資産形成を目指している方にとって、「資産3,000万円」は一つの目安となるでしょう。この水準を達成した世帯は、「アッパーマス層」と呼ばれ、さらに上の階層「準富裕層、富裕層、超富裕層」も存在します。本記事では、まず目標となりやすい「アッパーマス層」に焦点を当て、その実態(年代、年収など)と、そこを目指すための具体的な方法を解説します。
アッパーマス層とは?どんな人が該当する?

アッパーマス層とは、純金融資産の合計額が3,000万円~5,000万円未満の世帯のことです。
野村総合研究所が2025年に発表した調査によるとアッパーマス層は日本の全世帯の約10.35%を占めています。これは、大多数を占める純金融資産3,000万円未満の「マス層」より一段上の階層であり、経済的に比較的余裕のある世帯といえます。
アッパーマス層の位置づけ:マス層からの前進と選択肢の広がり
日本の世帯の大多数(約8割)が純金融資産3,000万円未満の「マス層」に属する中で、アッパーマス層は、資産形成において一定の成果を上げ、次のステージに進んだ層と位置づけられます。この段階に到達すると、マス層に比べて経済的な余裕が生まれ、住宅購入の選択肢が広がったり、子供の教育資金や自身の老後資金により多くの備えができたりと、ライフプランにおける選択肢が広がることが期待されます。
アッパーマス層に到達するまでの道のりは、決して一つではありません。以下のように、様々な背景を持つ人々が含まれると考えられます。
・計画的な貯蓄と投資: 長年にわたり、夫婦共働きなども含め、勤労収入から計画的に貯蓄を行い、NISAやiDeCoなどを活用しながら投資を継続してきた世帯。
・退職金の受給: 定年退職時にまとまった退職金を受け取り、それによって純金融資産が3,000万円を超えた世帯(特に60代以上に多いと推測されます)。
・相続や贈与: 親などからの相続や生前贈与によって資産を受け継いだケース。
・事業収入など: 比較的高収入な自営業者や、事業が成功している経営者など。
このように、アッパーマス層は多様な人々で構成されていると理解することが大切です。
保有資産階層とは?
保有資産階層は、野村総合研究所が独自に定義しているマス層〜超富裕層までの階層を分ける基準です。同社は保有資産に関するアンケートを定期的に実施しており、その調査結果をまとめる指標として次の階層を設定しています。
保有資産階層 | 純金融資産保有額 | 世帯数 | 世帯割合 |
---|---|---|---|
超富裕層 | 5億円以上 | 11.8万世帯 | 0.21% |
富裕層 | 1億円~5億円未満 | 153.5万世帯 | 2.76% |
準富裕層 | 5,000万円~1億円未満 | 403.9万世帯 | 7.25% |
アッパーマス層 | 3,000万円~5,000万円未満 | 576.5万世帯 | 10.35% |
マス層 | 3,000万円未満 | 4,424.7万世帯 | 79.43% |
上記の「純金融資産保有額」には現金や預貯金、株式、債券、投資信託などの金融資産も含まれます。アッパーマス層以上の世帯は、国内に20.57%いることが分かります。
年齢層ごとのアッパーマス層以上の世帯割合と貯蓄状況
アッパーマス層以上の世帯割合と貯蓄状況は、年齢によって傾向が異なります。ここからは金融広報中央委員会のデータをもとに、年齢層別の世帯割合と貯蓄状況を紹介します。
20代の場合
<20代の資産3,000万円以上の世帯割合>
世帯割合 | |
---|---|
総世帯 | 0.1% |
単身世帯 | 0% |
二人以上世帯 | 0.6% |
<20代の金融資産保有額(金融資産を保有していない世帯を含む)>
平均 | 中央値 | |
---|---|---|
総世帯 | 151万円 | 10万円 |
単身世帯 | 121万円 | 9万円 |
二人以上世帯 | 249万円 | 30万円 |
20代でアッパーマス層以上に該当する世帯は、全体の0.1%です。世帯別で比較すると、金融資産保有額の平均は二人以上世帯のほうが多く、3,000万円以上の世帯割合にも差が見られました。
また、20代には働き始めたばかりの人や学生なども含まれるため、他の年代に比べるとアッパーマス層以上の割合が低くなっています。
30代の場合
<30代の資産3,000万円以上の世帯割合>
世帯割合 | |
---|---|
総世帯 | 4.0% |
単身世帯 | 4.0% |
二人以上世帯 | 4.0% |
<30代の金融資産保有額(金融資産を保有していない世帯を含む)>
平均 | 中央値 | |
---|---|---|
総世帯 | 599万円 | 130万円 |
単身世帯 | 594万円 | 100万円 |
二人以上世帯 | 601万円 | 150万円 |
30代の金融資産保有額の平均は約600万円であり、20代に比べると貯蓄の中央値も増えています。アッパーマス層以上の割合は単身、二人以上世帯に関わらず4.0%でした。
世帯にもよりますが、30代は大きな支出を伴うライフイベント(※)が起こりやすい時期です。特に結婚や出産、マイホーム購入などを控えている二人以上世帯は、貯蓄額を増やすことが難しい場合もあります。
40代の場合
<40代の資産3,000万円以上の世帯割合>
世帯割合 | |
---|---|
総世帯 | 6.0% |
単身世帯 | 4.3% |
二人以上世帯 | 6.5% |
<40代の金融資産保有額(金融資産を保有していない世帯を含む)>
平均 | 中央値 | |
---|---|---|
総世帯 | 811万円 | 180万円 |
単身世帯 | 559万円 | 47万円 |
二人以上世帯 | 889万円 | 220万円 |
40代の金融資産保有額の平均は811万円、貯蓄の中央値は180万円です。この年齢層は世帯別の平均額に開きがあり、単身世帯(独身)と二人以上世帯の差は330万円となりました。
50代の場合
<50代の資産3,000万円以上の世帯割合>
世帯割合 | |
---|---|
総世帯 | 10.7% |
単身世帯 | 9.3% |
二人以上世帯 | 11.2% |
<50代の金融資産保有額(金融資産を保有していない世帯を含む)>
平均 | 中央値 | |
---|---|---|
総世帯 | 1,212万円 | 200万円 |
単身世帯 | 1,391万円 | 80万円 |
二人以上世帯 | 1,147万円 | 300万円 |
50代になると、総世帯におけるアッパーマス層以上の割合は10%を上回ります。単身世帯(独身)では9.3%、二人以上世帯では11.2%が資産3,000万円以上を保有しいており、いずれの世帯も平均額が1,000万円を超えています。
この世代は単身世帯の平均額が高い一方で、中央値は二人以上世帯の方が高いというのが特徴です。たとえば、子どもがいる世帯は、成長とともに教育資金などの負担が増えるため、金融資産保有額は低くなるが、そのための貯蓄をしている世帯は多いことが読み取れます。
60代の場合
<60代の資産3,000万円以上の世帯割合>
世帯割合 | |
---|---|
総世帯 | 19.0% |
単身世帯 | 15.1% |
二人以上世帯 | 20.5% |
<60代の金融資産保有額(金融資産を保有していない世帯を含む)>
平均 | 中央値 | |
---|---|---|
総世帯 | 1,862万円 | 530万円 |
単身世帯 | 1,468万円 | 210万円 |
二人以上世帯 | 2,026万円 | 700万円 |
60代のアッパーマス層以上の割合は、総世帯で19.0%です。20代~70代の中では最も高く、二人以上世帯の平均貯蓄は2,000万円を超えました。
60代の金融資産保有額が多い理由としては、定年退職時に受け取る退職金が考えられます。厚生労働省の調査(令和5年)によると、91.1%の企業では退職一時金が支給されています。
70代の場合
<70代の資産3,000万円以上の世帯割合>
世帯割合 | |
---|---|
総世帯 | 18.9% |
単身世帯 | 17.3% |
二人以上世帯 | 19.7% |
<70代の金融資産保有額(金融資産を保有していない世帯を含む)>
平均 | 中央値 | |
---|---|---|
総世帯 | 1,683万円 | 650万円 |
単身世帯 | 1,529万円 | 500万円 |
二人以上世帯 | 1,757万円 | 700万円 |
70代の平均額は1,683万円、中央値は650万円です。単身、二人以上世帯ともに中央値で500万円以上の金融資産を保有しており、一定の老後資産を形成していることがわかります。
上記のデータは、金融広報中央委員会による「令和5年(2023年)家計の金融行動に関する世論調査」を参考資料にしています。
参照:総世帯(各種分類別データ(令和5年)
参照:単身世帯(各種分類別データ(令和5年)
参照:二人世帯(各種分類別データ(令和5年)
アッパーマス層以上の業種や年収
ここからは、アッパーマス層以上の業種や年収の傾向を見ていきましょう。
業種別の世帯割合
次は、就業先の業種を見ていきましょう。
世帯主の業種 | 3,000万円を超える世帯の割合 |
---|---|
農林漁鉱業 | 11.7% |
建設業 | 9.6% |
製造業 | 9.9% |
運輸業・郵便業 | 5.2% |
卸売業・小売業 | 9.2% |
宿泊業・飲食サービス業 | 3.5% |
医療・福祉 | 7.0% |
公務・教育・電気水道業 | 15.5% |
その他サービス業 | 9.9% |
このデータから、「農林漁鉱業」と「製造業」、「公務・教育・電気水道業」に従事している世帯主がいる世帯は資産3,000万円以上が比較的多いと推測できます。ただし、実際の勤め先によって賃金や退職金の額は変わってくるため、上記の結果はあくまで目安として参考にしてください。
年収別の世帯割合
次は、年収ごとの割合をまとめたものです。
世帯年収 | 3,000万円を超える世帯の割合 |
---|---|
収入はない | 2,7% |
300万円未満 | 5.9% |
300~500万円未満 | 9.9% |
500~750万円未満 | 12.9% |
750~1,000万円未満 | 18.1% |
1,000~1,200万円未満 | 25.5% |
1,200万円以上 | 37.4% |
年収1,200万円以上世帯の約4割が資産3,000万円以上を保有していることが分かります。
アッパーマス層以上を目指す方法
資産3,000万円以上を目指すには、「資産を減らさないこと」と「資産を増やすこと」を同時に考える必要があります。実際にはどのような方法があるのか、以下ではその一例を紹介します。
年収を上げる
世帯年収の多さは直接的・間接的に金融資産保有額に大きな影響を与えているため、年収を上げることで資産を増やしやすくなります。具体的な方法としては、
・現職でのスキルアップや資格取得による昇進・昇給
・より待遇の良い企業への転職
・専門性や経験を活かせる副業(Web制作、デザイン、コンサルティング、講師業など)
などが考えられます。自身のキャリアプランと照らし合わせて検討しましょう。
支出をコントロールする
資産は少し余裕がでてきたからといっても、支出を抑えずに浪費するようになると、すぐに目減りします。そのため、まずは日々の支出をうまくコントロールし、資産の目減りを極力抑えましょう。無駄な出費を控えるのはもちろん、水道光熱費や通信費などの固定費を見直すことも大切です。
・住居費: より家賃の安い物件への引っ越し、住宅ローンの借り換え検討
・通信費: スマートフォン料金プランの見直し、格安SIMへの乗り換え
・保険料: 保障内容が過剰でないか定期的に確認し、必要に応じて見直す
・サブスクリプション: 利用頻度の低いサービスは解約する
などを検討し、無理なく継続できる範囲で支出を最適化しましょう。
資産を運用して増やす
収入にもよりますが、支出のコントロールによって守れる資産には限界があります。アッパーマス層以上を目指すには、さらに数千万円分の資産を増やす必要があるので、余裕資金を運用することも検討してみましょう。
具体的な資産運用の例と、それぞれの簡単な特徴は以下の通りです。
株式投資
企業が発行する株式を売買し、株価の値上がりによる利益(キャピタルゲイン)や、企業が利益の一部を株主に還元する配当金(インカムゲイン)を期待する投資です。個別企業の業績や経済動向によって価格が大きく変動する可能性があります。
投資信託
投資家から集めた資金を、運用の専門家(ファンドマネージャー)が国内外の株式や債券、不動産などに分散して投資する仕組みの商品です。少額から購入でき、手軽に分散投資を始められます。
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REIT(リート/不動産投資信託)
投資家から集めた資金でオフィスビルや商業施設、マンションなどの不動産を購入・運用し、そこから得られる賃料収入や売却益を投資家に分配する商品です。比較的安定した分配金が期待できますが、不動産市況や金利の変動リスクの影響を受けます。
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外貨預金
日本円を米ドルやユーロなどの外国通貨に換えて預金するものです。一般的に日本円預金より高い金利が期待できる場合がありますが、為替レートの変動によって円換算した際に元本割れする(為替リスク)可能性があります。
これらの運用方法に加え、税制面で優遇を受けられる制度を活用することも有効です。
NISA(少額投資非課税制度)
NISA口座内で購入した株式や投資信託などから得られる利益(値上がり益、配当金・分配金)が、一定の投資額まで非課税になる制度です。「つみたて投資枠」と「成長投資枠」があり、併用も可能です。
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iDeCo(イデコ/個人型確定拠出年金)
自分で掛金を拠出し、自分で運用方法を選んで掛金を運用する私的年金制度です。掛金が全額所得控除される、運用期間中の利益が非課税になる、受け取る時にも税制優遇がある、といった税制メリットが大きいのが特徴ですが、原則として60歳になるまで資産を引き出すことができません。
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ただし、投資(外貨預金含む)には価格変動リスクや為替リスクがあり、元本割れの可能性も伴います。 リスクを抑えるためには、
・長期投資: 短期的な価格変動に一喜一憂せず、長期的な視点で運用する
・積立投資: 毎月一定額をコツコツ投資することで、購入価格を平準化する(ドルコスト平均法)
・分散投資: 投資対象(株式、債券、不動産、国内外など)や通貨、時間を分散させる
という考え方で、ご自身のリスク許容度やライフプランを考慮し、無理のない範囲で始めましょう。
専門家やプロへの相談
資産形成の方法がなかなか見つからない場合は、専門家やプロに相談をする方法もひとつの手です。例えば、証券会社や金融機関の相談窓口を利用すれば、資産額に適した投資商品を提案してもらえる可能性があります。
その他に、資産運用のプロであるファイナンシャルプランナーや不動産経営の専門会社なども、相談先として挙げられます。ただし、最終的な投資判断は自分で行うことになるので、必要最低限の知識はつけておきましょう。
中長期的なプランを立てて、ひとつでも上の階層を目指そう
アッパーマス層は世帯全体の10%程度しか存在しませんが、努力次第ではマス層からでも目指すことは十分に可能です。また、すでに資産3,000万円を保有している場合は、中長期的な資産運用プランを立てることで、準富裕層や富裕層になれる可能性が高まるでしょう。保有資産階層をひとつでも上げたい方は、本記事を参考にしながら計画を立ててみてください。
※本記事は資産運用に関わる基礎知識を解説することを目的としており、資産運用を推奨するものではありません。
(提供:Wealth Road)