この記事は2022年6月28日に「第一生命経済研究所」で公開された「猛暑と個人消費を考える」を一部編集し、転載したものです。


猛暑
(画像=oka/stock.adobe.com)

行き過ぎた気温上昇が外出手控えに繋がることも

「猛暑効果」という言葉に象徴されるとおり、猛暑は夏場の個人消費を増やすと言われることが多い。直接的には、飲料や家電といった猛暑関連消費が増加するといった効果が挙げられる。

もう1つの間接的な影響としては、外出機会の増加を通じた効果がある。夏場に気温が上昇するケースでは、同時に好天に恵まれて日照時間も長くなることが多い。その分、外出が増え、消費が刺激されることになる。過去の例をみても、猛暑の夏に消費が増えることが多いのは事実である。今年(2022年)についても、早い梅雨明けや気温の急上昇を受けて、猛暑効果による夏場の消費増を期待する声が増えると思われる。

もっとも、気温の上昇が常に夏場の消費にプラスに効くわけではない。暑い夏と日照時間の増加の組み合わせは行楽地等への需要増をもたらすことが多いが、もしも気温の上昇が行き過ぎて「暑過ぎる夏」になった場合には、期待される効果とは逆に、猛暑が外出の手控えに繋がる可能性がある。

実際、記録的な猛暑となった2018年には気象庁が不要な外出を手控えるよう呼びかけるなど異例の状況となり、外出を取りやめた人も多かった。こうした事態が生じる場合、サービス消費を中心として猛暑が個人消費の逆風になる可能性すらあるだろう。

「電気代」への支出増加が家計への重荷に

電気代負担の増加も懸念材料だ。猛暑で増加する夏物消費はいくつかあるが、なかでも夏場の気温上昇と明確な相関があるのが「電気代」である。仮に今夏が猛暑になれば、家計の電力消費は大きく増加するだろう。もっともこれは、猛暑によって消費が活性化されたというものではなく、暑さに耐えかねてやむなく増やさざるを得ない消費である。

特に今年の夏は電気料金が大きく上昇しているだけに、家計負担は大きなものになる。こうした形での電力消費の増加は、喜べる形の消費増でないことは明らかだ。こうした場合、家計は電気代への支払額が増加した分、他の消費を減らすという行動に出やすいほか、負担増がタイムラグをもって個人消費の抑制に繋がることも考えられる。

また、今夏に予想されている電力不足も懸念材料だ。仮に企業や家計の節電だけでは解消できず、電力使用に制限が課せられることで生産活動が抑制されるような事態に陥れば、猛暑効果どころの話ではなくなる。

懸念される野菜価格の上昇

もう1つ懸念されるのが野菜価格の上昇だ。早い梅雨明けは日照時間の面ではプラスである一方、降雨量が減り過ぎれば渇水による問題も出てくる。また、猛暑によって野菜の生育に悪影響が生じることも多く、特にキャベツやハクサイ、レタス等の葉物野菜は影響を受けやすい。気温の上昇が行き過ぎれば、野菜価格の上昇に繋がりかねない。

もともと2022年の野菜価格は大幅に上昇している。生鮮食品を除いたCPIコアは2022年5月で前年比+2.1%と、エネルギー価格の上昇を主因として高い伸びとなっているが、生鮮食品を含んだCPI総合は+2.5%と、CPIコアと比べても上昇率が大きい。

仮に野菜価格がさらに上昇するようであれば、消費者への負担は一段と増すことになる。野菜にしてもエネルギー価格にしても生活に必要不可欠であり節約が難しい。その分、他の消費を削らざるを得なくなるというわけだ。特に、野菜への支出比率が高い高齢者層への影響は大きくなるだろう。

また、野菜は生活に身近で購入頻度が高い分、他の財と比べて価格上昇を意識しやすいという特徴をもっている。こうした体感物価の上昇が心理的な面を通じて消費に悪影響を及ぼす可能性にも注意したいところだ。

このように、猛暑と個人消費については考慮すべき要因がいくつかあり、両者の関係はそう単純なものではない。もちろん、気温の上昇が消費を押し上げる可能性があることを否定するものではないが、それも程度問題である。気温の上昇が行き過ぎ、「暑過ぎる夏」となった場合には、逆に消費の足を引っ張る要因に転じかねないことを念頭に置いておく必要があるだろう。

[参考文献]

  • 新家義貴(2018)Economic Trends「今年の猛暑は消費を増やすか、減らすか?」
第一生命経済研究所 シニアエグゼクティブエコノミスト 新家 義貴