上場廃止の事例と影響
これまで解説してきた上場廃止のさまざまなポイントを総括して、上場廃止が行われた場合の影響について、最後に実例を交えて紹介しておこう。
最近行われた上場廃止の事例
日本取引所グループによると、2021年の1年間で上場廃止となった株式銘柄は86にも及ぶ。その中から特に認知度の高い企業と、上場廃止の理由を挙げてみよう。
・日本通運(完全子会社化)
・沖縄銀行(完全子会社化)
・大塚家具(完全子会社化)
・オンキョーホームエンタテイメント(債務超過)
・東京ドーム(株式の併合)
・日立キャピタル(合併)
・沢井製薬(完全子会社化)
・よみうりランド(株式の併合)
上場廃止の理由で最も多いのが、「完全子会社化」である。その次に多いのが「株式の併合」で、これは同一企業の複数の株式を1株に統合することである。株価が変更されるため、株式の資産価値は変わらない。株式併合の目的はいくつか考えられるが、主に1株の価値を高める場合に行われる。
これらの理由での上場廃止は、企業の経営戦略の一つかもしれない。その一方で「債務超過」のように、明らかな経営悪化による上場廃止は、86の銘柄の内でわずかに二つだけである。上場廃止=経営悪化という一般のイメージは、現実とはかなりのズレがあるようだ。
上場廃止後の株式はどうなる?
上場廃止に伴って懸念されることは、企業にとっては対外的な信用が下がることだろう。取引先や金融機関との信頼関係に傷がついたり、企業のブランドイメージが低下したりすると、資金調達が難しくなるなど経営に悪影響が出るかもしれない。このようなリスクを避けるためには、上場廃止のメリットとデメリットとを比較して、企業の戦略を決定する必要があるだろう。
一方で株主にとっては、保有する株価の下落が最も大きな問題になるはずだ。一般的には経営悪化による上場廃止の場合、株価は大きく下落することが予想される。それ以外の理由による上場廃止では、その後の企業の将来性などの条件により価格が変動する可能性がある。通常は投資リスクが高まるため、株式に価値がある間に売ってしまうことが多い。
「上場廃止=危ない会社」ではない
最近の事例からも分かるとおり、明らかに経営危機から上場廃止に至るケースは極めて少ない。中には経営悪化を表面化せず、別な理由で上場廃止をする企業もあるかもしれないが、多くのケースでは経営戦略の一端として行われているようだ。
こうした状況は、企業が置かれているビジネス環境の変化とも関連しているのかもしれない。いずれにせよ、上場廃止=危ない会社と即断することは避け、その企業が何を目的に上場廃止を決めたのか、十分に検証することが必要ではないだろうか。