「売却」という選択肢
では、事業の売却を進めた場合、ファミリービジネスを持つ一族にどのような可能性が待ち受けているのだろうか。
売却で得た資産に関して、一族理念を共有し合同で管理・運用するのか、または一族理念を共有せずにそれぞれが無機質な現金として管理・運用するのかによってまったく違ってくる。
言い換えてみれば、事業を売ったらどれだけのお金が入ってくるのか、という具体的なレベルから、より抽象的なレベルに高めて思考を重ねていく上で、我々はこの事業を売却して得たお金を通してやるべきことがあるのではないか? という一族理念を新しい環境の中で再定義して、一族の富の働かせ方に新しい意義を発見することこそが重要なのである。
既に自らがベストオーナーでない立場にある事業にいつまでもこだわっていると、すべてを失ってしまう。事業を売却し、幾らかのお金を手に入れたとしよう。手にしたお金を無機質なお金のままにしておけば、やがて底を突くだろう。
他方で、創業当時に一族が抱いていたビジョンやミッション、一族が地域の中で果たしていた役割を今一度見直し、それらに重ねて自分なりの新たな価値を見出すことができれば、もう一度ファミリービジネスを立ち上げる、起業家として再生する軍資金として活用できるかもしれない。無機質な現金に理念を吹き込めるかどうかが重要だ。
売却代金に一族の理念を吹き込まなければ、無機質なお金に押しつぶされる一族となり、永続化のミッションは絶たれることになる。
「非一族のプロ経営者」という選択肢
こうして俯瞰してみると、後継者が不在だったり、経営の高度化ニーズに一族内の人材が対応しきれなくなったりした時点で、外部から有能な経営者を招き入れて舵取りを任せたほうが理に叶っていることは明白だ。
しかし、このプロ経営者というのは一体どこから探してくれば良いのだろうか?
社内に優秀な人材がいるのであれば、一族であれ、非一族であれ、その人物に経営を任せてみるのもいいだろう。思い切って若手を抜擢すれば、人材育成にもつながる。もともと社内にいた人であれば、今までの流れが分かっているだろうし、経営課題も把握しているので話が早い。
では社外ではどうだろうか? 競合他社の優秀な人材をヘッドハントするのもアリだろう。同様に取引先企業にも優秀な人材がいるかもしれない。例えば経営者として一定期間以上にわたり実績がある人で、かつ同じ業界でやってきた人であれば、それ相当の報酬を出さなければならないかもしれないが、頼れる存在になってくれるかもしれない。