トヨタ自動車は「EV」(電気自動車)では後れを取っていたが、EV戦略に大幅な投資を行うことを発表し、先行する米テスラや独フォルクスワーゲンなどに立ち向かう構えだ。今後、トヨタはEVで存在感を高めていけるのだろうか。
「CASE」における「E」の波
現在自動車業界で起きている変革は、「CASE」というキーワードに集約される。「C」はコネクテッド(Connected)、「A」は自動運転(Autonomous)、「S」はシェアリング(Sharing)/サービス(Service)で、最後の「E」が電動化(Electric)だ。
特にコネクテッドと電動化に関しては、すでに市販車において各社が技術革新で競い合っており、この波に乗り遅れると自動車業界における存在感の低下を招く。
ただし、現在はまだ市販車におけるEVの割合は小さい。2020年時点では、日本では1%未満、アメリカでは2%弱で、最も普及が進んでいる欧州でも5〜6%程度だ。
しかし、現在はカーボンニュートラル(※温室化ガスの排出量を実質ゼロにすること)の流れもあり、アメリカの一部の州や欧州では将来ガソリン車の販売を禁止することが検討されている。それを踏まえると、今からEVのシェアを高めておくことは非常に重要だ。
「トヨタとEV」のこれまで
これまで、トヨタは世界のメディアからEVに対して後ろ向きであると評価されていた。エンジンを搭載したHEV(ハイブリッド自動車)や水素を使ったFCEV(燃料電池車)、環境性能が高いエンジン車の開発などに注力してきたからだ。
今年、トヨタの豊田章男社長も「すべてEVにすればよいんだとか、製造業は時代遅れだ、という声を聞くことがあるが、違うと思う」を述べている。2019年に「乗ってみたい新しいクルマは?」と聞かれ、「ガソリン臭くてね、燃費が悪くても、そんな野性味溢れたクルマが好きですね」と語ったこともある。
今年11月にイギリスで開催された「国連気候変動枠組み条約締約国会議」(COP26)では、2040年までに新車販売のすべてをEVなどの「ゼロエミッション車(ZEV)」にするという宣言がなされたが、トヨタは署名を見送っている。
世界的に「完全EV化」への潮流が強くなりつつある今、トヨタに対する世界のメディアの風当たりはかなり強くなってきたようだ。
「トヨタとEV」のこれから
このような状況の中、トヨタは12月14日に「バッテリーEV(BEV)戦略に関する説明会」を開催し、トヨタの今後のEV戦略の大方針を報道陣に説明した。
まず、2030年にはEVの世界販売台数を「350万台」にするという目標を掲げた。これまでは燃料電池車(FCV)とEVの合計で「200万台」としていたが、EVのみで350万台としたのだ。
EVの製造においてはバッテリーの開発が重要になるが、研究開発費を含めて4兆円規模の資金を投じることで、他社メーカーに負けないバッテリー性能を実現するという。
ちなみに、トヨタが高級車ブランドとして展開している「レクサス」に関しては、2035年までにすべてをEV化するとしている。その前に、2030年までに欧州・北米・中国でEV比率100%を達成する計画だ。
ライバルは?テスラや中国の新興EVメーカー
トヨタが掲げたEVの新方針によって、「世界のトヨタ」を維持できるのだろうか。
「世界のトヨタ」と呼ばれ続けるには、新車販売台数で他社を圧倒し続けなければならないが、EVに関していえば米のEV最大手テスラが2030年に年間2,000万台を生産する計画を発表しており、トヨタの「2030年に350万台」という目標のインパクトはかなり小さく見える。
テスラはバッテリー開発に強みがあるだけでなく、最高経営責任者(CEO)であるイーロン・マスク氏の強いリーダーシップと先見性で生産能力の増強をフルスピードで進めており、自動運転技術にも果敢に挑んでいる。
すでにテスラは時価総額でトヨタを抜いており、株式投資家がテスラに抱く期待は、トヨタに対するそれとは比べものにならないほど大きい。
中国の新興EVメーカーも存在感を増しており、NIOやXpeng Motorsなどが販売台数を大きく伸ばしている。これらも、トヨタがEV事業で成功を果たす上で目障りな存在になりそうだ。
トヨタの未来を決するEV事業
今のところ、トヨタのブランド力は健在だ。しかし時代遅れ感が強まれば、トヨタに対する消費者の評価は次第に低くなっていくだろう。その意味でも、トヨタがEV事業で他社との競争を優位に進められるかどうかは非常に重要だ。
まずは、2022年のトヨタのEV事業の動向を注視したい。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)