この記事は2022年年1月3日に「株式新聞」で公開された「動かぬ日銀で円弱含み、ドル・円、ユーロ・円とも上値追いの展開か」を一部編集し、転載したものです。


株価ボードのイメージ
(FUTO / PIXTA (ピクスタ))

2021年のドル・円は、6年ぶりの年足陽線転換へ

2020年のドル・円は年初こそ新型コロナウイルスの感染拡大や米上院選決選投票の不透明感を受け、ドル・円は1月6日に年初来安値1ドル=102円59銭を付けたものの、その後、上院選を与党民主党が制し、米バイデン政権下での大型経済対策に伴う国債増発観測、米長期金利上昇を背景にドル・円は切り返し。4月から9月半ばにかけてはFRB(米連邦準備制度理事会)がハト派姿勢を崩さずドル・円は110円を挟みもみ合った。

9月のFOMC(米連邦公開市場委員会)でFRBが11月のFOMCでのテーパリング(量的金融緩和の段階的縮小)開始決定を示唆。市場はその先の米利上げを織り込み、米金融正常化が意識されるとドル強含みとなり、ドル・円は11月24日に年初来高値115円52銭を付けた。12月24日時点でのドル・円の高安の値幅は12円93銭。2016年から20年までドル・円は年足で5年連続陰線だったが、2021年は6年ぶりに陽線に転じる見通しとなった(図表1参照)。

ドル・円、年足チャート
(図表1:ドル・円、年足チャート(株式新聞))

一方、主要通貨に対する対円の年初来騰落率(図表2参照)をみていくと、円は日本と同様にゼロ金利政策を取るスウェーデンの通貨クローナに対して若干強含んでいるものの、他の主要通貨に対しては全面安となっている。堅調な輸出を背景に自国通貨が強含んだ中国、台湾、ユーロ圏のリスクオフ時などに欧州通貨の逃避資金の受け皿となりやすいスイスフランなどはやや特殊要因だが、多くのケースでは量的金融緩和の縮小や利上げといった金融正常化にカジを切った国々の通貨が対円で上昇している。

図表2:主要国通貨の対円年初来騰落率
(図表2:主要国通貨の対円年初来騰落率(株式新聞))

2022年のドル・円、専門家の見方 ―― 米利上げ影響し上方向は117〜120円50銭

2021年のドル・円は6年ぶりの反発局面となったが、2022年の方向感はどうなるか。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券 チーフ為替ストラテジストの植野大作氏は、ドル・円予想レンジを1ドル=110〜120円50銭と予想。「リパトリエーション(海外利益の国内還流)によって多くの日本企業が決算前の邦貨需要に備える2月に最安値を付けるだろう。

ただ、FRBが3月にもテーパリングを終え、利上げサイクルに移ると日米金利差は拡大し、時間が経過するほどドル買い・円売り優勢となる。その意味で最高値は12月」との見方だ。米国の金融政策については、3月にテーパリング終了、7〜9月期に利上げがスタートし、2023年以降も利上げサイクルを迎えるも開始から計6回(政策金利誘導目標1.50〜1.75%)で打ち止めになるとしている。

7月には参議院選挙、11月には米中間選挙が予定されており、ドル・円にどのような影響を及ぼすのか気になるところだが、植野氏は、「参院選は自民大敗で岸田内閣退陣とならない限りは日本株や為替への影響は限定的。米中間選挙も民主党が政権と上下両院を押さえるトリプルブルーが崩れた場合は政治的大ニュースだが、民間の活力で経済が上手く回っている間は政府が何もできなくなっても景気や金融政策には響かない」として、為替政策はドル・円の大きな変動要因にはならないとの見解を示している。

一方、JPモルガン・チェース銀行 市場調査本部長の佐々木融氏のドル・円予想レンジは1ドル=108〜117円。「FRBが3月でテーパリングを終了し、6月・9月・12月のFOMCで利上げを行うというシナリオ。ドルは利上げ期待が高まっている最中は上昇するが、実際に利上げが始まると反落する傾向があるとして、最高値を付けるのは6月と想定。年後半は下落基調となり、12月に最安値を付ける」と110円割れを視野に入れる。

ただ、「米国は貿易赤字が過去最高を記録する中、インフレ率が予想以上に高くなっていることもあり、実質金利(名目金利と期待インフレ率の差)はマイナスが続いている。ドルがいったん下落すると下落幅が予想以上に大きくなるリスクもある」という。

2022年のユーロ・円、専門家の見方 ―― ECB利上げ先送りも上値余地大きい

ECB(欧州中央銀行)は2021年12月の理事会でPEPP(パンデミック緊急購入プログラム)の2022年3月末終了を決めた。ECBが金融正常化を模索する中、22年のユーロ相場はどうなるか。

植野氏のユーロ・円予想レンジは1ユーロ=125円10銭〜141円10銭。「PEPPの終了はECBの想定通り。APP(従来の資産購入プログラム)に受け継がれ、当初は購入枠増額も購入ペース減速のフェーズ。ECBについては2023年の利上げ開始も視野には入らない」とした上で、ユーロ・円の上昇要因は国際収支格差だと指摘する。「日本は貿易・サービス収支の赤字国であるのに対し、ユーロ圏は大幅な黒字地域。ドル・円同様、ユーロ・円も2月に最安値を付け、年末に向けて収支格差が拡大し、ユーロ・円は最高値を付ける」という。

一方、佐々木氏の予想レンジは1ユーロ=126〜133円。「米国の利上げ期待が一段と高まる中でユーロ・ドルが軟化し、ユーロ売りからユーロ・円も下押しする形で3月に最安値を付けるだろう。しかし、ユーロ圏でもインフレ圧力が徐々に強まる中、ECBの金融政策正常化観測が年後半にも強まり、年末に向けてユーロが反発し、ユーロ・円の最高値を付ける展開になる」との見方を示す。


有識者の見解は分かれるところだが、日銀が現行の大規模金融緩和を2022年も継続するとの認識では一致する。動かぬ日銀と資産購入の減額・終了から金融正常化へと舵を切りつつあるFRB、ECBのスタンスの差が、金利差の拡大につながり、円弱含みがドル・円やユーロ・円を押し上げる公算だ。

植野氏のドル・円、ユーロ・円レンジ予想は新型コロナ感染拡大リスクをある程度織り込んだものだとする一方、佐々木氏は感染拡大リスクや日欧のインフレ率上昇や金融政策正常化に向けた思惑が広がれば、円やユーロの上値が切り上がる可能性は少なからずあるという。2021年のドル・円の値幅は12円93銭で陽線に転じる見通し。2022年も2年連続陽線となる可能性はありそうだが、2021年の値幅を超える値動きの激しい相場となることも想定される。

モーニングスター 有村孝浩