1 ―― 3月短観予測:オミクロン・供給制約・原材料高が逆風になり、景況感は幅広く悪化
1 ―1 大企業非製造業の景況感も悪化へ
4月1日に公表される日銀短観3月調査では、長引く供給制約や原材料価格の高騰が逆風となり、注目度の高い大企業製造業の業況判断DIが10と前回12月調査から7ポイント下落すると予想する(表紙図表 - 1)。景況感の悪化は7四半期ぶりのこととなる。大企業非製造業も、国内でのオミクロン株の感染拡大と原材料価格の高騰を受けて、業況判断DIが4と前回調査から6ポイント下落すると見込んでいる。
前回の昨年12月調査*1では、半導体等の部品不足や原材料価格上昇が重荷となり、大企業製造業の景況感が横ばいに留まった一方で、緊急事態宣言解除に伴う人流回復が追い風となった大企業非製造業の景況感は大きく持ち直していた(図表 - 2・3)。
前回調査以降もオミクロン株の拡大と長引く半導体不足によって、工場の稼働停止が断続的に発生し、自動車を中心に生産が下押しされた。また、国内ではオミクロン株の感染が急拡大し、まん延防止等重点措置が幅広く発令されたことで再び人々の外出が抑制され、対面サービス業への逆風が強まった。さらに、2月下旬に起きたロシアによるウクライナ侵攻の影響もあって資源価格が一段と高騰したことで、企業の原材料・燃料価格に対する上昇圧力が高まっている。(図表 - 4~7)。
今回*2、大企業製造業では、自動車産業などでの半導体不足・オミクロン株拡大による生産停止や原材料・燃料価格の上昇が圧迫材料となり、景況感が悪化するだろう(表紙図表 - 1)。
また、非製造業でも、原材料・燃料価格の上昇に加えてオミクロン株拡大に伴う外出抑制が逆風となり、対面サービス業を中心に景況感が悪化しそうだ。
中小企業の業況判断DIは、製造業が▲9、非製造業が▲11とそれぞれ前回から8ポイントの下落を予想している(表紙図表 - 1)。下落の理由は大企業同様だが、中小企業は価格交渉力が相対的に乏しく、大企業よりも原材料価格上昇の影響を受けやすいことから、下落幅がやや大きめになるとみている。
先行きの景況感も大幅な改善は見込めない(表紙図表 - 1)。ウクライナ情勢の緊迫化を受けて資源価格の上昇圧力が強い状況が続くと見られることから、先々の原材料・燃料価格上昇に対する企業の懸念は強いはずだ。さらに製造業では、インフレ加速に伴う海外経済の減速や供給網の混乱に対する懸念も燻っているとみられることから、先行きにかけての景況感改善は示されないと見込んでいる。一方、非製造業ではワクチン接種の進行もあり、オミクロン株の感染縮小とそれに伴うまん延防止等重点措置の解除への期待が追い風となるものの、製造業同様、原材料・燃料価格上昇に対する懸念が重荷となり、先行きにかけての景況感改善が小幅に留まると見ている。なお、中小企業非製造業については、もともと先行きを慎重に見る傾向が強く、先行きにかけて景況感の改善が示されることが稀であるだけに、今回も小幅な悪化が示されると予想している。
*1: 前回12月調査の基準日は11月29日、今回3月調査の基準日は3月11日(基準日までに約7割が回答するとされる)。
*2: 2021年3月調査より、調査対象企業の定例見直しが実施されることに伴い、予測の前提となる前回12月調査の値は12月公表ベースではなく、調査対象見直し後の再集計ベースの値を使用している。
1 ―2 設備投資計画はやや下方修正へ
2021年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年度比7.1%増(前回調査時点では同8.0%増)へやや下方修正されると予想している(図表 - 9・10)。
例年、3月調査(実績見込み)では、中小企業で計画が具体化してくることによって上方修正される反面、大企業で下方修正が入ることで、全体としては若干下方修正される傾向がある*3。今回は企業収益の改善が支えになるものの、コロナの感染再拡大や供給制約、原材料高による建設コストの増加などを受けて、設備投資を一旦見合わせたり、先送りしたりする動きがやや強まり、例年よりもやや大きめの下方修正が入ると予想している。
また、今回から新たに調査・公表される2022年度の設備投資計画(全規模全産業)は、2021年度見込み比で0.3%増になると予想。例年3月調査の段階では翌年度計画がまだ固まっていないことから前年割れとなる傾向が強いものの、足元の収益改善や2021年度計画における先送り分の計上もあり、昨年度3月調査に続いて、前年比で小幅なプラスの伸びが示されると見ている。
*3: コロナ禍前の2010~19年度における3月調査での修正幅は平均で▲0.1%ポイント
1 ―3 注目ポイント:仕入・販売価格判断DIなど
今回の短観で特に注目されるのは販売価格判断DIと仕入価格判断DIの動きだ。資源高によって原材料・燃料価格上昇の上昇が続いているため、足元で仕入価格がどの程度上昇し、企業の採算(マージン)がどれだけ悪化しているのか、また、今後はどの程度仕入価格が上昇し、販売価格に転嫁されることが見込まれているのかが注目される。
このことは、資源価格の上昇がどこまで・どのように企業業績や消費者物価に波及し、その先にある日本経済に影響するのかを考えるうえでの重要な手がかりになる。
さらに、今回から新たに調査・公表される2022年度の事業計画も注目される。長引くコロナ禍やウクライナ情勢の緊迫化なども考慮したうえで、来年度に企業がどれだけの回復を見込んでいるのかが明らかになる。
1 ―4 金融政策の関連では物価見通しと資金繰り判断に注目
今回の短観が日銀の金融政策に与える影響は限定的に留まりそうだ。
既述の通り、今回の短観では企業の景況感悪化や、設備投資計画も下方修正が予想されるが、コロナ禍初期のような大幅な落ち込みには至らず、日銀による早急な対応が求められるほどの内容にはならない。
また、資源高を受けて、日本の物価上昇率は今後2%前後に上昇すると見込まれるものの、賃金等への2次的波及が見込めず、持続性に欠ける。日銀の理想とする(賃金の上昇を伴った)物価上昇の姿とは大きく異なるため、日銀は今後とも現行の金融緩和を続けざるを得ない。
そうした中で日銀のあえて注目されるものとしては、まず企業の物価見通しが挙げられる。当面の緩和縮小は見込まれないものの、企業の中長期的な物価見通し(インフレ期待)が大きく持ち直していくのであれば、将来的な緩和縮小を後押しすることになる。
また、資金繰り判断DIも引き続きフォローが必要になる。日銀は昨年12月に9月末までの資金繰り支援策の一部延長を決定している。資金繰り判断DIは前回調査にかけて改善傾向が続いてきたものの、事業環境の悪化を受けて、宿泊・飲食サービスなど一部の対面サービス業を中心に再び資金繰りが悪化している可能性がある(図表 - 13)。資金繰りの悪化が示された場合には、日銀がいずれ資金繰り支援策を延長(場合によっては拡充)するという判断を後押しする材料になる。
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上野 剛志(うえの つよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席エコノミスト
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