この記事は2022年7月13日(水)配信されたメールマガジンの記事「岡三会田・田 アンダースロー(日本経済の新しい見方)『日本経済ピッチ(シナリオ):積極財政と金融緩和のポリシーミックスの継続がデフレ完全脱却の鍵』」を一部編集し、転載したものです。
メイン・シナリオ-デフレ完全脱却に向けた道筋
2021年度:新型コロナウィルスの影響と、金融緩和縮小などでのインフレに対するグローバルな政策当局のスタンスへの警戒、そして地政学上のリスクで、日本の信用・設備投資・リフレの三つのサイクルに停滞感があり、景気は緩やかなU字型の回復にしかならず、マーケットは弱い動き
2022年度:ウィルス、地政学上の問題、そして供給制約が解消に向かう中で、日本の設備投資サイクルが上振れ、景気はV字型に回復し、グローバルな金融政策の漸進的な正常化と財政政策の緩和の継続は景気動向よりも政策の引き締めは緩やかであり、マーケットは持ち直しの動きに
2023年度:グローバルな政策当局の引き締め政策の効果が遅行して現れ、インフレが高位安定する中で引き締め継続の懸念もあり、日本でも新日銀総裁下の金融政策の不透明感で、マーケットは一時的に弱い動きに
2024年度:グローバルな政策当局が徐々にインフレを許容し、引き締め政策が景気オーバーキルにはならない安心感と、緩和的な財政政策も続き、企業活動が活性化し、日本でも3つのサイクルが強い状態を維持したまま、マーケットは再び強い動き
2025年度:日本では企業活動が活性化を続け、賃金上昇により消費活動も拡大することで、2%の物価目標を達成するとともに政府がデフレ完全脱却宣言し、マーケットの動きは投資が生産性を押し上げられたかどうかによって違いが出る
異常なプラスの企業貯蓄率による過剰貯蓄の総需要破壊の力が、内需低迷とデフレの原因だった。日銀が大規模な金融緩和を実施し、信用サイクルが上振れ、企業のデレバレッジが大きく緩和し(企業貯蓄率が低下し)、失業率も低下した。名目GDPと総賃金が拡大に転じた。
財政緊縮とまだ慎重な企業行動により、ネットの資金需要(財政収支+企業貯蓄率)は消滅していて、市中のマネーの拡大する力(リフレ・サイクル)と家計へ所得を回す力がまだ弱かったことが、なかなかデフレを脱却できない原因であった。
岸田内閣の積極財政と企業活動の再活性化で、ネットの資金需要が復活後に持続し、それをマネタイズする日銀の粘り強い金融緩和の継続と合わせ、積極財政と金融緩和のポリシーミックスの効果が継続し、「成長と分配の好循環を目指す」アベノミクスであるキシダノミクスに変化し、不完全であったリフレ政策が家計に所得を回すようなより完成したもの(アベノミクス2.0)になる。
円安の力もあり、設備投資サイクルが上振れ、失業率は再び低下し、総賃金の強い拡大で消費も回復するとともに、景気拡大は加速するようになるだろう。
第四次産業革命や脱炭素などの強い投資テーマで、政府の成長投資の拡大を合わせて、企業活動が活性化を続けて、企業貯蓄率がマイナス化(正常化)し、内需低迷とデフレの原因が払拭され、デフレ脱却の新しい日本経済になろう。
第四次産業革命に支えられ米国経済は堅調で、政策当局は中国との対立を有利にするためにもインフレを許容し、 FRBの金融政策の正常化は景気をオーバーキルすることにはならないだろう。企業貯蓄率がマイナス化したことを確認し、 2024年度に日銀は長期金利の誘導目標を景気・マーケットの拡大と物価上昇率の加速を阻害しない速度で引き上げ始めるだろう。短期の政策金利目標をプラスに戻し現行の緩和政策から脱却を始めるのは、2%の物価目標を達成し、政府がデフレ完全脱却宣言できるようになる2025年度となろう。
景気拡大とともに、投資が拡大しながら生産性が上昇するというバブル崩壊後初めての現象が確認され、潜在成長率がしっかり上昇すれば、日本経済は復活することになる。名目GDP成長率(膨張力)が長期金利(抑制力)を上回り続け、マイナスの実質長期金利は維持され、リフレ・サイクルは加速し、株価の基調的な上昇とともに、財政は安定化に向かうだろう。ネットの資金需要は適度であり、金利高騰はないだろう。
リスク・シナリオ-政策の拙速な引き締め
新たな変異株の感染拡大と地政学上の問題などで経済活動の回復が遅れ、企業の負債の負担の増大と政策支援の先細り、または円安を恐れた日銀の拙速な金融政策の正常化の動きで、信用サイクルが腰折れる
財政負担を懸念するあまり、増税などの緊縮財政に転じ、ネットの資金需要をまた消滅させ、リフレ・サイクルが腰折れる
グローバルな政策当局がインフレを過度に警戒し、企業の投資行動が強くなる前に、引き締め政策を急ぎ、経済活動をオーバーキルしてしまう
グローバルな投資活動の拡大に日本の企業がついていけず、急激に競争力を喪失する
金利と為替-金融政策スタンスの違いが引き続き円安の力に
FRBはインフレ抑制を第一優先としており、資産価格は低下し、景気減速懸念がある中でも利上げを進めていくと見ている。
2022年6月FOMCで公表された政策金利見通し(ドットチャート)は2022年末は3.4%、2023年末は3.8%を示し、2022年6月からバランスシート縮小も開始された。日銀との金融政策スタンスの違いは顕著であり、FRBが利上げ姿勢を緩め、ハト派転換するまではドル高円安基調は続くと予想する。
ECBは2022年7月理事会で25bp、2022年9月には50bpの利上げを決定することが見込まれ、一部タカ派メンバーはそれ以上の利上げを主張している。
日銀は当面の間、金融政策の大枠は変わらないと見ている。エネルギー価格の上昇がけん引する形で、コア消費者指数(除く生鮮食品)は日銀の物価安定目標である前年同月比+2%に達した。しかし、交易条件の悪化による物価上昇は継続しないとみられる。
短期の政策金利目標をプラスに戻し、イールドカーブ・コントロールを含む緩和体制から脱却するのは、2%の物価安定目標のを達成し、政府がデフレ完全脱却宣言できるようになる2025年度となろう。こうした動きは、円が対ドル・対ユーロで円安方向に推移することを下支えするだろう。
名目GDPと総賃金を縮小から拡大に転じさせたのが、アベノミクスの最大の成果であった。膨張の力である名目GDP成長率が抑制の力である長期金利を持続的に上回るのはバブル期以来であった。
長期実質金利はマイナスとなっていた。拡張する力が抑制する力を上回り、デフレによる縮小均衡から、リフレによる拡大均衡に変化したことになる。新型コロナウィルス問題による名目GDPの急激な縮小で、一時的に再逆転を許していた。
しかし、積極財政によるネットの資金需要の復活を、日銀の積極的な金融緩和でマネタイズし、名目GDPの回復が金利の上昇を上回り、マイナスの長期実質金利をともなう新たな拡大均衡の形はデフレ完全脱却まで継続するだろう。
ウィルス問題が小さくなる中で、実質GDP成長率が内需主導の自律的な形となる。中国を中心とする国家資本主義国に対して米国を中心とする自由資本主義国を有利に導くため、先進国の政策当局はインフレを許容していくことになるだろう。
供給制約の緩和で物価上昇率が安定化して金融正常化の動きが緩やかになる中で、これまでより高い水準でのインフレ率での安定化を織り込むインフレ期待の上昇と、グローバルに長期実質金利は低位安定して、地政学上の問題を乗り越えた景気回復を支えるだろう。
グローバルな金融緩和の是正の動きに対して、デフレ脱却を目標とする日銀の金融緩和の是正は最後となり、円安が急激に進行する局面は終わるが、円安は持続的となり、日本のデフレ脱却の力となろう。
企業貯蓄率がマイナス化したことを確認し、 2024年度に日銀は長期金利の誘導目標を景気・マーケットの拡大と物価上昇率の加速を阻害しない速度で引き上げ始めるだろう。
短期の政策金利目標をプラスに戻し現行の緩和政策から脱却を始めるのは、2%の物価目標を達成し、政府がデフレ完全脱却宣言できるようになる2025年度となろう。
▽名目GDP成長率と長期金利
▽日本経済見通し
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