本記事は、渡辺千晶氏の著書『45歳はもうオワリですか?』(扶桑社)の中から一部を抜粋・編集しています
45歳の迷い
広川さんに話を聞いたあのカフェで「人生を変えたい」という想いを全身で感じた後、大きく人生が変わったかというと、特に私の日常に大きな変化はありませんでした。
ただ、明らかに変わったのは、広川さんと話をしてからというもの、心の中に火が灯されたように自分の人生にワクワクが芽生え始めたのです。
何だか分からないけど、何かが始まる予感というのでしょうか? しかし、その予感を100%信じているわけではありません。なんといっても当時の私は45歳です。
私にもまだ何か出来そうな気もするし、もう出来なそうな気もする。
隠居を考えるにはまだ若い。でも夢を追いかけるにはもう遅い……。
思案を巡らせてやる気になってみたり、冷静に見つめて諦めてみたり。
毎日、ワクワクと諦めの波の間を行ったり来たりしていました。私はまだいけるのか、もう諦めるべきか。答えがどこかに落ちてないかなと思う毎日を繰り返していました。
45歳になって、いきなり「好きなこと」と言われてもなかなか答えは出てきません。なぜなら、「夢とは子供が持つもの」という固定観念がありました。そもそも子供の夢を追いかけるのに夢中で、自分のことや自分の未来について考えるという発想もありませんでした。
まずは子供、子供のため、子供の活躍が自分の喜びになっていました。ですから、急に自分のやりたいことはなんだろう? と考えても何も浮かばないのです。当時の私には自慢できる趣味さえありませんでした。
好きなこと。好きなこと……。「そういえば私って何が好きなんだっけ? 昔、やりたかったことあったんじゃなかったかな?」
自分のことを考えてみると、置き去りにしてきた夢がたくさんあったことを思い出しました。それをメモに書きだしてみました。
18歳の私の夢は、CMディレクター 23歳の私の夢は、インテリアコーディネーター 27歳の私の夢は、ライフスタイリスト 30歳の私の夢は、フランス雑貨の店を持つこと
こんなにたくさん夢がありました。
家族の反対にあったり、夫の転勤で叶わなかったり、途中でやる気がなくなってしまったり、途中で忘れていたり。何ひとつ実現できないままこの歳になっていました。こんなにたくさん夢を持っていたのに、私は何一つ叶えてこなかったんだ……。
それでも書きだしたメモをじっと見つめて当時のことを思い出すと、あの頃のワクワクが蘇ってきました。
そして、これからだって私は何か出来るかもしれない、そう思える自分を感じていました。だって、いまの私には反対する家族もいません。何といっても今の仕事を退職したら、たくさんの時間ができます。子供たちも大きくなり、さほど私の出番はありません。
私、もう一度夢を追いかけてもいいのかな? 45歳からの人生に、これまで感じたことがないくらいのワクワクした気持ちになっていました。ようやく気持ちが自分の未来に向き始めたのでした。
もうあの頃のように、夢を諦めたり置き去りにする理由はないのです。
気持ちが前に向き始めた私は、これまでのパート人生に別れを告げるべく「退職届」を提出しました。それが「人生を変える」はじめの一歩でした。
退職届とゼロからの出発
自分への期待と不安を同時に抱えてモヤモヤしていた頃、本屋さんで一冊の本に出合いました。それは本田健さんの『人生の目的』(だいわ文庫)という本です。
そこには、こんなことが書かれていました。
「私はこれまで『大好きなことを仕事にしよう』という本を何冊も書いてきましたが、それはそのほうが幸せな人生を生きやすいからです。好きなことをやると、毎日が幸せ感と充実感で満たされていきます。そしてイキイキしたあなたは、魅力的になり、人やチャンス、お金を引き寄せやすくなります」
さらに読み進めてみると、
「自分の才能を使うことで社会に貢献しているという感覚が、本人を幸せにすることは間違いありません」
その本には広川さんに聞いたのと同じことが書いてありました。好きなことを仕事にしていい、自分の才能で社会に貢献する。なんという偶然なのでしょう。それでもまだ、本当にそんなこと出来るのだろうかという不安が顔を出します。いや、広川さんも確か「人を集めることが得意」と言っていたし、そして「社会に貢献」しているし、「嫌な思いもしない、むしろ楽しい」と。本田健さんと広川さん、まったく同じです。広川さんだけが言っているのではない! これはすごいことだ……。私が知らないだけで、本当に世の中にこんな世界があるのかもしれない。
私にも出来るのだろうか? ワクワク!
やってみてもいいのかな? ドキドキ!
すでに心がスキップしはじめていました。具体的に何も決まっているわけではありませんが、ほのかに人生にワクワクする自分がそこにいたのでした。
退職届を出した幼児教室の引き継ぎも終わり、晴れてフリー! というか、久しぶりの専業主婦に戻りました。
でも、以前のような時間を持て余す感じはもうありません。そしてただ繰り返される日常を送るのではなく、長いトンネルを抜け、新しい未来に向かって進み始めたような、そんな気分です。
退職した日、未来の自分への期待を込めて記念撮影(自撮り)をしたのを覚えています。そこには、これまでのような疲れや不満がすっかり消え、未来に期待している自分が写っていました。
さぁ、これからです。自分は何が得意で何が好きで何が心地良くて、何をしていると最高に楽しくて、世の中に貢献できることは何か? 自分が何をしたいのか。まずはこれを見つけることから始めることにしました。
でも正直なところ、そのときの私は何が得意で、何が好きなのか、さっぱり分かりませんでした。自分が得意なことって、自分では当たり前すぎて気づけないのです。
45歳、ゼロから出発です。
こうして毎日自分に問いかける日々が始まりました。
朝起きたら、今日の私は何がしたい? どこへ行きたい? 何が食べたくて、何を感じたい?
毎日毎日、自分に問いかけました。パート時代、ずっと言いたいことを我慢し、感情に蓋をしていた時間が長かった分、自分の五感を取り戻す時間でもありました。
感情の蓋をゆっくり開いていく作業です。こうして「本来の自分」と「自分の可能性」を見つけるためにたっぷりの時間をかけて自分と向き合いました。
ある日は美術館へ行って感動し、ある日はカフェでひたすら読書しながら号泣。ある日は映画を観に。またある日は自宅で手放したい過去と向き合いひたすら断捨離をしました。
私は何がしたいのか、感性を研ぎ澄ませる日々でした。
きっと見つかる。そう信じながら……。
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