この記事は2022年12月26日(月)配信されたメールマガジンの記事「クレディ・アグリコル会田・大藤 アンダースロー『税収見積もりは過小で税収増を防衛費増額の財源にできないというアピール』を一部編集し、転載したものです。

税収
(画像=Funtap/stock.adobe.com)

目次

  1. シンカー
  2. 3つの重要な決定
  3. わずか1兆円程度の増加と控えめに見積もられる
  4. 2022年度の税収は72兆円程度になると予想される
  5. 自民党内で更なる批判が生まれるとみられる
  6. 2023年度の国債発行計画

シンカー

  • 2023年度の政府予算の税収見積もりは69.4兆円となり、2022年度の第二次補正予算の68.4兆円から、わずか1兆円程度の増加と控えめに見積もられた。

  • 社会保障と国債費が年1兆円程度増加するため、経済成長にともなう税収増を新たな財源として使えないことをアピールするためとみられる。

  • 補正予算後にも税収が大きく増加しており、2022年度の税収は72兆円程度になると予想される。

  • 2023年度の内閣府の名目GDP成長率の予想は+2.1%で、税収弾性値がかなり控えめな2(2022年度は推計で4程度)としても、2023年度の税収は75兆円まで膨れ上がる可能性がある。

  • 経済成長にともなう税収増をほとんど勘案しない防衛費増額にともなう増税と歳出削減の計画は、実施を最終決定する過程で自民党内で更なる批判が生まれるとみられる。

  • 2023年1月からの政務調査会での議論議論の過程で、60年償還ルールによる債務償還費で歳出が膨張しているように見せていることや、政府の債務残高も外貨準備、保有株式、そして現金などの資産が過剰であることで、その資金調達としての負債が膨張しているように見えることなど、日本の財政が過剰に悪く見えてしまう仕掛けがより明るみに出るだろう。

  • 今回の国債発行計画は債券市場が求めている機能改善に対応する措置は含まれていないと考えら、日銀の国債買入れが市場機能を歪めていると市場参加者の懸念が高まった状態は当面続くだろう。

3つの重要な決定

2022年6月に閣議決定された2023年度の政府予算編成の骨太の方針では、3つの重要な決定があった。

1つめは、基礎的財政収支黒字化目標の事実上の無効化だ。2つめは、岸田政権の重要政策には青天井で予算をつけることが可能になったことだ。3つめは、アベノミクスという金融政策と財政政策のポリシーミックスの堅持を明記したことだ。

2023年度の政府予算は、まだ不十分ではなるが、積極財政へ転換する予算となった。大胆な金融政策と積極財政のポリシーミックスで、デフレ構造不況脱却を目指す政策方針は不変であると考える。

わずか1兆円程度の増加と控えめに見積もられる

2023年度の政府予算案の歳出は114.4兆円となり、2022年度の当初予算の6.3%から増加した。2023年度の税収見積もりは69.4兆円となり、2022年度の当初予算から6.4%の増加となった。2022年度の第二次補正予算の68.4兆円から、わずか1兆円程度の増加と控えめに見積もられた。

社会保障と国債費が年1兆円程度増加するため、経済成長にともなう税収増を新たな財源として使えないことをアピールするためとみられる。

2022年度の税収は72兆円程度になると予想される

補正予算後にも税収が大きく増加しており、2022年度の税収は72兆円程度になると予想される。

税収の上振れを原資として追加経済対策が、来年の通常国会で実施されるだろう。2023年度の内閣府の名目GDP成長率の予想は+2.1%で、税収弾性値がかなり控えめな2(2022年度は推計で4程度)としても、2023年度の税収は75兆円程度まで膨れ上がる可能性がある。

2022年度の当初予算から9.8兆円程度の増加となり、経済成長にともなう税収増がかなり大きいことが、事後的に明らかになるだろう。

自民党内で更なる批判が生まれるとみられる

経済成長にともなう税収増をほとんど勘案しない、防衛費増額にともなう増税と歳出削減の計画は、実施を最終決定する過程で自民党内で更なる批判が生まれるとみられる。

萩生田政調会長は、増税には国民の信を問う解散総選挙が必要であることを示し、歳出削減策としては他国では実施されていない日本独自の60年償還ルールの見直しを主張し始めている。2023年1月からの政務調査会での議論に注目だ。

議論の過程で、60年償還ルールによる債務償還費で歳出が膨張しているように見せていることや、政府の債務残高も外貨準備、保有株式、そして現金などの資産が過剰であることで、その資金調達としての負債が膨張しているように見えることなど、日本の財政が過剰に悪く見えてしまう仕掛けがより明るみに出るだろう。

2023年6月の2024年度の政府予算編成の骨太の方針が、積極財政の強化となるのか、緊縮への反動となるのかで決着する。

2023年度の国債発行計画

同日に公表された2023年度の国債発行計画は205.8兆円と22年度当初予算対比で9.2兆円の減額となったが、付利債は全年限で発行額が据え置かれ、減額は短期債が中心となった。

付利債の発行が据え置かれたことで、とりあえずのマーケット・インパクトは限定的だろう。その中、足元の国債市場の機能不全は日銀の大幅な国債買入れに加え、国債の供給が十分されていないことも理由の一部と考えられる。

日銀が緩和政策へのコミットメントを維持し、新年度以降もグローバルに大幅な金利低下が顕在化しなければ日銀の国債買入れ額の減額は期待できない。債券市場の機能改善は日銀の国債買入れを含む需要サイドの調整のみで行う必要はなく、財務省が付利債の発行を増額し、供給を拡大することでも図られる。

ただ、今回の国債発行計画は債券市場が求めている機能改善に対応する措置は含まれていないと考えら、日銀の国債買入れが市場機能を歪めていると市場参加者の懸念が高まった状態は当面続くだろう。

会田 卓司
クレディ・アグリコル証券会社 チーフエコノミスト
大藤 新
クレディ・アグリコル証券会社 マクロストラテジスト

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