手数料を引いたら最終残高はどのくらいになるか?

以上、同じ指数への株式インデックス投資でも、手数料の大半を占める信託報酬が大きく異なることについて述べてきたが、手数料の差異によって最終残高はどのような影響を受けるのであろうか?

日本株式(日経平均株価)、米国株式(S&P500)、先進国株式(MSCIコクサイ)を対象に、4つの金融・経済危機直前から毎月2万円を積立投資した場合、2021年10月25日時点の信託報酬の最安値・平均値・最高値(図表4の数値)を投資開始時から毎日差し引いた場合、それぞれ最終残高がいくらになるかを確認してみよう【図表5】。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

図表5から、時間の経過とともに、信託報酬を差し引いても最終残高は最終積立元本を大きく上回り、かなりの収益を得ることができると分かる。それぞれの株式インデックスを詳しく見てみると、手数料がない場合と同じく、4つの時点のどの時点から投資を始めても米国株式、先進国株式、日本株式の順に最終残高が大きい。

例えば、リーマン・ショック直前から投資すると、信託報酬の平均値を差し引いても最終積立元本の336万円を大きく超えた。最終残高が大きい順に米国株式1,114万円、先進国株式886万円、日本株式780万円となった。

同じ株式インデックスへ投資しても、信託報酬の違いによって長期間投資すると最終残高は大きく変わる。投資期間が短いコロナ・ショック直前からだと、信託報酬の違いによる最終残高の差はほぼない。リーマン・ショック直前からだと、信託報酬の差によって最終残高に差が出始めている。投資期間が相対的に長い日本バブル崩壊直前、ITバブル崩壊直前からだと、最終残高の差はかなり大きくなっている。

一例を挙げると、日本バブル崩壊直前から先進国株式(MSCIコクサイ)に毎月2万円を積立投資した場合では、一番安い信託報酬を差し引いた最終残高は4,090万円である一方、一番高い信託報酬を差し引いた最終残高は3,378万円で、712万円の違いが出る。

株式インデックス投資の手数料はどのくらいなのか?

長期投資では手数料によって株式インデックス投資の最終残高が大きく変わることを説明したが、より分かりやすくするために、積立投資した場合の手数料を実額で示し、投資収益のどのくらいを占めるかを見てみよう。

具体的には図表5と同様、信託報酬の現水準を過去データに遡って適用し、4つの金融・経済危機直前から毎月2万円を積立投資した場合、「信託報酬総額」と「投資総収益に占める信託報酬の割合」を試算した【図表6】。

投資期間が長くなればなるほど、2021年9月末までの「信託報酬総額」と「投資総収益に占める信託報酬の割合(以下、対収益占率)」が大きくなる傾向にあり、同時に信託報酬の違いによる差も大きくなる。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

米国株式(S&P500)インデックス型投資信託の場合だと、投資期間が短いコロナ・ショック直前からの試算では信託報酬が違っても信託報酬総額は2,000円~3,000円程度で、対収益占率も1%~3%程度に過ぎない。しかし、リーマン・ショック直前から試算すると、最安値の信託報酬0.33%の場合、信託報酬総額は34万円、対収益占率は4%だが、最高値の信託報酬0.61%の場合だと、信託報酬総額は62万円、対収益占率は8%になる。さらに、ITバブル崩壊直前から試算すると、最安値の信託報酬の場合、信託報酬総額は88万円、対収益占率は6%だが、最高値の信託報酬の場合だと、信託報酬総額159万円、対収益占率は10%にもなる。日本バブル崩壊直前からの試算では、最安値の信託報酬の場合、信託報酬総額は365万円、対収益占率は8%だが、最高値の信託報酬の場合だと、信託報酬総額は652万円、対収益占率は15%にもなる。

先進国株式(MSCIコクサイ)投資信託に投資する場合は信託報酬の違いによる差がさらに大きくなる。投資期間が短いコロナ・ショック直前からの試算でも、最安値の信託報酬0.15%の場合、信託報酬総額は0.1万円、対収益占率は1%だが、最高値の信託報酬1.05%の場合だと、信託報酬総額0.6万円、対収益占率は5%になる。リーマン・ショック直前からの試算だと、最安値の信託報酬の場合、信託報酬総額は12万円、対収益占率は2%だが、最高値の信託報酬の場合、信託報酬総額81万円、対収益占率は13%になる。さらに、ITバブル崩壊直前からの試算だと、最安値の信託報酬の場合、信託報酬総額は33万円、対収益占率は3%だが、最高値の信託報酬の場合だと、信託報酬総額219万円、対収益占率18%にもなる。日本バブル崩壊直前からの試算では、最安値の信託報酬の場合、信託報酬総額は135万円、対収益占率は4%だが、最高値の信託報酬の場合だと、信託報酬総額は847万円、対収益占率24%にもなる。

日本株式(日経平均株価)に積立投資をした場合でも、同様に信託報酬の違いによって、信託報酬総額や対収益占率の違いが大きく、長期投資になればなるほど違いが大きい。日本バブル崩壊直前から試算すると、同じ1,194万円の投資総収益の前提であっても、0.14%の信託報酬が最安の投資信託を購入すれば、信託報酬総額は44万円だが、最高値の0.88%だと、258万円も差し引かれることになる。

このように、繰り返しになるが、同一指数へ株式インデックス投資では、投資総収益がほぼ同じであるにもかかわらず、信託報酬の差によって手数料の総額が大きく異なり、実際の受取金額に思った以上に大きな影響を与えることが分かる。さらに、時間の経過とともに信託報酬の差は累積的に大きくなるため、長期投資では信託報酬に注目し、なるべく手数料が安い投資信託を選択することが大切であると思われる。

まとめ

本稿では、日本から見た代表的な4つの金融・経済危機(日本バブル崩壊、ITバブル崩壊、リーマン・ショック、コロナ・ショック)において、株価暴落直前という最悪のタイミングで毎月2万円積立投資をした場合、信託報酬を差し引いても相当の収益を得られることを確認できた。しかし、投資が上手く行き、投資元本より時価残高が大きくなっている場合、信託報酬の料率が「%」で表示されていることもあり、たいしたことないと、信託報酬等の手数料をあまり気にしていない人もいるのではないだろうか。

でも考えてほしい。日々の暮らしの中、家電製品などをオンラインで購入しようとしたら、その商品をさまざまなサイトで価格比較をする人が多いのではないのだろうか。「最も安価で買える」、「ポイントを多く貯められる」、或いは「送料無料」、「販売業者の信頼感」など、多くの要素を考慮してから実際の購入を決めた経験が少なくとも一度くらいはあるのではないだろうか。

株式インデックス投資においても同様であると言える。同一指数への株式インデックス投資では、投資総収益はほとんど同じになるが、信託報酬を含めた手数料の違いによって受取金額は大きく左右される。特に長期投資では、無視できないほどの大きな金額を手数料として投資総収益から差し引かれる。家電製品どころではない金額の違いになる。しかし、信託報酬を含めた手数料を全く気にせずに、勧められた投資信託をあまり気にせず購入している人がまだ多くいるのではないだろうか。

一部の金融グループでは同じ指数に連動するインデックス型投資信託の手数料を統一し、最低水準にそろえる動きが始まっている。また、一部の資産運用会社の間では、投資信託の手数料引き下げ競争が激しくなっている。しかし、投資信託の手数料引き下げは、既存の投資信託の手数料を下げるか、安い手数料の投資信託を新しくつくるかの二択になる。後者の場合は、既存の高い信託報酬がそのまま残り、投資家にとっては気が付かずに高い信託報酬の投資信託を購入するリスクがある。

従って、今から株式インデックス投資を始める人は、信託報酬を含めた手数料をしっかりと確認し、なるべく手数料が安く、資産残高も比較的に大きいか、資産残高が小さくても信頼できる運用会社の投資信託を選択してほしい。まずは手数料が安い「つみたてNISA対象」などの投資信託から、成長が見込める株式インデックス型投資信託を選択してみてはいかがだろうか。

(参考文献)

熊紫云「株式インデックス投資、何が良いか-先進国株、新興国株、米国株と日本株、どれを選ぶ?」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=68930?site=nli
熊紫云「株式インデックスに積立投資をしたら、どれくらい増えるのか-先進国株式、新興国株式、米国株式、日本株式で比較してみた。」
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=69272?pno=1&site=nli
水野友理那「国内外の株式投資は何から始めればよいか-外国株式インデックスファンドの基礎知識」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=65045?pno=1&site=nli


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熊 紫云 (ゆう しうん)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 研究員

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