この記事は2022年4月21日(木)配信されたメールマガジンの記事「岡三会田・田 アンダースロー(日本経済の新しい見方)『本当の基礎からわかるGDPの見方』」を一部編集し、転載したものです。


GDP
(画像=PIXTA)

目次

  1. はじめに
  2. GDPとは何か
  3. 企業の設備投資の分類
    1. 民間企業設備の経済主体
    2. 設備投資の注意点
  4. GDPの公表文
    1. 実際の数字
    2. 2次QEで修正されやすい部分

はじめに

「本当の基礎からわかる日本経済」セミナーの第2回目で、エコノミストの田がGDPについて解説しました。

GDPは各四半期から約1カ月半後に公表されるため、過去の結果であり、株式市場であまり注目されないことがあります。しかし、GDPのトレンドは確実に株価のトレンドに影響を及ぼします。

推計では、名目GDPの1標準偏差の変化に対して、日経平均は0.3標準偏差、TOPIXバリューは0.7標準偏差、TOPIXグロースは0.2標準偏差の変化となることが分かっています。

その四半期の成長率の結果だけではなく、その内容から、その後のトレンドとシナリオを想定することは大切な作業になります。特に、実質設備投資の実質GDPに対する比率で表す設備投資サイクルは重要です。設備投資には、企業の期待成長率や期待収益率が反映されます。

株式市場はまさしくこれらを取引するマーケットですから、設備投資サイクルの影響を大きく受けます。これまで17%をなかなか突き抜けられなかったことが、日本の株式市場の恒常的な停滞のマクロ的な象徴となってきました。

グリーン、デジタル、先端科学技術、経済安全保障のテーマに加え、政府の成長投資に刺激されて、17%を突き抜ける動きがあれば、日本の株式市場は30年来の上振れの転換点を迎えることになります。

GDPとは何か

GDPとは、ある期間に、国内の居住者によって生産された財貨・サービスから、中間消費を控除した総額であり、新たな付加価値の合計です。ストックベースではなく、フローベースのデータです。GDPは概念的に3つの観点、生産面、支出面、分配面、から計算できます。通常は支出面からみたGDPが注目されています。

GDPは年に8回、内閣府が公表しています。公表時刻は8時50分です。最初の速報は1次速報、または1次QEと言います。各四半期から約1カ月半後に公表されます。2回目の速報は2次速報、または2次QEと言います。各四半期から約2カ月半後に公表されます。

1次QEと2次QEでGDP全体の前期比の符号が逆になることがあります。これは、企業設備投資や企業在庫変動の推計に必要な法人企業統計が、1次QE時点で利用できず、2次QEで初めて取り込まれるという点が関係しています。

GDPは約5年に1回基準改定され、推計方法が変更されます。このとき、過去の値が大きく変わる時もあります。GDPは1955年までさかのぼれますが、現在の基準では1994年までさかのぼれます。

企業の設備投資の分類

計上項目は、新たに新設した、有形固定資産です。新品で購入したものだけでなく、新規のリース資産も含まれます。一方で、中古品の購入は含まれません。固定資産とは、原則として1年を超えて繰り返し使用される資産です。定義上、5つに分類できます。

1つめは、建物と構築物です。建物とは、学校や病院、ホテル、工場などの新築、増築、改築が含まれます。構築物とは、道路や橋、堤防、ダム、鉄道線路、電気通信施設などが含まれます。そのほか、住宅を除く不動産の売買仲介手数料も含まれます。

2つめは、機械と設備です。機械とは、自動車や鉄道車両、航空機、船舶などの輸送用機械です。設備とは、パソコンや携帯電話などの情報通信機器が含まれます。そのほか、計測機器、医療用機械、建設機械、工作機械なども含まれます。

3つめは、防衛装備品です。例えば戦車、戦艦などがありますが、公的部門に計上されます。

4つめは、育成生物資源です。例えば、乳牛やくだものの樹木のような動植物です。

5つめは、知的財産生産物です。例えば、研究・開発、いわゆるR&Dです。後は、ソフトウェア、映画、テレビ番組、音楽や書籍も含まれます。

民間企業設備の経済主体

民間企業設備の経済主体は、民間企業の他、個人企業、農家、対家計非営利団体です。対家計非営利団体とは、私立学校、宗教団体、政党などです。

設備投資の注意点

設備投資の注意点は、M&Aは含まれないことです。M&Aは株式の取得なので金融資産の取得となり、そもそもGDPの対象ではありません。

GDPの公表文

では、ここからはGDPの公表文を見ていきます。下の図は、2022年3月9日に公表された、2021年10月〜12月期2次QEの公表文の1ページ目です。

▽GDP公表文1ページ目。2021年10月〜12月期2次QE

GDP公表文1ページ目 2021年10-12月期2次QE
(画像=出所:内閣府、作成:岡三証券)

上の赤枠には、四半期、実質値、季節調整済、前期比とあり、このページが最も重要です。GDPは名目値と実質値があります。

名目値とは、市場で取引されている価格、実際に支払った価格に基づく値です。実質値は、物価変動による影響を取り除いた値です。言い換えれば、金額ではなく、数量、生産量を表しています。

季節調整とは、季節特有の変動要因の影響を取り除くことです。前期比を見るときは、実質値の季節調整済で見ることが一般的です。

赤枠の下にある青枠は寄与度です。GDPの前期比に対して、各項目がどれぐらい寄与しているかを表しています。

左側の文字は、需要項目と言って、GDPの構成を表しています。GDPは国内需要と海外需要に分かれます。国内需要は民間と公的に分かれます。

民間は、消費、住宅、企業設備、在庫変動に分かれます。公的は、政府消費、固定資本形成、在庫変動に分かれます。海外需要は財貨・サービスの輸出と輸入の差、いわゆる純輸出です。

実際の数字

実際に数字を見ていきます。上の緑のシャドー部分を見ると、GDPは1次速報の1.3から、2次速報の1.1に、0.2ポイント下方修正されました。

GDPの中身を見るために、青枠の寄与度を見ていきます。上にある国内需要は1.1から0.9に下方修正さました。その中身を見ると、上にある民間最終消費は1.4から1.3に下方修正されたため、実質GDPは下方修正されました。

そのほかの国内需要を見ると、民間住宅は−0.0で変わらず、企業設備は0.1で変わらず、民間在庫は−0.1で変わらずでした。

下にある輸出は0.2で変わらず、輸入は0.0から0.1に上方修正されました。輸出と輸入を合算すると、純輸出は0.2で変わらずでした。

2次QEで修正されやすい部分

通常2次QEで修正されやすいのは、企業設備と在庫変動です。輸出と輸入も修正されましたが、今回はコロナ対応で季節調整の方法が変わったためであり、通常、輸出と輸入の修正幅は小さいです。

今回お見せしたのは公表文の数字のページですが、テキストによるポイント解説もあります。1次速報から2次速報への主な改定要因もまとめられています。必要に応じて、公表文を活用いただければと思います。


会田 卓司
岡三証券 チーフエコノミスト
田 未来
岡三証券 エコノミスト

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