は半導体不足に伴う減産の影響から大幅なマイナスとなっていた新車販売をはじめ、広範な分野で消費増加がみられたことから、前月比で21年3月以来の伸びに加速した。
これらの結果、10月は個人所得の伸びを個人消費の伸びが下回ったことから、貯蓄率は7%台前半に低下した。足元の貯蓄率は新型コロナ流行前の水準まで低下しており、経済対策に盛り込まれた家計への直接給付や失業保険の追加給付に伴う可処分所得の押上げ効果は相当程度減退したと言えよう。
一方、FRBが物価指標としているPCE価格指数(前年同月比)は、総合指数の上昇基調が持続しており、FRBの物価目標(2%)を8ヵ月連続で上回ったほか、90年11月(+5.1%)以来およそ31年ぶりの水準となった。物価の基調を示すコア指数も9月から2ヵ月連続で上昇したほか、91年1月(+4.2%)以来の水準まで増加しており、足元で物価上昇圧力の高い状況が持続していることを示す結果となっている。
所得動向:失業保険給付は減少も、賃金・給与、利息配当収入が増加
10月の個人所得(前月比)は、移転所得が▲0.5%(前月:▲6.9%)と2ヵ月連続のマイナスとなったものの、賃金給与や利息配当収入の増加もあって全体ではプラスに転じた(図表2)。移転所得は金額ベースでは前月比年率▲195億ドル(前月:▲2,928億ドル)とマイナス幅が大幅に縮小した。新型コロナ対策として実施された失業保険の追加給付やパンデミック失業支援(PUA)、パンデミック緊急失業補償(PEUC)の期限切れに伴い、失業保険給付が前月比年率▲517億ドル(前月:▲2,553億ドル)となったことが大きい。一方、賃金・給与が+0.8%(前月:+0.9%)と前月に続いて高い伸びを維持したほか、利息配当収入が+0.9(前月:+0.2%)と前月から伸びが加速して全体を押し上げた。
個人所得から税負担などを除いた可処分所得(前月比)は、10月の名目が+0.3%(前月:▲1.3%)と前月からプラスに転じた一方、価格変動の影響を除いた実質ベースは▲0.3%(前月:▲1.6%)とマイナスが続いており、物価上昇が家計の実質購買力を減少させている状況を示した(図表3)。
消費動向:自動車・自動車部品をはじめ広範な分野で消費が増加
10月の名目個人消費(前月比)は、財消費が+2.2%(前月:+0.9%)、サービス消費も+0.9%(前月:+0.5%)といずれも前月から伸びが加速した(図表4)。
財消費は、耐久財が+3.3%(前月:+0.7%)、非耐久財が+1.6%(前月:+1.0%)となった。
耐久財では、新車販売が+8.4%(前月:▲1.6%)と6ヵ月ぶりに増加したこともあって、自動車・自動車部品が+5.0%(前月:+1.4%)と前月から伸びが加速した。また、家具・家電が+1.7%(前月:+0.1%)、娯楽財・スポーツカーが+3.6%(前月:+0.8%)といずれも伸びが加速した。
非耐久財では、食料・飲料が+0.7%(前月:+0.7%)と前月並みの伸びとなった一方、衣料・靴が+1.2%(前月:+1.0%)、ガソリン・エネルギーが+5.4%(前月:+3.4%)と伸びが加速した。
サービス消費は、医療サービスが+0.5%(前月:+0.7%)、娯楽が+1.3%(前月:+1.7%)、外食・宿泊が+0.1%(前月:+1.4%)と前月から伸びが鈍化した。一方、金融サービスが+0.6%(前月:+0.5%)と伸びが加速したほか、輸送が+1.4%(前月:▲0.7%)、住宅・公共料金が+0.6%(前月▲0.0%)と前月からプラスに転じた。
価格指数:前年同月比でエネルギーの大幅な物価押上げが持続
価格指数(前月比)の内訳をみると、エネルギー価格指数が+4.9%(前月:+1.3%)と5ヵ月連続のプラスとなったほか、前月から伸びが大幅に加速した。食料品価格指数は+0.8%(前月:+1.1%)と9ヵ月連続のプラスとなったものの、前月から伸びは鈍化した(図表6)。前年同月比は、エネルギー価格指数が+30.2%(前月:+24.8%)と8ヵ月連続の2桁上昇となったほか、前月から伸びが大幅に加速した(図表7)。また、食料品価格指数は+4.8%(前月:+4.1%)と52ヵ月連続のプラスとなったほか、こちらも前月から伸びが加速した。
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窪谷 浩 (くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員
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