感染状況の落ち着きから現状は上昇も、新変異株への懸念から先行きは低下

景気ウォッチャー調査
(画像=PIXTA)

12月8日に内閣府が公表した2021年11月の景気ウォッチャー調査(調査期間:11月25日から月末)によると、3か月前との比較による景気の現状判断DI(季節調整値)は56.3と前月から0.8ポイント上昇した。他方、2~3か月先の景気の先行き判断DI(季節調整値)は53.4と前月から▲4.1ポイント低下した。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

地域別でみても、現状判断DI(季節調整値)は全国12地域中8地域で上昇し、4地域で低下した。他方、先行き判断DI(季節調整値)は全国12地域全てで低下した。ただし、どの地域でも50を超えており、改善方向であることに変わりはない。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

今回の結果からは、感染者が引き続き低位で推移していることにより、景況感は引き続き改善したものの、新変異株への懸念が示された。現状判断DIの上昇の程度は減速しているが、景況感の改善の程度は2013年後半に匹敵する。また、先行き判断DIは50を超えており、先行きの見通しの改善は続いている。なお、現在の景気の水準自体に対する判断を示す景気の現状水準判断DI(季節調整値)も47.2となり、消費税率引き上げ前の2019年9月(47.3)に匹敵する。新変異株の今後の動向次第ではあるが、今後も感染者数の増加がみられない状況が続けば、景況感は引き続き改善を続けると見込まれる。ただし、新変異株や原油価格の動向など、注意する要素が存在する。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

景気の現状判断DI:飲食を筆頭に大幅改善

現状判断DIは、感染者が引き続き低位で推移していることにより、前月に引き続き改善した。回答者構成比をみても、改善と回答した割合は前月から更に増加した。

現状判断DIの内訳をみると、家計動向関連は56.5(前月差0.2ポイント)、企業動向関連は54.5(同3.3ポイント)、雇用関連は59.0(同▲0.7ポイント)であった。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

家計動向関連は、全体としては前月から小幅増であるが、その内訳では、飲食関連は前月から3.1ポイント増の68.2と景況感の大幅な改善が更に勢いを増している。現状水準判断DIでみても2018年11月以来の50超えとなり、飲食の好調さが伺える。

また、企業動向関連の上昇は3か月連続となり、半導体不足が解消に向かいつつあることへの好感が主な要因とみられる。他方、回答者のコメントからは、原油価格高騰への懸念が伺われる。雇用関連は前月から低下したが、50を大幅に上回っており、景況感は改善が続いている。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)
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(画像=ニッセイ基礎研究所)
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(画像=ニッセイ基礎研究所)

<飲食の好調さに関連した回答者のコメント>

  • 「緊急事態宣言が解除された直後は閑散としていたが、新型コロナウイルスの感染第6波も懸念されるなか、客足は徐々に増えてきている。客単価もどちらかといえば、やや高めで推移している。予約客が増えてきた一方で、立ち寄り客も多い。徐々に元の生活に戻ってきたという期待が感じられる」(近畿・一般レストラン(経営者))
  • 「今まで自粛していた客が、徐々に店に戻ってきている。企業の自粛要請も少し緩んでいるようで、複数名の予約が入るようになってきている(東京都)」(南関東・一般レストラン(経営者))
  • 「ワクチン接種率の向上に伴って新型コロナウイルスの新規感染者数が劇的に減少していることで、これまで外食を控えていた人が少しずつ外出するようになり、週末の来客数が増加している。また、夜間の営業を再開したこともプラスとなっている。景気が好転する兆しがみられ始めている」(北海道・高級レストラン(スタッフ))

<半導体不足の状況に関する回答者の主なコメント>

  • 「半導体不足の影響も少し緩和され、稼働が上がったようで受注量も若干上向いてきている。原油等の値上げも懸念材料としてあるが、このままの回復を期待している」(北関東・化学工業(経営者))
  • 「半導体不足や東南アジアからの部品の調達の停滞が落ち着き始めたため、客からの受注は最悪期を脱している」(中国・輸送用機械器具製造業(経営企画担当))

<原油価格高騰に関する回答者の主なコメント>

  • 「原油高も含め、仕入れコストが上昇しており、販売価格の値上げを進めているが、思うように価格に転嫁できない状況にあるため、景気は横ばい状態が続いている」(中国・木材木製品製造業(経理担当))
  • 「コロナ禍は収まりつつあるが、原油相場の高騰による影響で、国内の物価上昇が心配である」(近畿・その他専門店宝石)
  • 「原油価格の高騰やふだん消費する食品の値上げが相次いでいることから、家計の節約志向がみられ、消費が鈍っている」(北海道・コンビニ(エリア担当))

景気の先行き判断DI:引き続き50超えも4か月ぶりに低下

2~3か月先の景気の先行き判断DIは4か月ぶりに低下した。新変異株への懸念などから前月より低下した。ただし、50を超えており、引き続き先行きへの見通しは全体として改善を続けているが、回答者構成比でみれば、先行きは現状と変わらないとする見通しが増加しているように見受けられる。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

先行き判断DI(季節調整値)の内訳をみると、家計動向関連は54.1(前月差▲3.8ポイント)、企業動向関連は49.8(同▲3.8ポイント)、雇用関連は56.6(同▲6.5ポイント)であった。家計動向関連や企業動向関連の内訳も全て前月から低下し、新変異株への懸念の全般的な広がりが示唆される。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

回答者のコメントからは、新変異株を警戒する声が多く見られるものの、Go Toキャンペーンを含む経済対策への期待の声が聞かれた。他方で、原油価格上昇や物価上昇の懸念を指摘する声もあった。

<新変異株に関する回答者の主なコメント>

  • 「新型コロナウイルスの感染者数が少ないまま落ち着いているので、このままいってくれれば良くなる。ただし、新変異株が出てきており、その動向がどうなるか非常に心配である(東京都)」(南関東・タクシー運転手)
  • 「新型コロナウイルスの新変異株に対しての国の対策は今回は相当早かったので、今までのような大感染が起こることはないとは思うが、一人一人の感染に対する心構えがしっかりとしているため、まだまだ繁華街の夜の飲食のにぎやかさは戻らない。良くて現状と同程度とみている」(東北・一般レストラン(経営者))

  • 「Go Toキャンペーンの内容が発表され、具体的に旅行を計画する客も増加している。新型コロナウイルス変異株や感染第6波の影響が懸念されるものの、感染防止も日常となり、徐々に人との交流を考え始める客も増えているため、やや良くなると予想している」(近畿・旅行代理店(支店長))
  • 「海外からの入国規制で、安心した場の提供ができる。また、Go Toキャンペーン等の経済政策で、役所を含む企業内の規制緩和が功を奏すと思われる」(北関東・一般レストラン居酒屋)
  • 「前回の特別定額給付金のときほど特需にはならないが、今回も給付金効果が間違いなくある。ただ、飽くまで一時的なものであり、数か月すれば落ち着いていく」(九州・家電量販店(店長)「海外からの入国規制で、安心した場の提供ができる。また、Go Toキャンペーン等の経済政策で、役所を含む企業内の規制緩和が功を奏すと思われる」(北関東・一般レストラン居酒屋)

<原油価格上昇や物価上昇への懸念を指摘する回答者の主なコメント>

  • 「例年であれば良くなる傾向となるが、年始以降は物価の上昇が予想されているため、余り変わらない。新型コロナウイルス新変異株が出てきているため、仮に緊急事態宣言が発出された場合は厳しくなる」(近畿・競輪場(職員))
  • 「原油価格の高騰、円安の悪影響、新型コロナウイルス新変異株等の懸念材料が、来月辺りから購買意欲に水を差しそうである。対面販売の化粧品等の長期的な不調はいまだ続きそうで、起爆剤に欠ける展開になりそうである」(東海・スーパー(販売担当))

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山下 大輔 (やました だいすけ)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員

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