この記事は2022年1月14日に「きんざいonline:週刊金融財政事情」で公開された「21年は個人が日本株を10年ぶりに買い越し」を一部編集し、転載したものです。


21年は個人が日本株を10年ぶりに買い越し
(画像=PIXTA)

個人投資家は2021年に、現物市場で株式を2,812億円買い越した。年間での買い越しは、11年以来10年ぶりである。

過去との違いは、株価上昇の中で買い越したことである。過去に買い越しとなった2008年と2011年のTOPIXはそれぞれ41.8%、18.9%下落したが、2021年は10.9%上昇した。つまり今回は、過去に景気・業績悪化により株価が下落する局面で、個人が消去法的に買い主体となったパターンとは異なる(図表)。

背景には、まず、高い株価が公募増資や新規株式公開(IPO)といったエクイティーファイナンスを抑制していることがある。

過去、株価が上昇するとエクイティーファイナンスが明らかに増加し、個人は保有株式を売却し、得た資金で新規公開の株式などを購入することが少なくなかった。この場合、流通市場の統計に「売り」は含まれるが「買い」は含まれず、統計上、個人の売り越しが増える。

ただ2015年以降、上場企業の自社株買い実施額はエクイティーファイナンス額を上回っている。2021年の場合、自社株買いが5.56兆円、エクイティーファイナンスが転換社債やIPOを含めて3.65兆円である(11月時点)。上場企業は資本コストを意識して自社株買いによる株主還元を積極化しており、安易なエクイティーファイナンスを行う状況にはない。個人は保有株式を無理に売却する必要がなくなった。資本コストへの意識に表れているコーポレートガバナンスの改善が、個人の株式買い越しの一因である。

個人投資家層の拡大も寄与していよう。東京証券取引所によれば、個人株主数は延べ人数で2014年度の4,582万人から2020年度に5,981万人まで増加した。特にネット証券の口座数の増加が顕著である。

それにもかかわらず、個人の主体別売買代金シェアは大きく上昇しておらず、2000年以降、18~35%のレンジ内にとどまり、2021年も24.8%である。過去、ネット取引を行う個人は短期の売買益を狙うデイトレーダー的な投資家が多かったが、資産形成の対象として国内株式に投資し、長期的に保有する個人が増えている可能性がある。

日本証券業協会によれば、株式を保有する個人の割合は2021年に13.3%と、3年前の12.2%から上昇した。株式に興味を持っている個人の割合も16.1%から18.1%に上昇している。また、株価上昇も相まって、金融資産保有世帯の株式保有額は過去のピークを更新した(金融広報中央委員会)。こうした傾向が続けば、個人の資金が日本株の動向を決める局面が訪れるかもしれない。

21年は個人が日本株を10年ぶりに買い越し
(画像=きんざいOnline)

三菱UFJ信託銀行 受託運用部 チーフストラテジスト / 芳賀沼 千里
週刊金融財政事情 2022年1月18日号

(提供:きんざいOnline