会社を経営できなくなるとき

また、仮に後継者がいて事業承継に意欲的だったとしても、今後ファミリービジネスの経営自体が難しくなってくるという切実な問題もある。

もともと経済が低迷していたところにコロナ禍が追い打ちをかけ、さらにウクライナ侵攻を発端とする世界的な物価高が続いている。このような状況下で、企業オーナーにはこれまで以上に高度な経営能力が求められている。予測不可能なVUCAの時代を生き残るためには、よりアジャイル(機敏)に、事後的に対応する能力が必要だ。

また、国内市場が飽和し、もはや海外に展開するしか生き残る道がないとしたらどうだろう。言葉も文化もわからず、ノウハウや人脈もゼロ。資金調達から為替管理まですべてをこなすには、あまりにも専門性が高すぎる。

このように、経営の高度化ニーズに一族内の人材が対応しきれなくなるという問題も、ファミリービジネスの承継をより困難なものにしている。

これらの諸問題に向き合わないまま強引に事業承継をやってしまおうとすると、あえて非常に厳しい言い方をしてしまえば、ファミリービジネスのオーナー自身が自社の成長の制約要因になってしまう──つまり、足枷になってしまう恐れがある。

事業承継の価値を見極める

もし事業を経営し続けることが関係者すべての破綻に繋がってしまうのだとしたら、承継を諦めるという選択肢も視野に入れなければならない。すなわち、もはや事業のベストオーナーでなくなったら、事業の売却も検討すべきだということだ。

しかし、安易な売却をしないように、選択肢の幅を広げることはとても重要だ。企業オーナーとして自分の事業の価値を見極める方法として、ファミリービジネスのあり方を俯瞰する「ライフサイクル論」という考え方が効果的だ。

ファミリービジネスを持つ一族のライフサイクル論

ファミリービジネスの承継に向けて考えたい「プロ経営者」という選択肢
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フェーズ1は事業の所有と経営執行が一致しているパターンで、こちらが伝統的だ。そして今後増えてくると予測されるのが、フェーズ2における所有と経営が分離しているパターンである。

これまで、ファミリービジネスとはすなわちフェーズ1であると考えられてきた。言い換えてみれば、ファミリービジネスにおいて所有と経営の分離というのは事実上オプションではないと考えられてきたのだ。そのために、フェーズ1が成り立たなくなった時点で、売却するか廃業するか、どちらかの選択肢しか考慮されてこなかった。

フェーズ2における所有と経営執行の分離とは、一族の外から有能な経営者を迎え入れ、ファミリービジネスの経営を任せることを意味している。