この記事は2022年5月13日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「貸出・マネタリー統計(22年4月)~都銀の貸出が11ヵ月ぶりにプラス圏へ浮上」を一部編集し、転載したものです。

貸出・マネタリー統計
(画像=PIXTA)

目次

  1. 貸出動向: 都銀貸出が11ヵ月ぶりにプラス圏へ浮上
    1. 貸出残高
    2. 主要銀行貸出動向アンケート調査
  2. マネタリーベース:コロナオペの残高減少が抑制要因に
  3. マネーストック:増勢が続く

貸出動向: 都銀貸出が11ヵ月ぶりにプラス圏へ浮上

貸出残高

5月12日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、4月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比1.06%と前月(同0.50%)を上回った。伸び率の上昇は2ヵ月連続となる。貸出の伸び率には底入れ傾向が見られる(図表1)。

ただし、円安の進行による外貨建て貸出の円換算残高嵩上げが引き続き押し上げ要因となっているほか(図表3)、前年同月の伸び率が鈍化したことで、比較対象のハードルが下がった面も寄与している。従って、見た目ほど貸出の実態的な増勢が強まっているわけではない。

業態別に見た場合には、都銀の伸び率が前年比0.11%(前月は-0.87%)と11カ月ぶりにプラス圏に浮上。地銀(第2地銀を含む)の伸び率も前年比1.88%(前月は1.68%)とプラス幅をやや拡大している(図表2)。

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主要銀行貸出動向アンケート調査

日銀が4月21日に発表した主要銀行貸出動向アンケート調査によれば、2022年1-3月期の(銀行から見た)企業の資金需要増減を示す企業向け資金需要判断D.I.は0と前回(21年10-12月期)の0から不変であった。(銀行から見た)資金需要は横ばい圏で推移している(図表5)。

企業規模別では、大企業向けが4(前回は0)と上昇し、増加に転じた一方で、中小企業向けが1(前回は2)とやや増勢が鈍った(図表6)。大企業では、製造業向けが7(前回は▲6)と大幅な改善が見られる一方、非製造業向けは▲2(前回は4)とマイナスに転じており、業種によってバラツキが見られる。

需要が「(やや)増加した」と答えた先にその要因を尋ねた問いでは、大企業向けでは「設備投資の拡大」、中小企業向けでは「手許資金の積み増し」を挙げた先が最多であった。

個人向け資金需要判断D.I.は0と前回の1から若干低下し、7期ぶりの低水準となった(図表5)。内訳では、住宅ローンが▲1(前回は0)とやや低下している。(消費者ローンは前回同様▲1)。「住宅投資の減少」を理由とする先が多かった。

今後3ヵ月の資金需要については、企業向けD.I.が4、個人向けD.I.が0と、企業向けがやや増加する見立てになっている(図表5)。経済活動再開に伴い、資金需要が回復に向かうとの期待が背景にあると推測される。

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マネタリーベース:コロナオペの残高減少が抑制要因に

5月6日に発表された4月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベース(平残)の伸び率は前年比6.6%と、前月(同7.9%)を下回り、2カ月ぶりに低下した(図表7)。伸び率は2020年6月以来の低水準に当たる。

低下の主因はマネタリーベースの約7割を占める日銀当座預金の伸び率が大きく低下した(前月9.1%→当月7.4%)ことである。日銀が先月に続き、金利抑制のために指し値オペを連発し、通常オペも増額したことは日銀当座預金の増加要因になった(図表8)が、制度の一部打ち切りに伴ってコロナオペの残高が大きく減少(▲5.6兆円)したことが抑制要因となった。その他の内訳では、日銀券発行高の伸びが前年比3.3%(前月は3.2%)と若干上昇した一方で、貨幣流通高の伸び率は前年比▲1.2%(前月は▲0.7%)と3カ月連続で前年の水準を割り込んだ。

4月末時点のマネタリーベース残高は688.4兆円と前月末比で0.4兆円の増加に留まった。季節性や月内の動きを除外した季節調整済み系列(平残)でみると、前月比5.0兆円増となるが、11カ月ぶりの増加幅を記録した3月(7.6兆円増)からは増勢が鈍化している(図表10)。

マネタリーベースの先行きについては、今後もコロナオペ一部打ち切りの影響が伸び率を押し下げる可能性が高い。一方、日銀による通常オペ(国債買入れ)増額が一定の支えとなるうえ、今後も金利上昇抑制のための指し値オペが実施されれば、押し下げ圧力はさらに緩和されることになる。

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マネーストック:増勢が続く

5月13日に発表された4月のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比3.59%(前月は3.47%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同3.20%(前月は3.10%)と、ともにやや上昇した(図表11)。伸び率の上昇はともに2カ月ぶりとなる。

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M3の内訳では、主軸である預金通貨(普通預金など・前月6.6%→当月6.4%)やCD(譲渡性預金・前月6.5%→当月5.0%)の伸び率低下が重荷となった。しかし、現金通貨(前月3.2%→当月3.7%)の伸び率上昇と、準通貨(定期預金など・前月▲2.9%→当月▲2.4%)のマイナス幅縮小の影響が上回り、全体の伸び率押し上げに繋がった(図表12・13)。

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広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率は前年比3.42%(前月は4.23%)と低下した(図表11)。

内訳では、既述の通り、M3の伸びがやや上昇したほか、投資信託(私募やREITなども含む元本ベース、前月1.4%→当月1.9%)、外債(前月4.7%→当月9.2%)の伸びも上昇したが、規模が大きい金銭の信託(前月11.3%→当月4.9%)の伸び率が前年同月の伸びが大きかった反動で押し下げられたことが響いた(図表13)。

ただし、広義流動性も季節調整値で見ると前月比5.2%増と明確なプラスを維持しており、増勢が続いている。


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上野 剛志(うえの つよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席エコノミスト

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