本記事は、高橋洋一氏の著書『給料低いのぜーんぶ「日銀」のせい』(ワニブックス)の中から一部を抜粋・編集しています。

金融・経済レポート
(画像=Princess_Anmitsu / Shutterstock.com)

国際通貨基金(IMF)が2020年10月に公表したレポートによると、日本の政府債務残高はGDP比で266%になり、米国のほぼ2倍に達するという。

主要7カ国(G7)で日本に次いで多いイタリアが161%で、日本は先進国で突出した高さにあると各メディアが危機的に伝えている。

2021年予算案の新規国債発行額は、当初予算ベースで11年ぶりに増加となり、公債依存度も前年度(当初予算)の31.7%から40.9%に拡大するという。

これについて筆者から言えることは、「心配しなくていい」ということだ。266%という数字を独り歩きさせて、「給料が30万円なのに80万円も借金があるような話だ!」「大変だ!」と騒ぐのは、半径1メートルの見方しかできない人の行動だ。

国債依存度40%超でも大丈夫な理由

借金である以上は利息がつく。もし投資家や金融機関がこの利率に納得できなければ、買わなければいいだけの話だ。

だれも買う人がいなければ、財務省はリスクを承知で利率を上げて、「この利率なら買ってくれるかな……」という形で売る努力をしなければならない。

需要と供給の関係で、売れない商品は買い手がより得をするような形で売り出さないとならないからだ。しかし、ご承知のとおり、今のところそのような事態はまったく起きていない。

民間金融機関は、今の国債の利率に大満足しているとは言わないまでも、おおむね納得しているということだ。投資家も同じである。

金融の世界にイデオロギーを差し挟む余地なし

こうした金融の世界は、イデオロギーや政治的な思惑が入り込む隙間が一切ない。市場ほど世の実相を正しく映し出すものはないのだ。

その意味で実に正直であり、非情でもある世界だ。投資家は実に緻密かつドライに数字を読み、得をすると判断したところに投資をする。日本のメディアが「大変だ、大変だ」と騒ぐ声など、彼らの耳には一切届かない。

もし、民間金融機関が「どうやら国債が多く発行されすぎているぞ」と判断したら、国債は買われなくなり、前述したように国債の金利はどんどん上がる。しかし、どうだろうか。現実には国債の金利は低いまま取引されている。

もし財務省やメディアが言うように、財政破綻の危機が迫っているのなら、「日本はもうやばい」「国債なんて持っていても紙屑になる」と言って買うことはない。

重ねて言うが、国債は借金なので、返すあてのない人(国)にはお金は誰も貸さない。いわゆる闇金のように超高利の金貸しくらいしか相手にしないだろう。

しかし、「必ず返してくれる」と思えるリスクの低い人なら、利率は低く儲けは少なくても、一定のお金を貸してくれるものだ。

金融機関は国債をまだまだ欲しがっている

つまり、民間金融機関は日本政府の国債をまだまだ欲しがっているということだ。事実、入札の通知を出せば、必ず複数の金融機関が群がって応札し、オークションはすべて成立している。国債は発行され過ぎではなく、まだまだ発行してほしいと思われているのだ

やれGDPの200%だ、260%だと慌てる前に、金利が上昇していないという現状を見ればいいだけのことなのである。

財務省のホームページに「国債金利情報」が公開されている。心配な方は覗いてみるといい。杞憂であることがわかるはずだ。

財政が安心だから国債が買われる

ちなみに、令和3年4月28日の10年もの国債の利率は0.095%である。0.1%を割っているのだ。言っておくと、これは相当の低金利である。

これを買って儲けようと考えても、利益などほとんど出ないくらいの低金利だ。それでも日本国債を買う人がたくさんいるのである。

「日本か、あの国なら大丈夫だろう」「あんまり儲けにはならないが、確実に返してくれるわけだし、利益にはなるのでこの金額だけ買っておくか」と判断している人が多いということだ。

ここからわかることは簡単だ。「日本の財政は安心だ」と、民間金融機関も海外の投資家も見ているということである。

財務省やマスメディアが煽るように、本当に日本の財政が危ういところにあるのなら、たいして儲けにならないこんな低い金利の国債を、リスクをおかしてまで買い、日本政府にお金を貸すはずがなかろう。

財政破綻のリスクがある国債を、超低金利で買ってくれる投資家は世界にいない。日本にお金をあげるようなものだ。

皆さんのまわりで「日本もそろそろやばい。財政破綻に向かっているぞ」「国債も暴落するかもしれない」などという人がいたら、「なるほど、ではなぜ日本国債の金利ってこんなに低いのですかね」と聞いてみるといいだろう。

もしくは、「そもそも金利がどれくらいなのか知っていますか」と聞いてもいいかもしれない。

もし答えられないのなら、その人は国債の金利が今どのくらいなのか、それすら知ろうとしないで「暴落するぞ」と大騒ぎしていることがわかるはずだ。

給料低いのぜーんぶ日銀のせい
高橋洋一
株式会社政策工房代表取締役会長、嘉悦大学教授、1955年、東京都生まれ。都立小石川高等学校(現・都立小石川中等教育学校)を経て、東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980年に大蔵省(現・財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(首相官邸)等を歴任。小泉政権・第一次安倍政権ではブレーンとして活躍。経済学者としての専門分野は財政学であり、財政・金融政策、年金数理、金融工学、統計学、会計、経済法・行政法、国際関係論を研究する。2008年、『さらば財務省』(講談社)で、第17回山本七平賞受賞。2020年10月、内閣官房参与に任命される。

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