この記事は2022年03月17日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「資金循環統計(2021年10〜12月期)~個人金融資産は2,023兆円と初めて2,000兆円を突破、海外勢の国債保有高が初めて預金取扱機関を上回る」を一部編集し、転載したものです。
目次
1 ―― 個人金融資産(2021年12月末):前期比では24兆円増
2021年12月末の個人金融資産残高は、前年比87兆円増(4.5%増)の2,023兆円となり、6期連続で過去最高を更新した*1。年間で見た場合、資金の純流入が44兆円に達したほか、円安・株高の進行を背景に時価変動*2の影響がプラス43兆円(うち株式等がプラス27兆円、投資信託がプラス10兆円)も発生し、残高を押し上げた。
四半期ベースで見ると、個人金融資産は前期末(9月末)比で24兆円増と7期連続で増加した。例年、10〜12月期は一般的な賞与支給月を含むことから資金流入が進む*3。今回は例年をやや上回る26兆円の資金流入があった。一方、この間に株価が弱含んだことで、時価変動の影響がマイナス2兆円(うち株式等がマイナス6兆円、投資信託がプラス3兆円)発生し、資産残高増加の抑制に働いた(図表 - 1~4)。
なお、家計の金融資産は、既述のとおり10-12月期に24兆円増加したが、この間の金融負債は3兆円の増加に留まったため、金融資産から負債を控除した純資産残高は9月末比で21兆円増の1,658兆円となった(図表 - 5)。
ちなみに、足元の1-3月期については、一般的な賞与支給月を含まないことから、例年、10兆円前後資金流出が進む傾向がある。今年はオミクロン株の拡大・まん延防止等重点措置の発令による消費の抑制(貯蓄の押し上げ)があったとみられるが、それでも小幅な資金流出と推定される。また、ウクライナ情勢緊迫化等によって株価が大きく下落したことも個人金融資産の目減りに繋がっているはずだ。ただし、こうした要因を考慮しても、株価が急落しない限り、3月末時点の個人金融資産残高は2,000兆円台を維持する可能性が高い。
*1: 今回、確報化に伴い、2021年7〜9月期の計数が遡及改定されている。
*2: 統計上の表現は「調整額」(フローとストックの差額)だが、本稿ではわかりやすさを重視し、「時価(変動)」と表記。
*3: コロナ前である2016~2019年10〜12月期の平均は19.3兆円増
2 ―― 内訳の詳細: 家計のリスク性資産への投資が進む
10〜12月期の個人金融資産への資金流出入について詳細を確認すると(図表 - 6)、例年同様、季節要因(賞与の有無等)によって現預金が純流入(積み増し)となった。その規模は昨年をやや下回ったものの、19兆円に達したため、12月末の現預金残高は1,092兆円(前年比35兆円増)と過去最高を更新している。内訳では、流動性預金(普通預金など)への純流入(19兆円)が進んだ一方、定期性預金は純流出(4兆円)となった(図表 - 7)。
定期性預金からの純流出は24四半期連続で、この間の累計流出額は69兆円に達している。この結果、定期性預金が個人金融資産に占める割合は19.4%まで低下している。一方で、この間の流動性預金への資金流入は207兆円に達しており、流動性預金が個人金融資産に占める割合は28.9%にまで上昇している(図表 - 8)。預金金利がほぼゼロであるにもかかわらず、引き出し制限があって流動性の低い定期性預金からの資金流出には歯止めがかかっていない。定期性預金の残高は未だ392兆円もあるため、今後も大幅な資金流出が避けられない。
次に、リスク性資産への投資フローについては、代表格である株式等が0.6兆円の純流入(前年同期は2.6兆円の純流入)となったほか、投資信託も2.1兆円の純流入(前年同期は0.6兆円の純流入)となった(図表 - 6)。株式は例年、節税のためとみられるが、10〜12月には純流出(売り越し)となる傾向があり、純流入は稀だ。また、投資信託の純流入は7四半期連続で、2兆円を超える純流入は2015年4〜6月以来のこととなる。外貨預金や対外証券投資が純流出になるなどバラツキはあるものの、総じてみれば、家計のリスク性資産への投資が一定進んだと評価できる。在宅勤務や世界経済の回復期待が追い風となって、一部の家計が敷居の低い投資信託を中心として投資に前向きになっている可能性がある。
なお、その他資産では、未収金が4兆円も発生し、フローの増加に大きく寄与している点が目立つ。一時的な収入と推測されるが、様々なものを含むだけに詳細は不明。
3 ―― その他注目点: 家計の資金余剰は高止まり、海外勢の国債保有が預金取扱機関を上回る
昨年一年間の資金過不足を主要部門別にみると(図表 - 10)、家計部門の資金余剰額が36兆円と過去最大であった前年(41兆円)からはやや縮小したものの、過去2番目の高水準を維持した。コロナ禍の長期化に伴って、消費が抑制されたことが余剰額を押し上げている。民間非金融法人の資金余剰額は収益改善などからやや拡大している。
一方、コロナ対策の財政出動が続いたことを受けて、政府部門の資金不足額は34兆円(前年47兆円)こそ下回ったものの、コロナ前の約3倍の水準にある。
12月末の民間非金融法人の借入金残高は9月末から4兆円増加、債務証券残高も5兆円増加した(図表 - 11)。一方で、民間非金融法人の現預金残高は319兆円と、過去最高であった9月末(321兆円)から1兆円減少している。
なお、10-12月期の民間非金融法人による対外投資状況(フローベース)を確認すると、対外直接投資は2.2兆円と、7-9月期の2.9兆円からやや減少した(図表 - 12)。依然としてコロナ禍前の5年平均(2015~19年・3.7兆円)をやや下回っている*4。
12月末時点の国債(国庫短期証券を含む)残高は1,220兆円で、9月末(1,219兆円)からほぼ横ばいとなった。
主な経済主体の保有状況を見ると(図表 - 13)、最大保有者である日銀の国債保有高は530兆円と9月末から8兆円減少し、全体に占めるシェアも43.4%(9月末は44.1%)と若干低下した。コロナ流行後に大量に買い入れた国庫短期証券が償還を迎えていることが背景にあり、長期国債の残高は引き続き増加している。
また、銀行など預金取扱機関の保有高は9月末比2兆円減の163兆円となり、全体に占めるシェアも13.4%(9月末は13.5%)と若干低下している。
一方、海外部門の保有高は9月末比11兆円増の175兆円となり、シェアも0.9%ポイント増の14.3%となった。残高、シェアともに過去最高を更新し、初めて預金取扱機関を上回った。インフレ懸念やそれに伴う金融引き締めによって金利が上昇(債券価格が下落)するリスクが燻る米国債などを避け、金利上昇リスクの低い日本国債へ資金を振り向ける動きが続いたとみられる。
*4: 2019年1〜3月期の対外直接投資額は10.6兆円と突出しているが、これは国内製薬大手による総額6兆円の大型海外M&A完了という特殊要因が影響したものと推測される。
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上野 剛志(うえの つよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席エコノミスト
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