『英サッカーのチェルシー売却へ ―― ロシアの富豪アブラモビッチ氏』
こんな見出しがブルームバーグのヘッドラインに並んだのは2022年3月4日のことだった。サッカーのイングランド・プレミアリーグの強豪チェルシーを所有するロシアのビリオネア(億万長者)のロマン・アブラモビッチ氏がクラブの売却に動いていると記事は伝えていた。アブラモビッチ氏は30億ポンド(約4,600億円)でチェルシーを売却したい考えで、売却益の受け皿となる慈善財団を設立し、ウクライナの戦争犠牲者に寄付する意向を明らかにしていた。
事態が急変したのは3月10日のことだ。英国政府がアブラモヴィッチ氏に対し、資産凍結と渡航禁止令などの制裁を発表。チェルシーは事実上政府の管理下に置かれ、仮に売却されるとしても、アブラモビッチ氏には利益が渡らないようになる見通しである。
ブルームバーグ・ビリオネア指数によると、アブラモビッチ氏の純資産は2月27日時点で139億ドル(約1兆6,060億円)となっている。アブラモビッチ氏はロシアのプーチン大統領に「近い人物」とされており、かねてより西側諸国による資産凍結の可能性が指摘されていた。
ちなみに、欧米諸国が2月26日に合意したロシアへの追加措置には、ロシアの新興財閥や政府当局者、企業などの「資産の特定と凍結」に向けた作業部会の設置が盛り込まれており、このなかにはロシアのビリオネアが西側で所有するヨットやジェット機、乗用車、高級マンションなども含まれる。興味深いのは、プーチン大統領がウクライナへの軍事侵攻の2週間前に、所有するスーパーヨット「グレースフル」をドイツの造船所からロシアのカリーニングラードに移動させていたことが、海上追跡サイト「マリン・トラフィック」のデータから判明したことだ。「プーチン大統領は欧米当局による資産凍結を見越していた」との憶測も囁かれる。
今回は「ロシアのビリオネア(Russian Billionaires)」の話題をお届けしよう。