企業文化とは、企業理念や価値観を基盤として企業内で醸成される信条などであり、事業の成長には欠かせない。今回は、企業文化が浸透している企業の有名な事例を紹介し、企業文化のメリット・デメリット、改革のポイントについて解説する。
目次
企業文化の重要性
企業文化(corporate culture)とは、共通目標を達成するために社員が共有する行動規範や価値観などである。企業文化の構成要素には、ミッションやバリューなどの行動指針だけでなく、企業が紡いできた歴史や所在地、市場環境などがある。
企業文化が明確化されると行動規範も定まり、社員は自己規律を持って行動できる。迷いが減るため、労働生産性も向上するだろう。
CSRなど社外に対して果たすべき役割も明確になるほか、価値観の同じ社員同士ならばコミュニケーションも円滑になるはずだ。
企業文化の事例8選
ここからは企業文化の事例を紹介する。企業文化の方向性を決める際の参考にしてほしい。
企業文化の事例1.トヨタ自動車
トヨタは、グループ会社の増加による企業規模の拡大にともない、従業員に対する企業文化の継承が不十分となる可能性があった。そのため、創業当時から継承されている豊田綱領を明文化し、トヨタの中核理念として今日までフィロソフィーコーンの頂点に据えている。
事業拡大はなおも続き、1992年にはトヨタ基本理念を明文化して、企業文化の醸成に役立てている。また、コロナ禍や電気自動車の需要拡大などの市場変化に合わせて、トヨタで働く社員に向けて10の行動指針を明文化したトヨタウェイ2020を策定した。
自動車業界最大手として紡いできた歴史を企業文化として定着させながら社内外に示している。
企業文化の事例2.ソニー
創業者の井深大氏は、技術者が技能を十二分に発揮できる工場の建設や、顧客満足度の高い製品の商品化などを掲げてソニーを設立した。
企業理念は、「場」を使ったブランドコミュニケーションで顧客に感動を届けることだ。そのために、3IN(Inviting、Inspiring、Interweaving)のコンセプトを設定している。
オープンマインドを持って余白を大事にし、イノベーションを通して好奇心を刺激するような価値を提供したいとしている。
経営者が変わり事業内容が拡大・変化する中で収益を拡大させているのは、3INを前提に社員が一丸となって行動しているからなのだろう。
企業文化の事例3.メルカリ
メルカリは、フリマアプリサービスによってフリーマーケットを誰でも手軽に行えるようにした。世界的なマーケットプレイスの創出をミッションに掲げ、限りある資源を循環させる社会を目標にしている。メルカリの価値観は大きく3つ掲げられており、社員の行動指針となっている。
①Go Bold:大胆にやろう
➁All for One:全ては成功のために
➂Be a Pro:プロフェッショナルであれ
社員に向けて企業文化がわかりやすく明文化されており、事業拡大の基盤となっていることがわかる。
企業文化の事例4.リクルートホールディングス
リクルートHDは、人材ビジネスや「じゃらん」「ホットペッパー」などのメディア事業を展開している。ビジョンとして「Follow Your Heart」を掲げ、自分らしい人生を自分で決めるために、人や組織に関わることを目標としている。
ミッションでは、「まだ、ここにない、出会い」が掲げられた。個人と企業のつなぎ役となって、出会いの実現に最適な選択肢をシンプルかつ速く提供しようとしている。
バリューでは、社員のアイデアや情熱といった個の尊重をはじめとして、新しい価値の創造や社会貢献を大切にしている。人を基盤とした企業文化の醸成が見て取れるだろう。
企業文化の事例5.アマゾン
EC事業で世界最大手のアマゾンは、時代の変化を作り出しただけでなく、コロナ禍においても巣ごもり需要などから売上が拡大している。
成功の源泉は、失敗を恐れずに行動する企業文化だろう。顧客満足を第一としてイノベーションを起こし続けている。
「Leadership Principles」という16の原則は、個々の社員がリーダーの自覚を持って最大の成果を出していく基盤となっている。
企業文化の事例6.ファーストリテイリンググループ
ユニクロを運営するファーストリテイリンググループは、「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」というステートメントを軸に、ミッションやバリュー、行動規範を明文化した。
ミッションによると、新しい価値が付与された本当に良い服を着る幸せを世界中に届け、地域や社会と調和しながら企業の発展を目指していくという。
バリューと行動規範では、企業や社員としてのあり方を具体的に示した。顧客重視の視点や社員の個を尊重しつつ、革新や挑戦を続けて成長していくとしている。
企業文化の事例7.ザッポス
アパレル通販サイトのザッポスは、創業からわずか10年で年商1,000億円を超えた。ビジョンとして10のコアバリューを掲げている。
特に有名なのは、「サービスによって驚きの体験を届ける」だ。社員の行動に細かい制限を設けず、顧客満足を優先する考え方である。
ほかにも、謙虚さやファミリー精神、オープンマインドなど、企業の行動指針をわかりやすい言葉で明文化している。
企業文化の事例8.Netflix
Netflixは、インターネット動画のサブスクリプションサービスだ。基本理念には「プロセスより社員を重視」という考え方がある。この理念が、柔軟性や楽しさ、創造性をはじめ、最終的な成功をもたらす要因になると期待されている。
バリューとして、企業が重視する社員の行動について、無私の心や判断力、誠実さなどが掲げられた。価値観が社員の行動規範となり、バリューから外れた言動には社員がノーと言える企業文化が根付いている。
企業文化を浸透させるメリット・デメリット
企業文化を浸透させると、社員がやるべきことを理解し、事業活動の効率性が高まる。また、企業に必要な人材も明確になり、採用活動の一貫性も高まる。
しかし、企業文化に対する強い執着があると、社員が変化を生む行動を取れなくなり、イノベーションが生まれにくくなる可能性がある。そのほか、企業文化に共感できない社員が離職してしまう恐れもある。
企業文化の改革に必要な3つのポイント
企業文化は、時代や市場に必ず適合するとは限らない。事業規模の拡大やマーケットの変化などに合わせて、改革が必要になることもある。企業文化の改革に必要なポイントを確認しておこう。
ポイント1.時代や環境への適合性を見直す
企業文化が現代に適合しているか、経営者や役員のレベルで見直す必要がある。近年、日本では働き方改革が施行され、世界ではSDGsが目標として共有されている。
大きな変化にともない、ミッションやバリューに新項目を加えたり、表現を変更したりする必要も生じた。場合によっては、行動指針の中核となるビジョンも見直さなければならないだろう。
ポイント2.従業員の満足度を調査する
従業員の満足度アンケートなどを通して、社員の企業文化に対する認識や今後の企業文化の方向性について、意見を集めることも重要だ。
企業文化は社員と一緒に創り、共有することで定着していく。企業文化の改革も社員と一緒に行わなければならない。
ポイント3.組織構造や人材配置を見直す
企業文化の改革には、固定化された組織や人員配置の見直しが必要になることもある。
ジョブローテーションの実施による人材の流動化がよい例だろう。企業文化をあらためて醸成させる土壌の構築が重要だ。
企業文化の事例を参考に自社の現状を見直そう
企業文化は一朝一夕で構築されるわけではなく、醸成された企業文化もいずれは改革が必要になる。企業文化の事例でも、トヨタやソニーなどは事業拡大や歴史の変化に応じて、企業文化に関わる社員の行動指針を見直してきた。
企業文化のメリットを活かすには、企業文化を社員と一緒に醸成させる意識が重要である。今回紹介した事例を参考に自社の企業文化を振り返ってみてはいかがだろう。
文・隈本稔(キャリアコンサルタント)