この記事は2022年6月9日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「貸出・マネタリー統計(22年5月)~不動産業向け貸出への依存度が上昇傾向」を一部編集し、転載したものです。


貸出・マネタリー統計
(画像=PIXTA)

目次

  1. 貸出動向:不動産業向け貸出への依存度が上昇傾向、都銀の貸出は再び前年割れに
    1. 貸出残高
    2. 業種別貸出動向
  2. マネタリーベース:前月比で実質過去最大の減少に
  3. マネーストック:増勢が鈍化

貸出動向:不動産業向け貸出への依存度が上昇傾向、都銀の貸出は再び前年割れに

貸出残高

6月8日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、5月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比0.91%と前月(同1.02%)をやや下回った。伸び率の低下は3ヵ月ぶりとなる。貸出の伸び率は小幅なプラスが続いている(図表1)。

貸出・マネタリー統計
(画像=ニッセイ基礎研究所)

ただし、円安の進行による外貨建て貸出の円換算残高嵩上げが引き続き押し上げ要因となっているほか(図表3)、前年同月の伸び率が鈍化したことで、比較対象のハードルが下がった面も伸び率の押し上げに働いている。従って、貸出増勢の実態は見た目よりもやや弱めだ。

業態別に見た場合には、4月に11ヵ月ぶりにプラス圏に浮上していた都銀の伸び率が前年比▲0.19%(前月は0.04%)と再びマイナス圏に落ち込んでいる。一方、地銀(第2地銀を含む)の伸び率は前年比1.85%(前月は1.87%)とほぼ横ばいで、かつ堅調に推移している(図表2)。

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業種別貸出動向

3月末時点の業種別貸出データを見ると、製造業向けの寄与度が前年比▲0.46%(昨年12月末は▲1.04%)とマイナスこそ縮小しつつも、4期連続で前年の水準を下回り、全体の伸び率(12月末1.09%→3月末1.72%)の押し下げ要因となった(図表4)。とりわけ輸送用機器向けの貸出減少が大きく影響しており、コロナ禍初期に予備的に借り入れた資金の返済が進んだためとみられる。 

また、対面サービス業(飲食、宿泊、生活関連サービス・娯楽業)向けの寄与度も3期連続のマイナス(12月末▲0.13%→3月末▲0.13%)となっており、特に昨年前半にかけて残高が高止まりしていた飲食、宿泊業で減少している(図表5)、コロナ禍初期の借り入れた資金の一部で返済が始まっているためと推測される。一方、不動産業向けやその他向けの寄与度は依然としてプラスを維持している。

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とりわけ不動産業向け(12月末寄与度0.58%→3月末0.61%)は増勢がやや強まっており、もともと残高が多いこともあって貸出全体の支えになっている。

長期的な動向を見ても、不動産業向け貸出の残高は増加を続けており、異次元緩和導入前の2013年3月末を起点にした場合、直近3月末にかけて30%(29兆円)も増加している(図表6)。

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内訳では、2015年から18年にかけて増加が顕著であった個人による貸家業(アパートローンなど)向けは近年横ばい圏にあるが、それ以外の不動産業向けが一貫して増加基調を続けている。

この結果、銀行貸出全体に占める不動産業向け貸出の割合も、コロナ禍で一旦低下した後、再び上昇しており、銀行貸出の不動産業への依存度が高まっている。

マネタリーベース:前月比で実質過去最大の減少に

6月2日に発表された5月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベース(平残)の伸び率は前年比4.6%と、前月(同6.6%)を下回り、2カ月連続で低下した(図表7)。伸び率は2020年5月以来の低水準に当たる。

低下の主因はマネタリーベースの約7割を占める日銀当座預金の伸び率が低下した(前月7.4%→当月5.1%)ことである。4月の決定会合で毎営業日実施を決定した指し値オペは応札のない状況が続いたが、金利抑制のために4-6月の通常オペを増額していることが日銀当座預金の増加要因になった(図表8)。一方、制度の一部打ち切りに伴ってコロナオペの残高が大きく減少(▲6.6兆円)したことが伸び率の押し下げ要因となった。その他の内訳では、日銀券発行高の伸びが前年比3.3%(前月は3.3%)と横ばいで推移一方、貨幣流通高の伸び率は前年比▲1.7%(前月は▲1.2%)と3カ月連続で前年の水準を割り込んだ。ゆうちょ銀が硬貨入金手数料を導入して以降、貨幣流通高のマイナス幅は拡大しており、貨幣の貯蓄需要減退がうかがわれる。

5月末時点のマネタリーベース残高は673兆円と前月末比で15.0兆円減少した。季節性や月内の動きを除外した季節調整済み系列(平残)でみても、前月比8.7兆円減となっている(図表10)。8.7兆円の減少は過去最大に当たる。

マネタリーベースの先行きについては、今後もコロナオペ一部打ち切りの影響が伸び率押し下げ要因になり続ける。日銀による通常オペ増額や指し値オペが一定の支えにはなるものの、マネタリーベースの増勢鈍化が続きそうだ。いずれ、前年を割り込む可能性も高い。

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マネーストック:増勢が鈍化

6月9日に発表された5月のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比3.19%(前月は3.45%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同2.88%(前月は3.09%)と、ともに低下した(図表11)。伸び率の低下はM2が7ヵ月連続、M3が15ヵ月連続となる。

M3の内訳では、主軸である預金通貨(普通預金など・前月6.3%→当月5.8%)の伸び率低下の影響が大きかった。一方、準通貨(定期預金など・前月▲2.6%→当月▲2.4%)のマイナス幅縮小、CD(譲渡性預金・前月6.2%→当月7.9%)の伸び率上昇が一定の支えになった。現金通貨(前月3.3%→当月3.3%)の伸び率は横ばいであった(図表12・13)。

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広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率は前年比3.56%(前月は4.09%)とM2・M3以上に低下した(図表11)。

内訳では、既述の通り、M3の伸びが低下したことに加えて、規模の大きい金銭の信託(前月9.9%→当月7.3%)、投資信託(私募やREITなども含む元本ベース、前月2.4%→当月2.2%)、国債(前月▲2.8%→当月▲3.2%)の伸び率が低下したことが響いた(図表13)。

貸出・マネタリー統計
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上野 剛志(うえの つよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席エコノミスト

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