この記事は2022年5月13日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「景気ウォッチャー調査(22年4月)~現状判断DIは50超えも、資源価格高騰や円安による値上げに懸念」を一部編集し、転載したものです。
目次
現状判断DIは50超え、先行き判断DIも3か月連続で改善
5月12日に内閣府が公表した2022年4月の景気ウォッチャー調査(調査期間:4月25日から月末)によると、3か月前との比較による景気の現状判断DI(季節調整値)は50.4と前月から2.6ポイント上昇した(2か月連続の改善、21年12月以来の50超え)。また、2~3か月先の景気の先行き判断DI(季節調整値)は50.3と前月から0.2ポイント上昇した(3か月連続の改善、2か月連続で50超え)。
地域別でみると、現状判断DI(季節調整値)は全国 12 地域中9地域で改善し3地域で低下した。また、先行き判断DI(季節調整値)は全国12地域中8地域で改善し、4地域で低下した。低下した地域は主に感染者数の増加や高止まりがみられた地域であった。
現状判断DI、先行き判断DIともに50を超え、景況感は改善の方向性を示している。一部地域を除いて感染者数の減少傾向が続いていることや経済活動の制限の緩和が進んでいることがその要因だろう。ただし、先行き判断DIの家計動向関連が前月から低下したことが示すように、資源価格高騰や円安、それらに伴う値上げが景況感の下押し要因になりつつある点に留意が必要だ。
景気の現状判断DI:飲食、サービス関連が大きく改善
現状判断DIは、3月でまん延防止等重点措置が解除された後に上昇に転換し、今月は50を超えた。回答者構成比でみても、「改善」(「良くなっている」と「やや良くなっている」の合計)が3割を超えた。
現状判断DIの内訳について、家計動向関連は49.6(前月差2.8ポイント、2か月連続の改善)、企業動向関連は47.4(同1.9ポイント、2か月連続の改善)、雇用関連は62.6(同3.1ポイント、3か月連続の改善)と、全てで改善した。雇用関連が60を超えるのは、2014年2月(60.7)以来であり、著しい改善傾向を示している。回答者のコメントの多くで、人手不足による企業の採用意欲の高さが指摘されていた。
また、家計動向関連の内訳では、サービス関連(53.5(前月差6.0ポイント))と飲食関連(52.8(同5.9ポイント))で前月から大きく改善した。(住宅関連(45.7(同1.1ポイント)、小売関連(47.7(同1.0ポイント)))
回答者のコメントからは、景況感が改善したと判断した回答者のコメントには、まん延防止等重点措置、解除、予約、需要、活発、回復といった単語が多く含まれ、まん延防止等重点措置解除による需要の回復が言及される傾向があった。一方、景況感が悪化していると判断した回答者のコメントには、原材料、円、高騰、値上げ、物価、ウクライナなどの単語が多く含まれ、資源価格高騰や円安による値上げが言及される傾向がみられた(*1)。
<まん延防止措置解除に関連した回答者の主なコメント>
まん延防止等重点措置が解除された後、航空機利用が増加している。特に春休みは家族連れや若い世代の動きが目立った。4月は年間でもビジネス客の動きが鈍る時期の1つであるため、大きな伸びはみられないが、新聞に旅行広告が復活したこともあり、観光需要の取り込みがようやく本格的になり始めている(北海道・旅行代理店)
前年に比べて、新型コロナウイルスの新規感染者数が多くても、まん延防止等重点措置等が適用されていないこともあり、来園者数が増えてきている(北関東・テーマパーク)
<原油や原材料価格の高騰、円安、物価上昇に関連した回答者の主なコメント>
新型コロナウイルスの影響からの回復の兆しは見えるものの、世界情勢不安による消費者心理の冷え込みや、原油高、円安による様々な生活必需品の価格高騰により、個人消費の動向は予断を許さない状況である。(南関東・百貨店)
新型コロナウイルス感染症及びウクライナ情勢等の不安定要素があり客の消費活動が抑えられているなか、ガソリン価格の高騰と生活用品の値上げも重なり消費活動が更に消極的に向かっているように感じる。レジャー産業が中心ということもあり厳しい状況が続いている(四国・商店街)
*1:KH Coderによる対応分析を実施。
景気の先行き判断DI:3か月連続で改善も値上げへの懸念から家計関連は低下
2~3か月先の景気の先行き判断DIは3か月連続で改善し、2か月連続で50を上回った。
先行き判断DI(季節調整値)の内訳について、家計動向関連は50.0(前月差▲0.9ポイント)、企業動向関連は48.2(同3.1ポイント)、雇用関連は56.3(同1.0ポイント)であった。
また、家計動向関連の内訳をみると、飲食関連(前月差1.2ポイントの53.4)とサービス関連(同0.5ポイントの55.0)は上昇したが、小売関連(同▲1.8ポイントの48.0)と住宅関連(同▲0.8ポイントの41.6)は低下した。
回答者のコメントでは、現状判断と同様の傾向ではあるが、先行きへの期待を示す回答者のコメントには、需要、旅行、増加、回復といった単語が含まれる傾向がみられる一方で、先行きへの懸念を示すコメントには原材料、円、高騰、物価、価格、値上げ、ロシア、ウクライナ、侵攻といった単語が含まれる傾向がみられた。
<まん延防止等重点措置の解除以降の先行き期待に関する主なコメント>
日並びの良いゴールデンウィークを起点として、観光需要を喚起するような情報が多く出されていることに加えて、道民割や自治体の観光振興策が打ち出されていることから、これまで蓄積されてきた旅行需要が今後顕在化することを期待している(北海道・旅行代理店)
現在、ゴールデンウィークを迎えるにあたり、ウィズコロナが浸透し、行楽需要が回復傾向にある。今後2~3か月先の夏休み時期も回復傾向が順調に進んでいれば、商況も回復する期待が持てる。(南関東・百貨店)
<原材料高騰や円安、値上げ、ウクライナ侵攻に関する主なコメント>
行き過ぎた円安、原材料不足、エネルギー価格の高騰、新型コロナウイルスの影響が、現在の景気に悪影響をもたらしている要因である。一つずつ解決できるかできないか、現時点では大きく改善する要素は見当たらない(南関東・家電量販店)
5月以降は商品価格の上昇やガソリンの価格高騰、円安と社会情勢による影響が出てくるとみている。食品だけでなく衣料品や雑貨など、値上げによる客の購買意欲低下を予想している。セール品などを導入する予定だが、客が消費を引き締める可能性が高い。また、高額なぜいたく品も値上げの連発で、活況であった上客の購買意欲が低下する可能性もあり、ややマイナス要因になるとみている。(北陸・百貨店)
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山下 大輔(やました だいすけ)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員
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