この記事は2022年2月18日(金)にSBI証券で公開された「<「日本株投資戦略」特選>「インフレ」「金利上昇」「ウクライナ問題」で保有したい銘柄は!?」を一部編集し、転載したものです。
日経平均株価は、2022年2月14日(月)に616円49銭安、2月15日(火)に214円40銭安と波乱の展開。インフレ進展、金利上昇への懸念がくすぶり続けていることに加え、ウクライナ問題で緊張が高まったことが大幅続落の要因と考えられる。
ロシア・ウクライナ国境から「ロシア軍の一部が撤収した」と伝えられ、2月16日(水)の日経平均株価は595円21銭高と大幅反発したが、続く2月17日(木)には反落するなど、不安定な展開だ。
米国は「国境付近のロシア軍は逆に増えている」とみており、緊張は緩和されていないようだ。投資家としては、どのような銘柄を保有することで、現在の投資環境に対応すればいいのだろうか。
目次
「ウクライナ問題」は長期化し「インフレ」「金利上昇」に備えたポートフォリオが必要に?
インフレ、金利上昇に対する市場の懸念は継続している。2月10日(木)に発表された米国の1月CPI(消費者物価指数)は前年同月比プラス7.5%と、市場コンセンサス(プラス7.2%)や前回数値(プラス7%)を大きく上回り、インフレ圧力の強さを裏付けた。
世界的な商品市況の値動きを示すCRB指数も上昇基調が続いており、2014年11月以来の高値水準。また、鋼材や非鉄金属、燃料など主要製品の卸値をもとに算出される日経商品指数17種も依然、最高値近辺だ。
世界的にインフレが進行している理由を改めて整理すると、以下の通りであると考えられる。
(1)多くの国・地域での大規模経済対策、緩和的金融政策などを背景とする家計の貯蓄増・純資産増。その結果としての消費増
(2)同時に多くの国・地域で経済活動が再開され、エネルギーやサービス・モノへの需要が短期間で拡大
(3)拡大する需要に対する供給不足。新型コロナウイルスの感染拡大を経て生産や物流に関わる人手が減少
(4)脱炭素の動きが進み、石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料の生産設備などに対する投資マインドが冷え込んだ
(2)の要因は一時的な要素が強く、近い将来に解消が期待できそうだ。しかし、(3)や(4)については構造的な問題が含まれており、インフレの長期化をもたらす可能性がありそうだ。
(1)に関しては、インフレ進行に歯止めをかけるべく、世界で中央銀行が金融政策の転換を試み始めている。特に注目されているのはFRB(米連邦準備制度理事会)の動向である。
FRBは2022年3月までに量的緩和(QE)を終わらせ、その後は政策金利の引き上げ、さらには資産の縮小(QT)に移っていくとの見方が支配的だ。金利先物市場では、2022年内の利上げ回数を6回(1回につき0.25%)と織り込んでいるようだ。
ウクライナ問題はこうしたインフレ進展、金利上昇懸念を加速させる要因と考えられる。ロシアとウクライナ、西側諸国の間には歴史的な事情があり、短期間に完結することは至難の業で、結局は当面の妥協点を探るほかないと考えられる。投資家としては、インフレ進展や金利上昇に備えたポートフォリオを構築しておく必要がありそうだ。
下に載せた図表1は、世界の輸出(2020年)に占めるロシアの比率が高い品目で、ロシアやウクライナ・西側諸国との紛争が激化・または長期化した場合に、供給減少などで価格上昇が懸念される品目だ。
図表2はこれらに関連する主要コモディティの値動きを示したもの。
これらの価格が上昇した時に連動して上昇する傾向があるETF(上場投資信託)や外国株を保有することで「インフレ進展のリスクをヘッジすることが可能だ」と思う。
詳細は、2月16日(水)付の特集レポート「ウクライナ情勢で注目! ロシアの影響が大きいコモディティと関連銘柄」をご参考いただければと思う。
参考:SBI証券>「ウクライナ情勢で注目!ロシアの影響が大きいコモディティと関連銘柄」
「ウクライナ問題」が長期化し「インフレ進展」や「金利上昇懸念」が続いた場合、株価が上昇しやすい日本株銘柄については、次項で説明しよう。
▽図表1:世界の輸出に占めるロシアの比率が高い主要品目(%、2020年)
注:原油、ガス、石炭は生産量により、それ以外は輸出金額による。国際貿易センター、ブリティッシュペトロリアム公表資料などのデータをもとにSBI証券が作成
▽図表2:関連する主要コモディティの値動き
注:NYMはニューヨークマーカンタイル取引所、 CMXはシカゴマーカンタイル取引所、LMEはロ ンドン金属取引所、CBTはシカゴ商品取引所、 ICEはインターコンチネンタル取引所。BloombergデータをもとにSBI証券が作成。2022年1月1日~2月16日午前10時時点
「インフレ」「金利上昇」「ウクライナ問題」で保有したい銘柄は?
世界の輸出に占める比率で、石炭は17.8%と高い。年初来の価格上昇率も主要品目の中で突出して大きくなっている。石炭の関連銘柄としては、日鉄鉱業(1515)、三井松島ホールディングス(1518)、日本コークス工業(3315)があげられる。
インフレ進展や金利上昇(指標としては米10年国債利回り)に強い銘柄としては、過去の「日本株投資戦略」、下の[あわせて読みたい]にて紹介しており、その中で主要銘柄を図表3でご紹介しています。ただ、運輸関連・自動車部品関連銘柄など、原油価格上昇等がコスト高につながりやすい業種もあり、それらは今回除いています。
[あわせて読みたい]
(1)「インフレ」「金利上昇」は長期化するのか? その場合の投資対象は?
(2)「インフレ」「金利上昇」で上昇期待の銘柄は?
(3)金利上昇・波乱が予想される相場でも株価上昇が期待できそうな銘柄は?
金利上昇に強い銘柄を検討するときは2つの視点がある。
1つは金利上昇(今回は米10年国債利回り)との相関係数が高い銘柄が有望とみられ、[あわせて読みたい]の(1)と(2)で重視している。
一方、財務体質が堅固でPBRが低い(金利上昇局面で相対的に買われやすいバリュー株の側面が強い)銘柄は、(3)のレポートで注目した。ちなみに、(3)で紹介した銘柄のうち、2月17日(木)時点でPBRが0.8倍未満の銘柄を、今回は図表3に再掲載している。
なお、米10年国債利回りとの相関係数が高い業種として「銀行」がよく知られている。銀行は、平成バブル崩壊後も長いデフレ局面で、不良債権問題に苦しんだ経緯があり、インフレの方が経営はしやすい業種とも考えられる。インフレ進展、金利上昇局面では幅広く銀行株も市場で注目を集めると予想される。
特に注目の銘柄を紹介
三井物産株式会社 ―― インフレヘッジ銘柄で再評価? 2007年10月以来の高値水準(分割考慮後)に
資源・エネルギー等の権益に強い大手総合商社
同社は大手総合商社で、三井グループの中核的企業だ。金属資源(前期売上構成17%)、エネルギー(同10%)、鉄鋼製品(同5%)、機械・インフラ(同10%)、化学品(同24%)、生活産業(病院・ヘルスケア穂ほか、同30%)の各分野において、全世界に広がる営業拠点とネットワーク、情報力などを活用している。
多種多様な商品販売と、それを支えるロジスティクス、ファイナンス、さらには国際的なプロジェクト案件の構築など、各種事業を多角的に展開している。
資源やエネルギーなど上流権益に強く、鉄鉱石、原油・ガスでは国内首位。鉄鉱石事業では豪州において、リオ・テントおよびBHPビリトンなどと事業を拡大している。
2022年3月期第3四半期累計(2021年4~12月)の連結業績(IFRS)は、収益8兆5,894億円(前年同期比49.6%増)。2022年3月期(通期)の連結業績予想は純利益8,400億円(前期比2.5倍)。第3四半期決算発表時に従来予想の7,200億円から引き上げられた。さらに、予想1株配当も従来の95円から105円に上方修正された。
総合商社の中でも「インフレ」「金利上昇」への強さは最右翼?
上記したように、事業内容面で資源・エネルギーに強いためか、CRB指数との相関係数は総合商社の中で最も高く、それのみならず、原油や米長期金利との相関係数も、ほかの総合商社に比べて高い。
今期会社予想PER(2月17日現在)は6倍、同予想配当利回り(同)は3.39%で、典型的なバリュー銘柄でもある。ただ、予想配当利回りは住友商事の5.75%に比べると低い。投資家が重視する投資指標により、投資先が変わってもよいと考える。
株価的には昨年末以降、上昇相場が続いており、そのトレンドは維持されているように思われる。
▽三井物産株式会社の値動き
期間:2021年8月25日〜2022年2月18日午前11時時点(日足)。チャートツールを用いてSBI証券が作成。上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません
三菱瓦斯化学株式会社 ―― メタノールやアンモニアに展開、「脱炭素」も支援材料か?
川上から川下まで幅広く展開~半導体材料に注目
同社は大手化学メーカーで、暮らしに密着したメタノール、アンモニアなどの基礎化学品から高機能な機能化学品まで幅広く展開。世界にグループ会社147社を抱え、海外売上高が59%(前期)に達するグローバル企業。
メタノールについては、当社が「世界で唯一のメタノール総合メーカー」で、天然ガスを原料に製造し、そこからプラスチック、合成繊維、接着剤等多種多様な製品を生産している。二酸化炭素からメタノールを生産する技術を持ち、環境保全への貢献も目指している。
機能化学品の中では、BT(ビスマレイミド・トリアジン)樹脂が注目されている。耐熱性や電気特性に優れた材料で、半導体パッケージに材料面で革新的な変化をもたらした。今後は半導体市場の成長に加え、パッケージ基板の高機能化や構造変化などがあり、成長の持続が期待されている。
このほか、MXナイロン、光学樹脂ポリマー、MXDA(メタキシレンジアミン)、脱酸素剤など、多くの世界シェア1位製品を有していることが、同社の強みになっている。
SBI証券企業調査部では「買い」を継続
同社は2月8日(火)に2022年3期第3四半期(累計)決算を発表。売上高5,252億円(前年同期比22.7%増)、経常利益583億円(同75%増)。メタノールの市況上昇や、半導体向けBT樹脂の好調などが追い風になった。
好調な四半期決算を受け、通期の会社計画売上高は6,900億円から7,000億円(前期比17.5%増)に、経常利益は680億円から730億円に上方修正された。
今期、第3四半期末の自己資本比率は61%で好財務体質。有利子負債は944億円だが、現預金845億円を保有するうえ、流動比率(流動資産が流動負債の何%かを示す)が216%あり、金利上昇に強い財務体質といえそうだ。
この銘柄については、当社企業調査部もレポートを作成。直近では2月15日(火)に目標株価を3,200円から3,300円に引き上げ、投資判断は「買い」を継続するとしている。
▽三菱瓦斯化学株式会社の値動き
期間:2021年8月25日~2022年2月18日午前11時時点(日足)。チャートツールを用いてSBI証券が作成。上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません
▽当記事の内容について、著者が動画で詳しい解説を行っています。あわせてご視聴ください。
・出身:東京(下町)生まれ埼玉育ち
・趣味:ハロプロの応援と旅行(乗り鉄)
・特技:どこでもいつでも寝れます
・好きな食べ物:サイゼリヤのごはん
・好きな場所:秋葉原(末広町)
ラジオNIKKEI(月曜日)、中部経済新聞(水曜日)、ストックボイス(木曜日)、ダイヤモンドZAIなど、定期的な寄稿も多数