この記事は2022年3月11日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「日銀の政策調整を意識して日本の超長期債はスティープ化へ」を一部編集し、転載したものです。


日銀の政策調整を意識して日本の超長期債はスティープ化へ
(画像=PIXTA)

世界的な原材料価格の高騰や物流コストの上昇などを背景に、食品や日用品などの幅広い品目で値上げが相次いでいる。日本でもインフレ率は上昇傾向にあり、インフレ高進に対して日本国民は懸念を強めている。

こうしたなか、野党は日本銀行に低金利政策の修正の是非を問いただしている。これに対し日銀は、コストプッシュ型のインフレは一時的なため、金融引き締めで対応する必要には迫られていないと強調する。

日銀は、2%の物価安定目標が安定的に達成されるまで、現行の金融緩和策を粘り強く続ける方針を繰り返し示している。政府も現時点ではこうした日銀の政策運営に関して理解を示し、具体的な政策手段は日銀に任せている。

しかし、エネルギー価格の高騰でインフレがさらに進行した場合、夏の参院選を前に、野党だけでなく与党からも金融緩和政策の弊害について懸念が強まる可能性は十分に考えられる。その際は、政府が金融政策に対する現在のスタンスを継続できるか疑問が生じるだろう。

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は2022年3月2日に米下院で議会証言し、3月15日~3月16日に開催される米連邦公開市場委員会(FOMC )で25bpの利上げを支持する考えを再度表明した。日銀が現行の緩和策を維持すれば、日米金利差拡大を背景に円安基調が進みやすい側面もある。交易条件の悪化と円安を伴うインフレ高進を抑制すべく、日銀に緩和策の修正を求める動きが政治的に強まっても不思議ではない。

すでに市場は、短期政策金利のマイナス0.1%から0%への引き上げを予想している。例えば、短期政策金利(現状はマイナス0.1%)に対する市場の見通しを反映する「1年先1年OIS金利」は、足元で0%を超える水準となっている(下図)。また、市場は、イールドカーブ・コントロール政策(YCC)における誘導目標年限の10年から5年への短期化といった政策調整のリスクを相応の確率で織り込む。

足元で資産増に転じた毎月分配型ファンド
(画像=きんざいOnline)

ウクライナ情勢の緊迫化で、足元では織り込みの後退の動きが見られたが、前記の背景を踏まえて中長期的に展望すれば、市場は日銀が政策調整に動く確率をより強く意識するであろう。その場合、長期金利の上昇幅は、現行のYCCの下では日銀の「指値オペ」によって0.25%で抑制される。

一方、10年超の年限国債は年間を通じてならしてみれば、イールドカーブが傾斜を強めながら(スティープ化)、金利は上昇バイアスを維持する展開が予想される。

バークレイズ証券 チーフ債券ストラテジスト/海老原 慎司
週刊金融財政事情 2022年3月15日号