この記事は2022年8月10日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「日韓が最低賃金を引き上げ-引き上げ率は日本が3.3%、韓国が5%-」を一部編集し、転載したものです。

最低賃金
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日本と韓国の2023年の最低賃金額が決まった(*1)。先に決まったのは韓国だ。韓国の雇用労働部は7月5日「2023年度適用最低賃金(2023年1月から適用、時給)」を9,620ウォン(約969円、全国一律)と告示した。2022年の最低賃金9,160ウォン(約922円)より5%引き上げられた金額だ。

一方、8月1日、厚生労働相の諮問機関である中央最低賃金審議会は2022年度の最低賃金(2022年10月ごろかた適用、時給)の目安を全国平均で961円にすると決めた。前年度からの引き上げ額31円(伸び率は3.3%)は2002年度に時給で示す現在の方式となってから過去最大である。

今まで韓国の最低賃金の引き上げ率は日本より高い水準を維持してきた。例えば、1990年から2023年までの最低賃金の対前年比引き上げ率の平均は、日本が2.0%であるのに対して韓国は8.6%であり、日本より4倍以上も高い。韓国の最低賃金の対前年比引き上げ率が日本を下回ったのは、文政権が最低賃金の大幅引き上げ政策の失敗を認めて決まった2020年のみである。

では、日韓の最低賃金はどれくらい縮まったのだろうか。ここでは日韓の為替レートを用いて韓国の最低賃金を円に直すことにより、日韓の最低賃金の水準を比較した。為替レートは1989年から2021年までは年平均を、そして2022年と2023年は日本で2022年の最低賃金が決まった8月2日の水準を適用した。

最低賃金
(画像=ニッセイ基礎研究所)

分析の結果、韓国と比べた日本の最低賃金の水準はアジア通貨危機の問題がある程度収拾された1999年以降縮小傾向に転じ、1999年の4.78倍から2023年には0.99倍まで縮まった(1997年はアジア経済危機によるウォン安の影響で日韓の最低賃金の差が拡大)。為替の影響もあり単純比較することは難しいが初めて韓国が日本の最低賃金を上回ることになった。

さらに、韓国では日本とは異なり最低賃金に加えて週休手当が支給されており、週休手当を含めると日本と韓国の最低賃金の格差はさらに広がる。週休手当とは、1週間の規定された勤務日数をすべて満たした労働者に支給される有給休暇手当のことである。韓国では一日3時間、週15時間以上働いた労働者には週休日に働かなくても、一日分の日当を支給することになっている。例えば、一日8時間、週5日勤務すると、計40時間分の賃金に週休手当8時間分が加わり、計48時間の賃金が支給される。

しかしながら、韓国が日本より最低賃金が高くなったと言っても、生活の満足度が日本より高いとは言えない。国連機関が3月18日に発表した「世界幸福度ランキング」2022年版によると、2022年における韓国の幸福度のランキングは世界59位で日本(54位)より低い。

最低賃金
(画像=ニッセイ基礎研究所)

幸福度は所得(一人当たりGDP)以外にも、社会的支援の充実度、健康寿命、人生の選択の自由度、寛容さ(1ヶ月以内に寄付をしたかなど)、社会の腐敗の少なさを反映して測定される。韓国では世代内格差、特に不公平な格差が発生し、多くの若者が鬱憤(embitterment)を感じている。さらに、新型コロナウイルスの発生以降、若者の就職環境は以前より厳しくなった。2021年の4年制大学卒業者の就業率は61.1%で、2019年の64.4%と2020年の63.4%を下回った。

韓国は日本より最低賃金や賃金の引き上げ率は高いものの、就業率や雇用の安定性が低い。一方、日本は最低賃金や賃金の引き上げ率は低いものの、就業率や雇用の安定性が高い。経済のグローバル化等により人材のグローバル化が進む中で日韓政府は雇用の安定性と賃金の引き上げのうち、どちらを優先する政策を実施すべきだろうか。日韓政府の今後の対策が注目される(*2)。


*1:実際に適用されるのは、韓国は2023年1月から、日本は2022年10月頃からであり、以下の日韓対比ではこれを2023年の数字とする。
*2:本稿は、「日韓の最低賃金が逆転?-2022年は両国とも引き上げを決定-」ニッセイ基礎研究所研究員の眼 2021年7月27日に掲載されたものを加筆・修正したものである。
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=68354?site=nli


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金明中(きむ みょんじゅん)
ニッセイ基礎研究所生活研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

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