本記事は、高橋洋一氏の著書『給料低いのぜーんぶ「日銀」のせい』(ワニブックス)の中から一部を抜粋・編集しています。
自殺率と日銀の政策
日銀の「金融政策」と「自殺」との関係などといわれると、この2つはなかなか結びつかないというのが一般の人の感覚ではないだろうか。
しかし、自殺率は失業率との相関性が高いため、失業率が下がれば自殺は減っていく傾向がある。雇用の改善と人の命はつながっていると考えていい。
警察庁が発表している令和2年度の自殺者数は2万1081人。対前年比で912人(約4.5%)増加した形だが、2013年の金融緩和開始からの数字を見ると、令和元年まで毎年減少が続いてきた。
令和2年度に関してはやはり新型コロナウイルスの感染拡大が大きく影響していると思われるが、その前年までの自殺者の減少傾向は、日銀が推し進めた金融緩和政策の成果だと考えている。
アベノミクス前後の自殺率
ちなみに、アベノミクスがはじまる前と最近の自殺者数を比べてみると、大きく減少しているのがわかる。
自殺の背景には様々な要因が複雑に絡んでいることが多く、原因をピンポイントで突き止めることは簡単ではないが、景気動向と密接にからむものもあるのだ。
警察庁では、自殺の原因や動機を、家庭問題、健康問題、経済生活問題、勤務問題、男女問題、学校問題、その他に分けて、ホームページで公開している。
そして、遺書などから推定できる原因や動機を、自殺者1人につき3つまで計上可能とする統計をとっている。
それによると、前記6つの要因のうち、家庭問題、健康問題、勤務問題、男女問題、学校問題については、全体に占める割合は年によって大きく変わっていない。
一方、経済生活問題が占める割合は、年によって大きく変わっており、その度合いが景気の動向と関係があることがわかる。
すなわち、景気が悪く失業率が高くなると自殺率は上がり、景気がよくなり失業率が下がると自殺率は下がる傾向にあるのだ。
失業率をどのくらい下げると自殺者の数がどのくらい減るかについて、筆者はかつて推計したことがある。
それによると、失業率を1%低下させると、自殺者はおおむね3000人程度減らすことができる計算だった。失業率と自殺率の間に高い相関がみられるのである。
また、金融緩和により雇用が改善されると、社会の安定にもつながるのだ。失業率が低下すると自殺率が低下するように、失業率の低下は犯罪率の低下とも相関があるからだ。
普通に考えてみればわかると思うが、無職だった人が定職に就くことができれば、前記のような経済生活問題を原因とする自殺は必然的に減り、並行して犯罪も減る。
こうしたことも、実は過去のデータから確認できるのだ。金融緩和すれば、自殺率や犯罪率は減少するのである。
このように、中央銀行の金融政策は、雇用創出という経済効果だけでなく、社会を安定させるという効用もあるのだ。このことは、もっと国民に広く知られるべきことだと筆者は考えている。