この記事は2022年1月21日にSBI証券で公開された「<波乱続く株式市場>「インフレ」「金利上昇」は長期化するのか? その場合の投資対象は?」を一部編集し、転載したものです。


SBI「インフレ」「金利上昇」は長期化するのか? その場合の投資対象は?2
(画像=PIXTA)

株価は世界的に波乱の展開だ。日経平均株価は2021年の8月20日(金)以来の安値水準まで下げてきた。当面は金利上昇やインフレ進行を前提とした銘柄への投資を増やす方が賢明かもしれない。

今回の日本株投資戦略では、「金利上昇」や「インフレ」という投資環境について整理して説明するとともに、それが長期化した場合、株価上昇期待の大きい銘柄を改めて紹介しよう。

目次

  1. 1.「インフレ」「金利上昇」は長期化する可能性も
    1. 1.1. 金利上昇に強い銘柄は?
    2. 1.2. インフレに強い銘柄は?
  2. 2. 掲載銘柄の投資ポイント
    1. 2.1. 抽出銘柄解説(1) ―― 株式会社INPEX
    2. 2.2. 抽出銘柄解説(2) ―― 三井物産株式会社
    3. 2.3. 抽出銘柄解説(3) ―― 三菱瓦斯化学株式会社

1.「インフレ」「金利上昇」は長期化する可能性も

世界的にインフレが進展している。1月12日(水)に発表された、12月の米CPI(消費者物価指数)は、前年同月比で7%の上昇。上昇率は1982年6月の7.1%以来、39年6ヵ月ぶりの高さとなった。世界的な商品市況の値動きを示すCRB指数も上昇基調で、約7年ぶりの高値水準。

こうした中、インフレ進行に歯止めをかけるべく、世界の中央銀行が金融政策の転換を試み始めている。FRB(米連邦準備制度理事会)は本年3月までに量的緩和(QE)を終わらせ、そのあとは政策金利の引き上げ、さらには資産の縮小(QT)に移っていくとの見方が支配的になっている。

新型コロナウイルスは、新たな変異株「オミクロン株」へ置き換わり、再び感染が拡大。企業が生産や物流にたずさわる人手を確保することは難しく、供給不足は長期化の様相を呈している。ここにきて、自動車最大手のトヨタ(7203)は、工場の一部停止に追い込まれている。

また、世界的に脱炭素への動きが進み、石油や石炭に天然ガスなどの生産設備に対する企業の投資マインドが冷え込んでいる。そのため、化石燃料の生産能力はあまり増えていないとみられ、資源・エネルギー分野の市況上昇も長期化しやすくなっている。金利上昇、インフレは長続きするかもしれない。

こうした流れを嫌気し、株価は世界的に波乱の展開。日経平均株価は昨年8月20日(金)以来の安値水準まで下げてきた。当面は金利上昇やインフレ進行を前提とした銘柄への投資を増やす方が賢明だろう。

1.1. 金利上昇に強い銘柄は?

金利上昇(象徴として米10年国債利回り)に強い銘柄としては、保険や銀行などの金融株が代表的だ。ネットキャッシュ比率が高く、財務体質が堅固な銘柄も投資対象になりそう。また、金利上昇時の有力銘柄のタイプとしては、PERやPBRが低く、あるいは予想配当利回りが高い「バリュー株」が選好されやすい。

逆に、PERやPBRが高い「グロース株」は売られやすい。指数でいえば、NYダウやTOPIXは相対的に買われやすく、ナスダックや東証マザーズ指数は相対的に上がりにくい。

1.2. インフレに強い銘柄は?

金利上昇に加え、インフレに強い銘柄はどのような銘柄だろうか。米長期金利の上昇に加え、CRB指数(商品価格の変動を示す代表的な指標)やWTI先物との相関関係が強い銘柄を、下の図表で紹介する。

時価総額1,000億円以上の東証1部銘柄を母集団とし、過去10年の月足データをベースに計算。相関係数が対CRB指数、WTI先物、米10年国債利回りのすべてに対して、0.4以上の値を取っている銘柄を掲載している。

なお、ここで強調したいのは、「インフレ懸念で上昇しやすい銘柄はここで紹介しているものだけではない」という点。日経平均株価もTOPIXも、CRB指数との相関化係数は0.3以上と計算されている。市場が「金利上昇」や「インフレ」という新しい環境に慣れてくれば、株価全体は上昇局面に戻ると「日本株投資戦略」では、考えている。

CRB指数、原油先物、米10年国債利回りの上昇に強いとみられる銘柄 CRB指数、原油先物、米10年国債利回りの上昇に強いとみられる銘柄
(画像=SBI証券)
「図表1」の銘柄の主要指標
(画像=SBI証券)

2. 掲載銘柄の投資ポイント

この項では、図表1で抽出した銘柄について、投資ポイントなどをご紹介します。

2.1. 抽出銘柄解説(1) ―― 株式会社INPEX

原油・天然ガスの開発専業。資源開発としては国内最大手。原油・天然ガス生産では世界中堅クラス。2006年4月に国際石油開発と帝国石油による共同持株会社「国際石油開発帝石ホールディングス」として設立された。2008年10月には傘下の国際石油開発、帝国石油を吸収合併、2021年に商号を国際石油開発帝石から現社名へ変更し、現在に至る。

権益取得から、探鉱、生産、製品販売に至るまでグローバル規模でエネルギー供給を担っている。新規開発に積極的で、筆頭株主は経済産業大臣で国策会社としての側面がある。

売上構成比(2020年12月期)は、原油66%、天然ガス32%。原油は連結子会社が手掛けるアラブ首長国連邦の海上油田が主力。天然ガスでは、豪州での生産が2019年にスタートしている。

2021年12月期、第3四半期累計(2021年1月〜同9月)の連結業績は、売上高が8,492億円(前年同期比43.3%増)、営業利益が4,024億円(同2.1倍)、最終損益が1,377億円の黒字(前年同期は1,254億円の赤字)となっている。原油価格の上昇が寄与した。市況(ブレント)は平均1バレル=67.97ドルと会社前提(前年同期は42.53ドル)で推移している。

2021年12月期の連結業績予想(会社予想)は、売上高を1兆1,340億円から1兆2,200億円(前期比58.2%増)に、営業利益を5,130億円から5,880億円(同2.4倍)に、最終損益を1,700億円の黒字から1,850億円の黒字(前期は1,117億円の赤字)に引き上げた。年間配当予想は40円(前期は24円)を据え置いた。

当社株はインフレ関連指標や米長期金利との相関係数が強く「インフレ」に強そう。上の図表2で示したように、典型的なバリュー株であることが現在の相場環境では追い風になりそうだ。一方「脱炭素」が重視される流れは逆風になる。

▽株式会社INPEXの値動き

INPEX(1605)
(画像=SBI証券)

期間:2021年7月28日〜2022年1月21日(日足)。当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません

2.2. 抽出銘柄解説(2) ―― 三井物産株式会社

大手総合商社で、三井グループの中核的企業。金属資源(前期売上構成17%)、エネルギー(同10%)、鉄鋼製品(同5%)、機械・インフラ(同10%)、化学品(同24%)、生活産業(病院・ヘルスケアほか、同30%)の各分野において、全世界に広がる営業拠点とネットワーク、情報力などを活用。

多種多様な商品販売と、それを支えるロジスティクス、ファイナンス、さらには国際的なプロジェクト案件の構築など、各種事業を多角的に展開している。

資源やエネルギーなど上流権益に強く、鉄鉱石、原油・ガスでは国内首位。鉄鉱石事業では豪州において、リオ・テントおよびBHPビリトンなどと事業を拡大している。

2022年3月期、第2四半期累計(2021年4月〜同9月)の連結業績(IFRS)は、収益5兆4,162億円(前年同期比46.2%増)、純利益4,046億円(同3.7倍)。金属資源をはじめ、生活産業、機械・インフラ、鉄鋼製品、化学品などが増益だった。

2022年3月期(通期)の連結業績予想は、純利益7,200億円(前期比2.1倍)。第2四半期の決算発表時に、従来予想の6,400億円から引き上げられた。

資源・エネルギーに強いため、CRB指数との相関係数は総合商社の中で最も高い。それのみならず、原油や米長期金利との相関係数も、他の総合商社に比べて高い。

2022年1月20日現在、今期市場予想PERは6.49倍、予想PBRは0.91倍、市場予想配当利回りは3.39%。典型的なバリュー銘柄だ。しかし、予想配当利回りは住友商事の4.88%に比べると低い。投資家が重視する投資指標により、投資先が変わってもいいだろう。

株価的には昨年末以降、上昇相場が続いており、そのトレンドは維持されている。

▽三井物産株式会社の値動き

三井物産(8031)
(画像=SBI証券)

期間:2021年7月28日〜2022年1月21日(日足)。当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません

2.3. 抽出銘柄解説(3) ―― 三菱瓦斯化学株式会社

大手化学メーカー。暮らしに密着したメタノール、アンモニアなどの基礎化学品から、高機能な機能化学品まで幅広く展開。世界に147のグループ会社を抱え、海外売上高が59%(前期)に達するグローバル企業。

メタノールについては、世界で唯一のメタノール総合メーカーで、天然ガスを原料に製造し、そこからプラスチック、合成繊維、接着剤など、多種多様な製品を生産している。二酸化炭素からメタノールを生産する技術を持ち、環境保全への貢献を目指している。

機能化学品の中では、BT(ビスマレイミド・トリアジン)樹脂に注目。耐熱性や電気特性に優れた材料で、半導体パッケージに材料面で革新的な変化をもたらした。今後は半導体市場の成長に加え、パッケージ基板の高機能化や構造変化などがあり、成長の持続が期待されている。

この他、MXナイロン、光学樹脂ポリマー、MXDA(メタキシレンジアミン)、脱酸素剤など、多くの世界シェア1位製品を有していることが強みだ。

2021年11月5日(金)に2022年3期・第2四半期(累計)決算を発表。売上高は3,358億円(前年同期比26%増)、経常利益387億円(同134.3%増)。メタノールの市況上昇や、半導体向けBT樹脂の好調などが追い風になった。

好調な上半期決算を受け、通期の会社計画売上高は6,600億円から6,900億円(前期比15.8%増)に、経常利益は610億円から680億円に上方修正された。

今期、第2四半期末の自己資本比率は63.3%で好財務体質。有利子負債は891億円だが、現預金884億円を保有するうえ、流動比率(流動資産が流動負債の何%かを示す)は245%あり、金利上昇に強い財務体質といえる。

1月20日(木)現在、市場予想EPSを基準とした予想PERは8.45倍、予想PBRは0.8倍弱、予想配当利回りも3.72%になっており、典型的なバリュー株。テクニカル的には75日移動平均線を突破し、新たにそこが下値支持ラインになっている。また、下から上昇している25日移動平均線は次の下値抵抗ラインになりそうだ。

▽三菱瓦斯化学株式会社の値動き

三菱瓦斯化学(4182)
(画像=SBI証券)

期間:2021年7月28日〜2022年1月21日(日足)。当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません

▽当記事の内容について、著者が動画で詳しい解説を行っています。あわせてご視聴ください。

鈴木 英之
鈴木 英之
SBI証券 投資情報部長
・出身:東京(下町)生まれ埼玉育ち
・趣味:ハロプロの応援と旅行(乗り鉄)
・特技:どこでもいつでも寝れます
・好きな食べ物:サイゼリヤのごはん
・好きな場所:秋葉原(末広町)
ラジオNIKKEI(月曜日)、中部経済新聞(水曜日)、ストックボイス(木曜日)、ダイヤモンドZAIなど、定期的な寄稿も多数

[関連記事 SBI証券より]
<保存版!?>「インフレ」「金利上昇」で上昇期待の銘柄は?
<日経平均が乱高下!>金利上昇・波乱が予想される相場でも株価上昇が期待できそうな銘柄は?
<日株戦略特選!>来年度大幅増益・株価上昇期待の銘柄は!?
<決算発表がほぼ終了!>銘柄選別の季節に勝ち残り、株価が上昇しそうな銘柄は!?
<株高期待の19銘柄>決算発表で業績予想の上方修正・株高が期待される銘柄とは