企業にとっての上場廃止を考える

東京証券取引所に上場することは、国内企業にとっては一つのステイタスである。当然上場後は経営規模の拡大を目指すことになるだろう。その中で毎年いくつかの企業が、さまざまな事情から上場廃止に至っている。その理由は何だろうか。

上場廃止に至る理由

上場廃止に至った企業の上場廃止理由をみてみると、主に以下に挙げるような内容に分類できる。

・破産や倒産などにより上場基準を満たせなくなる
・親会社による完全子会社化
・第三者による買収
・企業合併による会社消滅
・株式の併合
・MBO(Management Buyout:マネジメント・バイアウト)
・経営戦略上の上場廃止

企業の経営悪化以外では、買収や合併による上場廃止があり、この場合には該当する企業が存在しなくなるため、上場企業のリストから外されることになる。また経営効率化などにより、企業が親会社に組み込まれる場合にも上場廃止が行われる。

その一方で、敵対的買収を防衛する場合などに、経営陣が株主から自社株を買い上げて、自らの経営権を強化する目的で行われるのがMBOによる上場廃止である。さらに経営立て直しのために上場廃止を行う企業もある。

いずれにしても、上場廃止は企業の価値を下落させるかもしれないが、場合によっては将来の経営を見すえた上場廃止の可能性もある。企業経営者も株主も、この点を理解しておく必要があるだろう。

上場廃止の基準

上場廃止基準は上場審査基準と同様に、東京証券取引所により厳密に規定されている。上場廃止基準は、上場の基準を満たさなくなった企業に対する指標であり、主に経営悪化による上場廃止が対象になる。

上場廃止基準にはさまざまな要件があり、非常に細かい点にまで解釈が及んでいるが、特に重要な要件として以下の四つを挙げておこう。

・債務超過(1年以上債務超過が継続した場合)
・破産、再生、更生手続きの開始
・事業活動の停止
・銀行取引の停止

これらの要件以外にも、株主数、株式時価総額、売上高などが上場廃止基準に抵触すると、東京証券取引所により上場廃止が行われる場合がある。近年では企業体質や社会的責任への貢献なども重視されるので注意が必要だ。また、東証一部・二部、マザーズなどの各市場によっても要件が異なるため、詳細は東京証券取引所の上場廃止基準で確認しておくべきだろう。

上場廃止の進め方

企業と株主の双方にとって上場廃止で注意すべき点は、ほとんどの場合株価が暴落するケースになるため、上場廃止に至る流れをつかみ、移行期間内に適切な対策を講じることである。

自主的に上場廃止を申請する場合以外には、その企業が上場廃止基準に抵触しそうになった時点で、東京証券取引所により「監理銘柄」に指定される。株式は通常の方法で売買できるが、監理銘柄に入ることによって市場に危険度が公開される。

この段階で上場廃止基準に抵触する恐れが回避できれば、監理銘柄を解除されるが、できない場合には「整理銘柄」に指定されて上場廃止が決定する。指定日から1ヵ月間は引き続き株式の売買が可能で、株価が大きく動くことが多い。上場廃止決定後から1ヵ月、こうして株式の売買が終了して当該企業は上場廃止に至る。

企業戦略としての上場廃止

さて、経営悪化以外の理由で上場廃止を行う場合、特に経営戦略の一環として上場廃止を行うことにはどのような意味があるのだろうか。

まず一つめの理由として考えられるのは、企業にとっての経営自由度を高めることである。企業経営では運営者側の経営陣と、出資者側の株主とが明確に分けられているが、最近では株主が経営に介入するケースが増えている。これは経営陣からすると負担になる。

そこで経営陣は上場廃止をすると共に、MBOなどの手法により自社の株式を買い上げることで、部外者の介入を抑えて経営の自由度を高めることができるわけだ。この方法は、経営の立て直しなどにも活用される。

もう一つの理由が上場を維持するコストである。上場を維持するためには、上場手数料や監査費用などのいわゆる上場コストがかかる。このコストと上場によるメリットを比較して、費用対効果の面から上場廃止を決める企業もあるのだ。

上場廃止のメリットとデメリット

企業があえて上場廃止を実行する理由には、前述したように経営戦略の一手段という側面がある。それ以外にも、企業買収のリスクを回避するために、上場廃止によって外部からの影響力を最小限に抑えられるというメリットも生じる。

一方で上場廃止には、企業経営にとって見過ごせないデメリットも伴う。まず、取引先・金融機関と従業員に対して、その理由を説明して理解を得なければならない。それが成功しないと、経営上で大きなダメージを被ることになるだろう。

株式が非公開になるということは、資金調達の手段が制限されることでもある。当然今までのように、幅広く投資を募ることはできなくなる。さらに、上場廃止は企業ブランドの低下を招き、社会的な信用を失う要因にもなり兼ねない。上場廃止にあたっては、そのメリットとデメリットとを比較して、十分な検証と検討を重ねなければならない。