この記事は2022年2月14日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「英国GDP(2021年10-12月期) ―― 回復は続いたがコロナ禍前には届かず」を一部編集し、転載したものです。

目次

  1. 1 ―― 結果の概要:前期比1.0%と回復が続くがコロナ禍前には届かず
  2. 2 ―― 結果の詳細:オミクロン株の感染拡大と「プランB」で12月はマイナス成長

1 ―― 結果の概要:前期比1.0%と回復が続くがコロナ禍前には届かず

英国GDP
(画像=denisismagilov/stock.adobe.com)

2月11日、英国国家統計局(ONS)はGDPの一次速報値(first quarterly estimate)および月次GDPを公表し、結果は以下の通りとなった。

【2021年10-12月期実質GDP、季節調整値)】
・前期比は1.0%、予想(*1)(1.1%)より下振れ、前期(1.0%)と同じだった(図表 - 1
・前年同期比は6.5%、予想(6.4%)より上振れ、前期(7.0%)から減速した

【月次実質GDP(10-12月)】
・前月比は10月0.1%、11月0.7%、12月▲0.2%となり、11月まではプラス成長が続いたが、12月はマイナス成長に転じた

英国GDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

(*1) bloomberg集計の中央値。以下の予想も同様。


2 ―― 結果の詳細:オミクロン株の感染拡大と「プランB」で12月はマイナス成長

英国の21年10-12月期の実質成長率は前期比1.0%(年率換算3.9%)となり、4-6月期から3四半期連続でのプラス成長となった。その結果、暦年成長率では21年で7.5%(20年▲9.4%)となった。実質GDPの水準はコロナ禍前(19年10-12月)と比べて▲0.4%となった。ユーロ圏主要国と比較すると、フランスより回復は遅れているが、ドイツ、イタリア、スペインよりは回復が進んでいるという位置にある(図表 - 2)。

月次GDPでコロナ禍後の動きを追うと(図表 - 3)、21年は8月以降11月まで4か月連続で回復が継続していたが、オミクロン株の感染拡大で、公共の場でのマスク着用、在宅勤務の推奨、大規模イベントでのワクチン接種証明といった感染防止策の強化(いわゆる「プランB」)を導入した12月はマイナス成長(前期比▲0.2%)に転じている(*2)。

英国GDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

部門ごとの12月の月次GDPの水準は、コロナ禍前と比較して、農林水産部門が▲12.3%、生産部門(鉱工業)が▲2.6%、建設部門が▲0.4%、サービス部門が+0.3%であり、サービス部門はコロナ禍前を上回っている。対して生産部門では、医薬品生産や金属生産が堅調な一方、自動車生産や機械・設備生産については供給制約による伸び悩みが見られる。

図表 - 4には21年10-12月の月次GDP(19年12月比)をより細かい産業分類で示している。12月はオミクロン株の感染拡大と「プランB」の導入で住居・飲食業を中心に落ち込んでいる(コロナ禍前比▲8.0%)点に特徴がある。

英国GDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

成長率を需要項目別に確認すると、10-12月期では、個人消費が前期比1.1%(7-9月期2.9%)、政府消費が同1.9%(▲0.0%)、投資が同2.2%(▲0.2%)、輸出が同4.9%(▲4.7%)、輸入が同▲1.5%(3.6%)となった。コロナ禍前比では、個人消費が▲0.5%、政府消費が9.9%、投資が▲1.8%、輸出が▲18.0%、輸入が▲9.2%だった。また、純輸出の前期比寄与度は1.62%ポイント(▲2.21%ポイント)だった。

個人消費はコロナ禍前の水準に近づいてきたが、投資水準は低く、EU離脱後の貿易量も少なさも目立つ。

最後に名目GDPを確認すると、10-12月期は前期比1.5%(7-9月期は1.4%)となり、主要項目のすべてで前期比プラスとなっている(図表 - 5)。

英国GDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

(*2) 12月の月次GDPの水準はコロナ禍前(19年12月)と比較して▲0.2%だった。ONSは月次GDPでは総付加価値(GVA、生産面)のみを推計するのに対して、四半期のGDPでは生産面、所得面、支出面をそれぞれ推計した平均が反映されているため、コロナ前と比較した水準感にも差異が生じており、また生産面の推計値は大きくなりやすい傾向がある点を指摘している。


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高山 武士(たかやま たけし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員

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