この記事は2022年4月28日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「2022年1-3月期の実質GDP~前期比▲0.5%(年率▲2.1%)を予測~」を一部編集し、転載したものです。


目次

  1. 要旨
  2. 1-3月期は年率▲2.1%を予測~2四半期ぶりのマイナス成長
  3. 主な需要項目の動向
    1. 民間消費~対面型サービスを中心に弱い動き~
    2. 住宅投資~木材価格の高騰が下押し要因に~
    3. 民間設備投資~2四半期連続の増加~
    4. 公的固定資本形成~5四半期連続の減少~
    5. 外需~3四半期ぶりのマイナス~

要旨

実質GDP
(画像=PIXTA)
  1. 5/18に内閣府から公表される2022年1-3月期の実質GDPは、前期比▲0.5%(前期比年率▲2.1%)と2四半期ぶりのマイナス成長になったと推計される。

  2. まん延防止等重点措置の影響で、外食、宿泊などの対面型サービスを中心に民間消費が前期比▲0.7%の減少となったことに加え、外需寄与度が前期比▲0.3%(年率▲1.1%)と3四半期ぶりに成長率の押し下げ要因となった。高水準の企業収益を背景に設備投資が前期比0.6%と2四半期連続で増加し、ワクチン接種の進捗を反映し政府消費が同0.4%の増加となったが、消費、外需の落ち込みをカバーするまでには至らなかった。

  3. 交易条件の悪化に伴う海外への所得流出が続いている。2021年度の交易利得は▲7.1兆円となり、前年度から▲10.6兆円の大幅悪化が見込まれる。

  4. まん延防止等重点措置が終了した3月下旬以降、対面型サービスを中心に個人消費が持ち直しているとみられる。物価高による家計の実質購買力低下が下押し要因となるものの、行動制限がなければ消費性向の引き上げによる個人消費の急回復が期待できる。

  5. 現時点では、4-6月期の実質GDPは民間消費の高い伸びを主因として前期比年率4%台のプラス成長を予想している。ただし、新型コロナウイルスの感染拡大時にこれまでと同様に行動制限の強化を繰り返せば、消費の持続的な回復は実現しないだろう。

実質GDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

1-3月期は年率▲2.1%を予測~2四半期ぶりのマイナス成長

2022年1-3月期の実質GDPは、前期比▲0.5%(前期比年率▲2.1%)と2四半期ぶりのマイナス成長になったと推計される(*1)。

まん延防止等重点措置の影響で、外食、宿泊などの対面型サービスを中心に民間消費が前期比▲0.7%の減少となったことに加え、外需寄与度が前期比▲0.3%(年率▲1.1%)と3四半期ぶりに成長率の押し下げ要因となった。高水準の企業収益を背景に設備投資が前期比0.6%と2四半期連続で増加し、ワクチン接種の進捗を反映し政府消費が同0.4%の増加となったが、消費、外需の落ち込みをカバーするまでには至らなかった。

実質GDP成長率への寄与度(前期比)は、国内需要が▲0.3%(うち民需▲0.2%、公需▲0.0%)、外需が▲0.3%と予測する。

名目GDPは前期比▲0.4%(前期比年率▲1.6%)と2四半期連続で減少するが、実質の伸びは上回るだろう。GDPデフレーターは前期比0.1%(10-12月期:同▲0.8%)、前年比▲0.8%(10-12月期:同▲1.3%)と予測する。

国際商品市況高騰の影響で輸入デフレーターが前期比3.1%となり、輸出デフレーターの伸び(前期比1.0%)を上回ったことがGDPデフレーターの押し下げ要因となったが、輸入物価の上昇を国内に価格転嫁する動きが広がり、国内需要デフレーターが前期比0.6%の上昇(10-12月期:同▲0.1%)となった。

実質GDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

なお、輸出入デフレーターの差によって生じる所得の実質額を表す交易利得(損失)は、2021年1-3月期から減少が続いているが、2022年1-3月期も前期差▲1.9兆円と5四半期連続の減少となることが予想される。

原油をはじめとした資源価格高騰に伴う交易条件の悪化によって、海外への所得流出が続いている。2021年度の交易利得は▲7.1兆円となり、前年度から▲10.6兆円の大幅悪化が見込まれる。2022年度入り後は、原油高、円安が一段と進んでいるため、交易利得の悪化幅はさらに拡大する可能性が高い。

5/18に内閣府から2022年1-3月期のGDP速報が発表される際には、基礎統計の改定や季節調整のかけ直しなどから、成長率が過去に遡って改定される。当研究所では、2021年10-12月期の実質GDP成長率は外需の下方修正などから、前期比年率4.6%から同4.2%へ下方修正されると予測している。

この結果、2021年度の実質GDP成長率は2.1%(2020年度は▲4.5%)、名目GDP成長率は1.0%(2020年度は▲3.9%)となることが見込まれる。

2021年10-12月期の実質GDPは、コロナ前(2019年10-12月期)比で▲0.4%まで回復したが、2022年1-3月期がマイナス成長となることで、コロナ前を上回るのは2022年度入り後に持ち越される公算が大きい。

まん延防止等重点措置は3/21で終了しているため、3月下旬以降は外食、宿泊などの対面型サービスを中心に個人消費が持ち直しているとみられる。物価高による家計の実質購買力低下が下押し要因となるものの、行動制限がなければ消費性向の引き上げによって個人消費は急回復することが期待できる。

現時点では、4-6月期の実質GDPは民間消費の高い伸びを主因に前期比年率4%台のプラス成長を予想している。ただし、新型コロナウイルス感染症を完全に終息させることは困難であり、感染拡大時にこれまでと同様に行動制限の強化を繰り返すようであれば、消費の持続的な回復は実現しないだろう。


*1: 4/28までに公表された経済指標をもとに予測している。今後公表される経済指標の結果によって予測値を修正する可能性がある。


主な需要項目の動向

民間消費~対面型サービスを中心に弱い動き~

民間消費は前期比▲0.7%と2四半期ぶりの減少を予測する。まん延防止等重点措置の影響で、外食、宿泊などの対面型サービス消費が落ち込んだことに加え、営業時間短縮の影響などから百貨店の売上高が弱い動きとなった。

実質GDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

足もとの消費関連指標を確認すると、「商業動態統計」の実質小売業販売額指数(小売業販売額指数を消費者物価指数(財)で実質化)は2021年10-12月期の前期比0.8%の後、2022年1-3月期は同▲2.7%と大きく落ち込んだ。

また、2021年9月末の緊急事態宣言解除を受けて、年末にかけて急回復した外食産業売上高、延べ宿泊者数は、まん延防止等重点措置の影響で2022年1-3月期はそれぞれ前期比▲1.6%、同▲10.7%と減少に転じた。

住宅投資~木材価格の高騰が下押し要因に~

住宅投資は前期比▲1.3%と3四半期連続の減少を予測する。

実質GDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

新設住宅着工戸数(季節調整済・年率換算値)は2019年10月の消費税率引き上げ後に90万戸を割り込んだ後、新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化した2020年度入り後に80万戸程度へと水準を大きく切り下げた。2021年度入り後に80万戸台半ばまで持ち直した後は一進一退で推移しているが、木材価格の高騰が住宅投資の下押し要因となっている。

民間設備投資~2四半期連続の増加~

民間設備投資は前期比0.6%と2四半期連続の増加を予測する。

設備投資の一致指標である投資財出荷指数(除く輸送機械)は2021年10-12月期の前期比▲1.5%の後、2022年1-3月期は同▲0.1%となった。一方、機械投資の先行指標である機械受注(船舶・電力を除く民需)は2021年10-12月期に前期比5.1%と3四半期連続で増加した後、2022年1、2月の平均は2021年10-12月期を▲4.1%下回っている。

日銀短観2022年3月調査では、2021年度の設備投資計画(全規模・全産業、含むソフトウェア投資、除く土地投資額)が、2021年12月調査から▲3.9%下方修正され、前年度比5.4%となった。一方、2022年度の当初計画は前年度比3.4%となり、2021年度の当初計画(同2.4%)を上回った。

設備投資は、高水準の企業収益を背景に、人手不足対応やテレワーク関連投資、デジタル化に向けたソフトウェア投資を中心に持ち直しの動きが続いている。

設備投資関連指標の推移
(画像=ニッセイ基礎研究所)
設備投資計画(全規模・全産業)
(画像=ニッセイ基礎研究所)

公的固定資本形成~5四半期連続の減少~

公的固定資本形成は前期比▲2.5%と5四半期連続の減少を予測する。

実質GDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

公共工事の先行指標である公共工事請負金額は2020年10-12月期から6四半期連続で減少し、2022年1-3月期は前年比▲8.5%(2021年10-12月期:同▲15.0%)となった。また、公共工事の進捗を反映する公共工事出来高(建設総合統計)は、2021年10-12月期に前年比▲10.4%と2四半期連続で減少した後、2022年1、2月の平均は同▲14.7%と減少幅が拡大している。

公的固定資本形成は、災害復旧や国土強靭化関連工事の進捗を反映し増加傾向が続いていたが、2020年末頃をピークに減少している。

外需~3四半期ぶりのマイナス~

外需寄与度は前期比▲0.3%(前期比年率▲1.1%)と3四半期ぶりのマイナスを予測する。財貨・サービスの輸出が前期比1.7%の増加となる一方、ワクチン購入による押し上げもあり、財貨・サービスの輸入が前期比3.1%と輸出の伸びを上回ったことから、外需は成長率の押し下げ要因となった。

実質GDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

2022年1-3月期の地域別輸出数量指数を季節調整値(当研究所による試算値)でみると、米国向けが前期比4.0%(10-12月期:同▲1.1%)、EU向けが前期比4.5%(10-12月期:同▲0.1%)、アジア向けが前期比0.1%(10-12月期:同▲2.7%)、うち中国向けが前期比2.3%(10-12月期:同▲5.5%)、全体では前期比0.9%(10-12月期:同▲0.6%)となった。

米国向け、EU向けは自動車の減少を一般機械、鉄鋼などの増加がカバーする形で、全体としては底堅い動きとなっているが、アジア向けは10-12月期の落ち込みを取り戻しておらず、弱めの動きとなっている。中国では、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、上海で3月下旬から都市封鎖が実施されており、4月以降の輸出に悪影響が及ぶ可能性が高い。

実質GDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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斎藤太郎 (さいとう たろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 経済調査部長

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