富裕層の相続対策のセオリーは、相続税負担圧縮と争族回避の2つだ。生命保険は上手に使えば、その両方を満たすことができる。そのため、生命保険で相続対策をする富裕層はたくさんいる。今回は、生命保険で相続税がかかるパターン、生命保険が相続税圧縮につながると言われる理由、生命保険が相続税圧縮以外で相続対策に有効な理由などを解説していく。

目次

  1. 生命保険で受け取るお金に税金はかかる?
  2. 生命保険で相続税がかかるパターンは?
  3. 生命保険が相続税圧縮につながると言われる理由
  4. 生命保険が相続税圧縮以外において相続対策に有効な理由
  5. まとめ:生命保険の利用を通じて相続対策ができないか確認してみよう

生命保険で受け取るお金に税金はかかる?

生命保険が相続税・相続対策になる6つの理由。思わぬ税金がかかるパターンも解説
(画像=琢也栂/stock.adobe.com)

生命保険は、加入者が保険料を負担し合ってリスクに備える助け合いの仕組みだ。万一の際に加入者の経済的な負担を軽減できるため、加入することで安心につながると考える人は多い。具体的には、死亡保険については死亡保険金、医療保険であれば入院給付金や手術給付金、年金保険の場合は年金という形で給付金や保険金を受け取れる。

受け取る給付金や保険金に対して税金がかかるかどうかは、加入する保険の種類や金額によって異なる。また、同じ種類の保険においても被保険者、給付金や保険金が支払われた際の受取人によっても違いがある。

生命保険の課税理解その1:入院給付金や手術給付金、就業不能給付金には税金はかからない

入院給付金や手術給付金、就業不能給付金など「不慮の事故や疾病などにより受け取る給付金」には税金がかからない。他にも、通院給付金、がん診断一時金、特定疾病給付金、先進医療給付金なども税金がかからない。

なお、非課税となる法的根拠は、所得税法第30条第1号「非課税とされる保険金、損害賠償金等」の規定により定められている。

▽所得税法第30条第1号に定められる生命保険に関する非課税所得

第三十条 法第九条第一項第十八号(非課税所得)に規定する政令で定める保険金及び損害賠償金(これらに類するものを含む。)は、次に掲げるものその他これらに類するもの(これらのものの額のうちに同号の損害を受けた者の各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補塡するための金額が含まれている場合には、当該金額を控除した金額に相当する部分)とする。
一 (中略)生命保険契約(中略)に基づく給付金及び損害保険契約又は生命保険契約に類する共済に係る契約に基づく共済金で、身体の傷害に基因して支払を受けるもの並びに心身に加えられた損害につき支払を受ける慰謝料その他の損害賠償金(その損害に基因して勤務又は業務に従事することができなかつたことによる給与又は収益の補償として受けるものを含む。)

引用:e-GOV 所得税法施行令(昭和四十年政令第九十六号) 中略および太字は編集部

生命保険の課税理解その2:死亡保険金、解約返戻金、満期保険金には税金がかかる

一方で、死亡保険金、解約返戻金、満期保険金については課税対象だ。例えば、病気やケガなどで死亡し、事前に定められていた保険金受取人が死亡保険金を手にした場合などは税金がかかる。

また、死亡保険金や満期保険金は、契約者(保険金の支払者)、被保険者(保険の対象者)、保険金受取人(保険金を受け取る者)が誰であるかによって課税される税金が異なる。具体的には所得税、相続税、贈与税のいずれかの課税対象となり、保険金を受け取った人が税金を納めることになる。

生命保険で相続税がかかるパターンは?

生命保険は保険加入者が死亡した際に保険金を受け取るため、相続税が課されると考える人も多いだろう。しかし、保険料を支払う人によって所得税や贈与税となるケースがあるため注意が必要だ。

ここでは、「契約書=被保険者」の場合、「契約者=保険金受取人」の場合、「契約者≠被保険者≠保険金受取人」の場合の3パターンについて解説する。

▽保険契約者/被保険者/受取人の関係と税の種類

保険契約者/被保険者/保険金受取人の関係保険契約者/被保険者/受取人の例税の種類
保険契約者被保険者受取人
契約者=被保険者相続人(妻/子ども)相続税
契約者=保険金受取人所得税
契約者≠被保険者≠保険金受取人子ども贈与税

生命保険で相続税がかかるパターン1:契約者=被保険者の場合は相続税

生命保険の保険料を被相続人が支払っていた場合は相続税が課される。例えば、夫が「自分自身が被保険者となる生命保険」を契約し、保険金の受け取りを子どもにした場合、生命保険金に対して相続税が課される。

ただし、死亡保険金には残された家族の生活を経済的に守るための生活保障の役割があることから、保険金を受け取る人が法定相続人のケースでは、税負担が軽くなるようにされている。具体的には「500万円×法定相続人数」が非課税額として算出される。例えば法定相続人が妻と子ども2人の計3人の場合は「500万円×3人=1,500万円」までが非課税となる。

【参考】国税庁 | No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金

なお、保険金受取人が妻などの配偶者の場合、遺産額が1億6,000万円または配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い金額まで相続税がかからないようになる「配偶者の税額の軽減」措置があり、最終的に税金がかからないケースもある。

【参考】国税庁 | No.4158 配偶者の税額軽減

生命保険で相続税がかかるパターン2:契約者=保険金受取人の場合は所得税

生命保険の保険料を保険金受取人が支払っていた場合は所得税が課される。例えば、夫が妻に生命保険を掛けて、保険金の受け取りを夫とした場合、妻が死亡した際の生命保険金には(夫への)所得税が課税される。つまり、保険料を支払った人と同一人物が受け取った保険金は、原則として所得税となり、支払った保険料を差し引いて税金が計算される。

なお、一時金として支払われた保険金は「一時所得」として次の計算式に当てはめて所得税を算出する。

▽一時所得の所得課税額計算式
課税される額=(受け取った金額 − 支払った保険料 − 一時所得の特別控除額(最高50万円))÷ 2

上記で算出された金額を、給与所得など他の所得と合算のうえ所得税の計算を行う。

一方、年金として分割して保険金を受け取る場合は「公的年金等以外の年金に係る雑所得」となり、原則として受け取る年金額から所得税が差し引かれる。

生命保険で相続税がかかるパターン3:契約者≠被保険者≠保険金受取人の場合は贈与税

「妻が死亡した際に子どもが保険金を受け取れる保険」を夫が契約し、妻が死亡した場合、子どもには贈与税が課される。保険を契約した人(夫)が死亡した訳ではなく、かつ被保険者(妻)ではない第三者(子ども)が保険金を受け取るため、契約者から保険金受取人へ贈与が行われたものとみなされるわけだ。

生命保険が相続税圧縮につながると言われる理由

生命保険に加入することで相続税の圧縮につながると聞いたことがある人も多いだろう。実際に多くの人が相続税圧縮のために生命保険を利用しているが、その理由は2つある。1つめは保険金の非課税枠があるから、2つめは子どもを契約者として財産を贈与できるからだ。

何に課税される? 相続税の仕組みをおさらい

生命保険の相続税圧縮につながる方法を解説する前に、まず相続税の仕組みを解説しておく。

相続税は、亡くなった人から各相続人等が相続や遺贈などにより取得した財産の価額の合計額が基礎控除額を超える場合に課税される。なお、基礎控除額は「3,000万円+(600万円×法定相続人数)」にて算出されるため、例えば法定相続人が妻と子ども2人の計3人の場合は「3,000+(600万円×3人)=4,800万円」だ。

相続税の課税対象となる課税遺産総額の算出方法は、相続や遺贈により取得した財産と相続時精算課税(※)の適用対象となる財産価額を合算したうえで、債務や葬式費用などを差し引く。さらに、相続開始3年以内に暦年課税した贈与財産を足した価額から基礎控除額を差し引いて決まる。

※原則として60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上の子や孫に対して財産を贈与した場合に選択可能な贈与税の制度。贈与時には贈与財産に対する軽減された贈与税(一律20%)を支払い、相続時に当該贈与財産とその他の贈与財産を合算した価額を基に算出された相続税額から、すでに支払った贈与税額を精算する。贈与時は2,500万円の控除があり、この限度額に達するまでは贈与税がかからない。

上記を踏まえて、多くの人が相続税圧縮のために生命保険を利用している2つの理由を見ていこう。

生命保険が相続税圧縮につながる理由1:保険金の非課税枠がある

前述の通り、生命保険には1人につき500万円の非課税枠がある。つまり、契約者=被保険者で死亡保険金受取人が相続人の場合、「500万円×法定相続人数」だけ非課税枠を利用できる。ただし、法定相続人の数は相続放棄をした者を含むが、養子がいる場合は実子の有無に応じ1人または2人までとされている。

具体的に説明すると、相続税の課税価格が5,000万円で生命保険の非課税枠を利用できない場合、法定相続人の人数に関係なく5,000万円全額が課税対象となる。一方、5,000万円のうち2,000万円が生命保険金で、法定相続人が4人のケースであれば、その2,000万円は非課税(500万円×法定相続人4人=2,000万円)となり、残り3,000万円に対してのみ課税される。

生命保険が相続税圧縮につながる理由2:子どもを契約者として財産を贈与できる

生命保険は親から子どもへ財産を贈与する手段としても利用可能だ。「子どもを契約者と受取人、親を被保険者とする保険」を利用することで相続税を圧縮する方法がよく利用される。子どもは親から贈与されたお金で保険料の支払いを行い、親が亡くなった時に死亡保険金を受け取ることになる。

贈与する金額を年間110万円以下にすると、非課税枠の範囲内になるため、贈与税はかからない。そのため、年間の保険料支払いを110万円以内で保険契約する場合も多い。

子どもを契約者とする場合、親が亡くなった時の保険金は相続税ではなく、一時所得または雑所得として所得税・住民税の対象となる。相続税と所得税・住民税のどちらのほうが(税金が)安くなるかシミュレーションしたうえで活用したい。

生命保険が相続税圧縮以外において相続対策に有効な理由

生命保険は相続税圧縮以外の理由でも有効に活用できる。ここからは、生命保険を活用して実現可能な相続対策を4つ紹介する。

生命保険による相続対策その1:保険金は受取人固有の財産であり、受取人を指定できる

相続が発生した際、遺言がある場合は遺言に沿った形で財産が分割される。一方、遺言が無い場合は相続人全員が遺産分割協議を行い、誰がどの財産を引き継ぐか決める必要がある。

しかし、生命保険の保険金は受取人固有の財産と考えられているため、事前に受取人として指定されている人は他の相続人との協議なしで保険金を受け取れる。また、他の相続人から遺留分(※)の請求をされることもないので安心だ。

※相続人が最低取得できる権利として、民法で認められている相続分のこと。遺留分の権利者となるのは、配偶者、直系卑属(相続人の子ども、孫など)、直系尊属(被相続人の父母、祖父母など)に限定されており、兄弟姉妹には遺留分はない。なお、法定相続人が遺留分の侵害を知った時は、侵害している他の相続人や受遺者に対して侵害額に相当する金銭の支払を請求できる。

つまり、生命保険を活用することで、被相続人は自分が希望する人に確実に財産を渡すことができ、財産を受け取った人も他の相続人とトラブルになることなく円滑に相続できるメリットがある。

生命保険による相続対策その2:保険金の支払いがスムーズで、納税資金の確保に役立つ

生命保険は納税資金の確保にも役立つ。例えば相続人は、現預金などの金融資産はほとんど持っておらず、大半が不動産というケースを考えてみよう。この場合、現預金だけでは納税資金を確保できず、仕方なく不動産を売却して納税資金を賄おうとする可能性は高い。

しかし、このような状況を理解したうえで、あらかじめ生命保険を活用して相続人に保険金が入るように手配しておけば、それを納税資金として利用できる。また生命保険は、契約者の死亡を証明できれば支払いがスムーズであることが多い。

生命保険を活用すると、計画的に納税資金を確保でき、かつ支払いもスムーズであるため、どうしても手放したくない相続財産がある場合に有効だ。

生命保険による相続対策その3:相続放棄した場合も保険金を受け取れる

相続財産には借金などの債務も財産に含まれるため、被相続人が亡くなった後に相続放棄する人も少なからずいる。しかし、受取人固有の財産である生命保険の保険金は、相続放棄した場合でも受け取れる。

ただし、相続放棄をした人は法定相続人の対象から外れるため、生命保険の非課税枠(1人あたり500万円)が利用できなくなる点に注意が必要だ。

相続放棄をするためには、単に「放棄する」と公言するだけでは効力を持たず、相続の開始を知った日から3ヵ月以内に家庭裁判所で手続きを実施する必要がある点を覚えておくとよいだろう。

▽相続放棄の期間

相続人は,自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月の熟慮期間内に,単純承認,限定承認又は相続放棄をしなければなりません。

引用:裁判所 | 相続の放棄又は放棄の期間の伸長

生命保険による相続対策その4:代償分割に活用できる

生命保険は代償分割にも活用できる。代償分割とは、不動産など複数人での分割が困難な財産を受け取った相続人が、他の相続人に対して代償金を支払うことで相続のバランスを取る方法だ。

例えば3人の子どもがいる父親の相続について考えてみよう。父親が遺した相続財産は自宅の不動産のみで、1人の子どもに相続することになっていた場合、残りの2人は相続する財産が何もない(もちろん遺留分は存在する)。

しかし、代償分割を行い、自宅を相続した1人から残りの2人へ自宅の不動産評価分の一部(例えば1人あたり評価額の33%相当)を代償金(現金など)として支払うことで相続のバランスが取ることができる。

代償分割を行うには、お金を渡す人に手元資金がないといけないため、自宅を相続する子どもが生命保険を受け取れるように、あらかじめ父親が準備しておくことで、相続を上手く進められるというわけだ。

まとめ:生命保険の利用を通じて相続対策ができないか確認してみよう

この記事では、富裕層の相続対策のセオリーと言われる相続税圧縮と争族回避の手段として、生命保険を活用した方法を紹介してきた。

生命保険の活用により、保険金の非課税枠利用、子どもを契約者として財産を贈与することによる相続税圧縮を行えるほか、納税資金の確保や代償分割への利用などで円滑な相続の実現につながる。一度自分の財産を見直し、生命保険の利用を通じて相続対策ができないか確認してみることをおすすめする。