投資信託も、株式などのように、適切なタイミングで売買することでリターンを増やせる可能性があります。しかし、値動きを正確に予測することは困難なため、損失を出してしまうリスクもあります。しかも売買の頻度が増えるほど、手数料などがそのたびに取られて、収益が削られる可能性があります。
そこで本記事では、投資信託の適切な買い時と売り時を判断する方法について解説します。投資信託を売買するタイミングで迷っている方は参考にしてください。
投資信託はこまめに売買したほうがよいのか
投資信託は安い時に買って、高い時に売ることを繰り返せると、大きなリターンを得られるでしょう。しかし、実際には投資信託の値動きを正確に予測できないため、短期間の売買は損失のリスクが長期投資よりも大きくなりやすくなります。
1日に何度も取引はできない
投資信託は株式などと異なり、証券取引所の営業中にリアルタイムで取引することはできません。投資信託の購入価格と売却価格は、約定日の翌日に公表される基準価格によって決まるからです。そのため、こまめに売買を繰り返そうにも、同一の投資信託は購入してから売却するまでに少なくても1日かかります。
購入から数日〜数週間で売却までを何度も繰り返す場合
短期間で投資信託の売買を繰り返したいのなら、ETF(※)のほうが適しています。運用のコストは投資信託よりも安い傾向にあり、リアルタイムで売買できるため、よりご自身が売買したいタイミングの価格で取引できます。
(※)投資信託の一種、日本語で「上場投資信託」と言います。
中長期で売買を繰り返す場合
株式市場では中長期で売買される業種や銘柄が移り変わることがあります。このような株式市場のトレンドに合った銘柄がポートフォリオに組み込まれている投資信託を選び、中長期で売買する方法もあります。
投資信託の買い時を判断する方法
ここからは、投資信託の買い時を判断する方法を3つ紹介します。
1.投資を始めようと思ったとき
これから投資を始めようと思ったとき、投資先の候補のひとつとして投資信託の購入を検討してみましょう。投資の期間が増えるほどリターンを増やせる可能性が高まるので、投資を始めようと思ったときが買い時になります。
実際に「投資を始めようと思ったとき」には、様々な理由が考えられます。例えば、「銀行預金では将来に必要な資金が貯まらない」「銀行口座に現金を入れておいても低金利でもったいない」と思ったときなどが挙げられます。
2.積立投資で買い時を分散する
投資信託のベストな買い時を判断するのは難しいため、積立投資によって購入のタイミングを決めておく方法もあります。
一定の期間ごとに一定の金額で投資信託を購入した場合、「高いときに少なく買う」「安いときに多く買う」ができるので、購入単価を平準化できます。この購入単価の平準化によって、購入のタイミングを間違えて損失を出すリスクを抑えられます。
3.理想は大幅な下落時の底値で買う
他の金融商品と同じく、投資信託は大幅下落時の底値で買うことが理想です。底値で買うとどれくらい利益を得られるのか、多くの投資信託ベンチマークとして使われている株価指数S&P500(※)の例を見てみましょう。
(※)米国の代表的な企業が約500社採用されている指数のこと。
時期 | S&P500の価格 |
---|---|
2020年2月14日(下落前) | 約3,380ドル |
2020年3月23日(下落時の底値) | 約2,237ドル |
2022年6月30日 | 約3,785ドル |
仮に、2020年3月23日時点でS&P500をベンチマークする投資信託を購入した場合、2022年6月30日時点では基準価額が59%上昇しています。このように底値で投資信託を購入できた場合、上昇の恩恵を大きく受けられます。
ただし、大幅に下落してから回復するとは限らないため、相応のリスクを抱えることになります。底値だと思ったタイミングからさらに下落する可能性もあるので、リスクとリターンを確かめてから投資判断を下す必要があるでしょう。
実際に投資信託の基準価額が大幅に下落したタイミングで購入するのは、心理的に難しいことが多いでしょう。あらかじめご自身の中で、ご自身のリスクを考慮した、購入したいファンドとその基準価額の水準を決めておくこともひとつの方法です。
投資信託を購入するときの注意点
投資信託の運用を始める前に、以下の4点を注意しましょう。
1.投資の目的を明確にする
投資信託に限らず、投資を始める際は目的を明確にしましょう。投資の目的を決めておくことで、以下の4点が明確になって投資信託を運用する計画を立てやすくなります。
・投資に必要な資金があるのか
・目標を達成するために必要なリターンはどの程度か
・投資商品を売買する適切なタイミングはいつなのか
・何の投資商品を売買したらよいのか
投資の目的が明確になると、上記の運用方針を決めやすくなり、現状の投資が目的を達成するために適した方法なのかどうかを見極められます。
2.ファンドのリスクを把握する
安定運用を目指す上では、ファンド(銘柄)のリスクを確認することも大切です。具体的にどのようなリスクがあるのか、代表的なものをいくつかご紹介します。
リスクの種類 | 概要 |
---|---|
価格変動リスク | 各ファンドの投資対象である、株式や債券などの価格が変動するリスク。一般的には、債券よりも株式のほうがハイリスクとされる。 |
為替変動リスク | 外貨建ての投資信託を保有している場合に、為替レートの変動によって資産が減るリスクのこと。為替レートが円高方向に振れると、外貨建て資産の価値は減少する。 |
信用リスク | 株式や債券を発行する国・企業などが、経営不振によって破綻するリスク。ファンドが運用できなくなると、予定していた償還金や分配金が支払われなくなる。 |
カントリーリスク | 政情不安などの影響で、外貨建て資産の価値が減少するリスク。特に新興国はカントリーリスクが高いとされている。 |
各ファンドのリスクを確認しておくと、そのリスクが顕在化した場合にいち早く気づくことができ、適切な対処が行えるでしょう。
3.手数料などのコストを計算する
投資信託の購入時・保有時・売却時には、以下のコストが発生することがあります。
・購入時手数料
・信託報酬
・信託財産留保額
・監査報酬
・売買委託手数料
これらのコストによって、譲渡益や分配金が発生しても運用成績がマイナスになる恐れがあります。気になるファンドを見つけたら、目論見書などを確認し、実際に取引・保有した場合のコストを計算しておきましょう。
4.購入前に損切りの目安を決める
あらかじめ損切り(※)の目安を決める際は、「買値の5~10%の損失が出た場合」のように決めておきます。この割合は、ご自身が許容できる範囲の損失額、資産状況や投資のスタイルによって異なります。
(※)損失が発生している投資商品などを売却して損失を確定させること。
また、損失額が大きくなると心に余裕がなくなり、正常な判断ができなくなる恐れがあります。そのため、精神的な負担が少なく、本当に損失が発生しても納得できる金額に設定しましょう。
投資信託の売り時を判断する方法
次は、投資信託の売り時を判断する3つの方法を見ていきましょう。
利益が目標金額に達したとき
投資信託の運用益が目標金額に達したときは売却を検討するタイミングになります。あらかじめ売却する基準価額、または分配金を含めた運用益の目安を決めておくことで、迷うことなく売却を選択できます。
実際には、売却する目標金額がご自身なりの根拠に基づいていないと、もっと基準価額が上がるのではないかと期待してしまい、売却できない恐れがあります。そうならないように、投資信託の目論見書や市場環境を確認し、目標金額を定めましょう。
この目標金額は、ご自身の資産状況や家庭環境、相場の変化に基づいて定期的にアップデートすることで、より適切な売却タイミングを探り続けることが大切です。
リバランスが必要になったとき
リバランスとは、投資先の資産構成割合を調整することです。分散投資によってリスクを抑えたい場合は、「国内株式20%・外国株式20%・国内債券30%・外国債券30%」のように、資産構成割合を調節することが重要です。
資産構成割合は投資商品の購入や売却によって調整できますが、運用方針や相場の変化によっても変動します。資産構成割合は日々変動するため、リスクを抑えやすい資産構成割合を維持するためには定期的なリバランスを実施する必要があります。
リバランスを行う場合は、資産構成割合が偏っている投資先の一部を手放したり、新たな投資先を加えたりすることで資産構成割合を整えます。
ライフイベントで現金が必要になったとき
結婚や出産、転職などのライフイベントでは、数十万円以上の現金が必要になる場合もあります。このような場面で資産運用を優先すると、現金不足によって日常生活に支障をきたす恐れがあります。ライフイベントで多額の出費が発生した場合は、必要な分だけ現金化することを考えましょう。
投資信託を売却するときの注意点
ここからは、投資信託の売却を検討しているときに確認したい注意点を解説します。
1.手数料や税金が発生する場合がある
購入した投資信託にもよりますが、投資信託の売却時には信託財産留保額や解約手数料などのコストが発生することもあります。譲渡益が出た場合は、20.315%(所得税+住民税)の税金がかかる点も忘れてはいけません。単純に購入時と売却時の基準価額の差分がそのまま手元に残るわけではないことに注意しましょう。
2.すぐに現金化されるわけではない
投資信託の現金化には、通常4~8営業日ほどかかります。すぐに現金を受け取れるわけではないため、ライフイベントや急な出費に備える場合は、余裕をもって売却することを意識しましょう。
銘柄によっては設定日から3ヵ月~1年ほど売却できない「クローズド期間」が設定されています。この期間中はやむを得ない理由(死亡や破産など)がない限り、該当する銘柄を現金化できません。
そのため、運用が始まったばかりの銘柄を購入する場合は、目論見書などで細かく確認しておきましょう。
3.含み損があるときはどうしたらよいのか
保有中の銘柄で含み損(※)が発生している場合、ご自身の状況を分析した上で、最適な対処法を考えることが大切です。実際に含み損が生じている場合は、以下の3つの選択肢があります。
(※)投資信託を解約した場合、損失が生じる状態のこと。
1つ目の選択肢は、長期保有が目的で、将来的に基準価額の上昇が見込まれると考えている場合は、含み損を抱えている状態でも保有を続けかどうか検討しましょう。
2つ目の選択肢は、基準価額が今後上昇する可能性が低いとみている場合、売却することで損失が増えないようにするのがよいでしょう。仮に長期保有を目的にしている場合であっても、基準価額が下がり続けて回復する可能性が低いと判断した時点で、すぐに売却するかどうか検討しましょう。
3つ目の選択肢は、基準価額が今後上昇する可能性は低いと思いつつも、回復する余地があるのではないかと悩んでいる場合、いったん一部を売却することで損失の幅を抑える手があります。
実際に、将来のファンドの基準価額を予測することは難しいので、専門家の意見を聞きながら、ご自身が許容できる損失額を決めた上で、売却額と売却タイミングをあらかじめ決めておくことが重要です。
投資信託は投資の目的に合わせて売買しよう
投資信託を売買する適切なタイミングは、投資の目的によって異なります。こまめに売買を繰り返す場合でもあっても、積立投資で長期にわったって資産運用する場合であっても、それぞれのリスクとリターンを踏まえた上で売買していきましょう。
※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、投資を推奨するものではありません。
(提供:Wealth Road)