この記事は2022年10月5日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「高年収層はテレワークで生産性が向上したと感じた傾向-テレワークで生産性が上がった人/下がった人(4)-」を一部編集し、転載したものです。

テレワーク
(画像=taka/stock.adobe.com)

目次

  1. はじめに
  2. 年収700万円以上の人の間では、生産性が向上したと感じた人の割合が大きい
  3. おわりに

はじめに

本稿を含めて全8回の基礎研レターでは、2022年3月にニッセイ基礎研究所が独自に行ったアンケート調査のデータを用いて、テレワーク拡大によってどのような人は生産性が高まったと感じ、どのような人は生産性が下がったと感じたのかを分析した結果を紹介していく。

本稿ではそのうち、第4回として、年収による違いに注目した分析結果を紹介する。結果を先取りしてお伝えすれば、年収700万円以上の人の間では、生産性が向上したと感じた人の割合が大きかった。

年収700万円以上の人の間では、生産性が向上したと感じた人の割合が大きい

日本で新型コロナ拡大が始まって以降(2020年1月以降)テレワークを行った人へ、「在宅勤務・テレワークで仕事をする時、勤め先に出社して仕事をする場合と比べて、仕事の生産性をどう感じましたか。」という質問をした際の回答の年収層別の分布を示したのが図1である(*1)。

図1からは、年収の違いによって分布に大きな違いは見られない。しかし、年収は年齢と正の相関がみられるため、年齢と生産性の負の相関(*2)が、年収と生産性の間の正の相関を打ち消している可能性が考えられる。

そこで、図2に年齢層別に年収層別の分布を示した。図2からは、どの年齢層でも、年収700万円以上の年収層で、生産性が向上したと感じた人の割合が大きいことが確認できる。

テレワークで生産性が上がった人/下がった人
(画像=ニッセイ基礎研究所)
テレワークで生産性が上がった人/下がった人
(画像=ニッセイ基礎研究所)

さらに、年収は年齢だけでなく、職種と相関があると考えられる。例えば、管理職の人の年収は、管理職で無い人よりも平均的に高いことが予想される。そのため、年収による生産性の感じ方の違いは、年齢だけでなく、管理職と管理職以外の生産性の感じ方の違いを反映している可能性が考えられる。

そこで、図3に、テレワークによって感じた生産性を、管理職/管理職以外別及び、年齢層、年収別に分布を示した。図3からは、40代の管理職の人以外のすべての年齢層及び職種で、年収700万円以上の人の間で、その他の年収の人と比べて、「生産性が向上した」、もしくは「生産性がやや向上した」と感じた人の割合が大きい傾向が確認できる(*3)。

テレワークで生産性が上がった人/下がった人
(画像=ニッセイ基礎研究所)

*1:ニッセイ基礎研究所が実施した独自の被用者を対象とした調査の回答者計5,653名のうち、本質問の対象者となる、日本で新型コロナ拡大が始まって以降(2020年1月以降)一番テレワークを利用した時期に、月1回以上のテレワークを行ったと回答した人は、1,985名。
本調査は、全国の18~64 歳の被用者(公務員もしくは会社に雇用されている人)の男女を対象に、全国6地区、性別、年齢階層別(10歳ごと)の分布を、2020年の国勢調査の分布に合わせて収集した(株式会社クロス・マーケティングのモニター会員)。調査の概要は以下の基礎研レター参照。
岩﨑敬子(2022年9月14日)「会社員/公務員がテレワークによって感じた生産性の変化概況-テレワークで生産性が上がった人/下がった人(1)―」( https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72366?site=nli
*2:岩﨑敬子(2022年9月14日)「低年齢層ほどテレワークで生産性が向上したと感じた傾向-テレワークで生産性が上がった人/下がった人(2)―」(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72393?site=nli )>
*3:図4では、管理職以外では、300万円以上〜700万円未満のカテゴリーがあるが、管理職では300万円未満と合わせて700万円未満のカテゴリーとしている。これは、管理職ではどの年齢層でも300万円未満の年収に当てはまる回答者が3人以下とサンプルサイズがとても小さかったためである。


おわりに

本稿では、ニッセイ基礎研究所の独自調査のデータを元に、新型コロナ拡大以降テレワークを行った人の間では、年収の高い人(700万円以上)の間で、テレワークによって生産性が向上したと感じた人の割合が大きい傾向を確認した。

この要因については今後の検討課題であるが、のちに紹介する基礎研レターで示すように(*4)、年収が高い人の方がテレワークを行うようになって生産性が向上したと感じる傾向は、働く企業の規模や産業分類、管理職であるかどうか、年齢等を調整した上でも確認されている(*5)。

そのため、この要因としては、年収が高い人の方が、テレワークを行うための機器や個室を用意しやすいなど、テレワークを行いやすい環境が作りやすかったことが挙げられるかもしれない。


*4:後日掲載予定「テレワークで生産性低下/向上を感じた人の特徴-テレワークで生産性が上がった人/下がった人(8)―」(URL後日記載)
*5:左辺をテレワークをするようになって感じた生産性の変化とし、右辺に年収の他、働く団体/企業の規模、働く事務所の産業分野、管理職であるかどうか等をコントロール変数として加えた回帰分析による結果


岩﨑 敬子(いわさき けいこ)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 准主任研究員

【関連記事 ニッセイ基礎研究所より】
会社員/公務員がテレワークによって感じた生産性の変化概況 ―― テレワークで生産性が上がった人/下がった人(1)
低年齢層ほどテレワークで生産性が向上したと感じた傾向 ―― テレワークで生産性が上がった人/下がった人(2)
配偶者のいる女性は、テレワークで生産性の低下を感じた傾向 ―― テレワークで生産性が上がった人/下がった人(3)
テレワークをするようになって、残業時間が伸びた独身女性、時間のゆとりができた独身男性
コロナ禍でテレワークが増えたのはどんな人か?(5) ―― 属性別のテレワーク頻度の変化のまとめ