この記事は2022年02月07日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「米雇用統計(2022年1月) ―― 雇用者数(前月比)はオミクロン株の感染拡大の影響が懸念されたが、市場予想を大幅に上回る」を一部編集し、転載したものです。

米雇用統計
(画像=PIXTA)

目次

  1. 1 ―― 結果の概要:雇用者数は市場予想を上回った一方、失業率は前月から上昇
  2. 2 ―― 結果の評価:オミクロン株の感染拡大も、堅調な雇用増加ペースの継続を確認
  3. 3 ―― 事業所調査の詳細:娯楽・宿泊業をはじめ広範なサービス部門で堅調な伸びが持
  4. 4 ―― 家計調査の詳細:労働参加率が20年3月以来の水準に上昇

1 ―― 結果の概要:雇用者数は市場予想を上回った一方、失業率は前月から上昇

2月4日、米国労働省(BLS)は1月の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+46.7万人の増加(*1)(前月改定値:+51.0万人)と、+19.9万人から大幅に上方修正された前月を下回ったものの、市場予想の+12.5万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を大幅に上回った(後掲図表 - 2参照)。

失業率は4.0%(前月:3.9%、市場予想:3.9%)と、こちらは前月から+0.1%ポイント上昇し、市場予想を上回った(後掲図表 - 6参照)。労働参加率(*2)は62.2%(前月:61.9%、市場予想:61.9%)と前月から+0.3%ポイント上昇し、前月、市場予想を上回った(後掲図表 - 5参照)。


(*1) 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。 (*2) 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失 業者数を合計したもの)の比率。


2 ―― 結果の評価:オミクロン株の感染拡大も、堅調な雇用増加ペースの継続を確認

1月の非農業部門雇用者数はオミクロン株の感染拡大による影響が懸念されたものの、市場予想を大幅に上回る伸びを示した。また、雇用の伸び鈍化が懸念されていた過去2ヵ月分も後述するように合計で+70.9万人上方修正されており、昨年の春先以降は堅調な雇用増加ペースが持続していることを確認した。

一方、1月の失業率は7ヵ月ぶりに上昇に転じたものの、労働参加率が前月比+0.3%ポイントと大幅に上昇し、20年3月(62.7%)以来の水準に改善するなど労働供給の回復を背景にしており、必ずしも労働市場の悪化を意味しない。

時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比が+0.7%(前月改定値:+0.5%、市場予想:+0.5%)と、20年12月(+0.9%)以来の伸びとなり、+0.6%から小幅下方修正された前月、市場予想を上回った。前年同月比は+5.7%(前月改訂値:+4.9%、市場予想:+5.2%)と、こちらは20年5月(+6.7%)以来の水準となり、+4.7%から上方修正された前月、市場予想を上回った(図表 - 1)。

米雇用統計
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このようにみると、1月はオミクロン株の感染拡大による労働市場への影響が懸念されたものの、堅調な雇用増加ペースが継続したことに加え、労働参加率にも改善がみられるなど、労働市場への影響が限定的となっていることを確認する結果となった。一方、賃金上昇は加速しており、労働需給は引き続き逼迫しているといえよう。

3 ―― 事業所調査の詳細:娯楽・宿泊業をはじめ広範なサービス部門で堅調な伸びが持

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+44.0万人(前月:+44.1万人)と概ね前月並みの伸びを維持した(図表 - 2)。

米雇用統計
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民間サービス部門の中では、医療・社会扶助サービスが前月比+1.6万人(前月:+3.2万人)と前月から伸びが鈍化した一方、娯楽・宿泊業が+15.1万人(前月:+16.3万人)、専門・ビジネスサービスが+8.6万人(前月:+8.8万人)と伸びは鈍化したものの、堅調な伸びを維持した。また、運輸・倉庫が+5.4万人(前月:+2.5万人)、小売業が+6.1万人(前月:+4.0万人)と伸びが加速した。

財生産部門は前月比+0.4万人(前月:+6.2万人)と前月から伸びが鈍化した。製造業が+1.3万人(前月:+3.2万人)と伸びが鈍化したほか、建設業が▲0.5万人(前月:+2.6万人)とマイナスに転じた。

政府部門は前月比+2.3万人(前月:+0.7万人)と前月から伸びが加速した。内訳をみると、連邦政府が▲0.1万人(前月:▲0.9万人)とマイナス幅が縮小したほか、州・地方政府が+2.4万人(前月:+1.6万人)と伸びが加速して全体を押し上げた。

前月(12月)と前々月(11月)の雇用増加数(改定値)は前月が+51.0万人(改定前:+19.9万人)と+31.1万人上方修正されたほか、前々月は+64.7万人(改定前:+24.9万人)と+39.8万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+70.9万人の上方修正となった(図表 - 3)。

なお、今月は昨年の年次改訂も発表され、6月分と7月分がそれぞれ▲41万人、▲40万人下方修正されたほか、前述のように11月と12月分が大幅に上方修正されたほかは概ね小幅な改訂となった。この結果、修正幅は月平均で+1.8万人となった。

BLSの公表に先立って2月2日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比▲30.1万人(前月改定値:+77.6万人、市場予想:+18.0万人)と前月からマイナスに転じて、+80.7万人から下方修正された前月、市場予想を大幅に下回った。この結果、ADP社の統計は堅調な雇用の伸びを維持した雇用統計と不整合な動きとなった。

1月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が31.63ドル(前月:31.40ドル)となり、前月から+23セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.5時間(前月:34.7時間)と前月から▲0.2時間減少した。この結果、週当たり賃金は1,091.24ドル(前月:1,089.58ドル)と前月から増加した(図表 - 4)。

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4 ―― 家計調査の詳細:労働参加率が20年3月以来の水準に上昇

家計調査のうち、1月の労働力人口は前月対比で▲13.7万人(前月:+16.8万人)と4ヵ月ぶりにマイナスに転じた(*3)。内訳を見ると、失業者数が+13.5万人(前月:▲48.3万人)とプラスに転じたものの、就業者数が▲27.2万人(前月:+65.1万人)と失業者数を上回るマイナス幅となり労働人口を押し下げた。非労働力人口は+23.1万人(前月:▲6.0万人)と3ヵ月ぶりにプラスに転じた。労働参加率は62.2%と21年9月の61.7%を底に上昇基調に転じており、20年3月以来の水準となった。(図表 - 5)。

一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は1月が82.0%(前月:81.9%)と前月から+0.1%ポイント上昇した。男女の内訳は、男性が88.2%(前月:88.0%)と前月から+0.2%ポイント上昇したほか、女性が76.0%(前月:75.9%)と+0.1%ポイント上昇した。女性の改善は4ヵ月連続となっており、学校再開に伴い子育て世代の労働市場への再参入が増加した可能性が考えられる。

1月の失業率は7カ月ぶりに上昇したが、前述のように労働参加率の改善を伴っており、必ずしも労働市場の悪化を意味しない(図表 - 6)。

米雇用統計
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1月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は169.1万人(前月:200.8万人)となったほか、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは25.9%(前月:31.7%)と前月から▲5.8%ポイント低下した(図表 - 7)。平均失業期間は24.6週(前月:28.6週)と前月から▲2.0週短期化した。

最後に、周辺労働力人口(152.6万人)(*4)や、経済的理由によるパートタイマー(371.7万人)も考慮した広義の失業率(U-6)(*5)は、1月が7.1%(前月:7.3%)と前月から▲0.2%ポイント低下した(図表 - 8)。また、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.1%ポイント(前月:+3.4%ポイント)と前月から▲0.3%ポイント縮小した。

米雇用統計
(画像=ニッセイ基礎研究所)

(*3) 2022年から人口推計を変更しているため、2021年と断層が生じている。ここで記載している労働力人口、就業者数、失業者数、非労働力人口はこの断層を調整した後のもの
(*4) 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
(*5) U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。


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窪谷 浩 (くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員

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