本記事は、荒川和久氏の著書『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

男性,カフェ
(画像=La Famiglia/stock.adobe.com)

「ガチソロ」「カゲソロ」「エセソロ」「ノンソロ」

独身といっても、未婚者もいれば、離別して独身に戻った婚歴ありの独身もいる。配偶者と死別してしまった独身もいるだろう。一人暮らしをしている独身もいれば、親元に住み続ける独身もいる。友人と共同生活する者もいる。それぞれ生活する環境が異なる独身者を一括りにはできない。

そして、それぞれの配偶関係などの環境を整える重要な因子に「ソロ度」という価値観がある。ソロ度とは、簡単に言えば「誰かと一緒にいるより、1人でいる方が心地よい」「1人で行動ができる」「1人が苦痛ではない」などの価値観のことである。いくつかの「ソロ志向・ソロ耐性」についての質問により算出している。

私は、独身研究を始めてかれこれ9年になるが、延べ15万人以上の男女の未既婚者を調査してきた。そこで明らかになったことは、未婚の独身であっても、ソロ度と現在の配偶関係によって、実はその価値観も行動特性も大きく異なることである。

もちろん、ソロ度が高いからといって、その全員が結婚できないというものではない。ソロ度が高くても結婚する人もいるし、逆に、ソロ度が低いのに生涯独身もいる。

興味深かったのは、ソロ度の構成比は、既婚者のソロ度は独身と比べて若干下がるが、独身者に限ると、年代によって多少のバラつきはあるものの、男女で違いはない点だ。いずれも約半分がソロ度の高い人間なのである。

ソロ度と配偶関係とを4象限にしたものが図2-6である。わかりやすくするために、構成比の数字は丸めている。

知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質
(画像=知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質)

上下が配偶関係の割合だが、有配偶率は大体6割である(2015年時点で、20~50代の現役世代の有配偶率は男54%、女61%)。まず、図の左半分。ソロ度の低い人たちは全体で6割いる。

その中の左下部分、既婚者で「家庭を大事にする。よき親」である「ノンソロ」がもっとも構成比が高く、全体の4割を占める。

ソロ度の低い独身の「エセソロ」とは、今は独身だが、結婚意欲も高く、将来「ノンソロ」へと移行する「いずれ結婚する層」である。

とはいえ、現状は「結婚したいのに金がなくてできないエセソロ男」「結婚したいのに適当な相手がいなくて結婚できないエセソロ女」という、いわば「不本意ソロ」が増えていることは確かだ。

次に、図の右半分のソロ度の高い人を見てみよう。

右上、未婚で結婚意欲も低く、ソロ度の高い人は「ガチソロ」という。こちらも全体では2割ほどいる。負け惜しみでも何でもなく「結婚に興味のない層」である。

右下は、既婚者ではあるもののソロ度の高いまま、何らかの事情やきっかけによって結婚した人たち。これも全体の2割いて、「カゲソロ」と命名した。

そして、残念なことに、「カゲソロ」は、結婚しても離婚しやすく、「ガチソロ」に戻る可能性が高い層である。特に、何度も離婚と再婚を繰り返す男性のことを、私は「時間差一夫多妻男」と定義しているが、それはまさにここに当てはまる。

6割の既婚者のうち2割も「カゲソロ」がいるのか、と思われるかもしれないが、よくよく考えれば、3組に1組が離婚する現在の日本。その離婚はこれらの層によって成立していると思えば、数字のつじつまは合う。

「カゲソロ」夫の特徴とはどんなものだろう。

結婚しても夜遊びをやめない夫、独身時代から続けている趣味を頑なに継続している夫など、言われてみればみなさんの周りにも思い当たる人がいるのではないだろうか。既婚者でありながら、婚活アプリに登録して、遊びまわっているのもこの層である。さらに言うなら、カゲソロの割合は既婚者の浮気率とも合致する。

特に、「カゲソロ」夫の特徴は、基本的に財布の紐を妻に渡さず自分で握っている点である。本当の所得すら妻に内緒にしている場合もある。月3万円のお小遣いで汲々としている「ノンソロ」夫とはそこが大きな違いである。

ちなみに、小遣い制の夫は約62%であることはすでに述べたが、奇しくも「ノンソロ」と「カゲソロ」の割合もほぼイコールである。

「カゲソロ」が「カゲソロじゃなくなる」時はあるのだろうか。

基本、ソロ度の軸を超えて移行する例はあまりないが、例外もある。結婚した「ガチソロ」が、結婚後も「カゲソロ」として活動していたものの、子どもが生まれた瞬間から「ノンソロ」に価値観含めて華麗に変身を遂げるパターンだ。特に、40歳を過ぎて子が生まれたカゲソロにその傾向が強く見られる。

「娘が生まれて何もかも変わりました。結婚してしばらくは、悪友たちと夜遊びを続けていましたけど、今では完全に家族中心、というか娘中心の生活ですよ。他のものに興味がなくなりましたから(42歳)」とは、独身時代「ガチソロ」だった男性の言葉である。

独身だけが「ソロ活」をするのではない

「ソロ活」というと独身が1人で行動するのをイメージしがちであるが、実は決してそうではない。ソロ属性4象限というものを再度見直していただきたい。

知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質
(画像=知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質)

既婚者であっても、ソロ度の高い「カゲソロ」が全体の2割存在する。ざっくりわかりやすく言うと、「ソロ度が高い=一人で行動できる人」、「ソロ度が低い=1人で行動するのは寂しい、グループで行動したい人」を意味する。

既婚者でもソロ活が好きな「カゲソロ」もいれば、独身であっても「みんなと行動したい」というソロ度が低い「エセソロ」もいるのである。「エセソロ」は、これまで機会に恵まれずに(あるいは何らかの理由で)独身であるが、いずれは結婚したいと考えている人たちである。

ちなみに、ソロ度が高く、かつ、独身者である「ガチソロ」は、結婚への意欲も低く、結婚に対しては後ろ向きな部類になる。そもそも、結婚に対して後ろ向きな18〜34歳までの独身は男6割、女5割もいるという出生動向基本調査の結果はなぜかマスコミが報じない。

これまでビジネスで「ソロ市場」を論じる時、これら「ガチソロ」と「エセソロ」の独身者合計40%だけをターゲットとするケースが多かった。

しかし、既婚の中にもソロ度が高い「カゲソロ」という人たちもいて、彼ら、彼女らは、結婚して家庭を持っていても、1人でお酒を飲みに行ったり、遊びに行くことを好む。

ソロ市場の対象には、こういう人たちも含まれると私は考えている。特に、レジャーやサービスの分野では、「ガチソロ」「エセソロ」に「カゲソロ」を加えた60%を、「ソロ市場ターゲット」として考えるべきだろう。

そこには、ソロ市場に対する新たな可能性が隠れている。それは「パートタイムソロ活」という考え方である。

旅行を例にとって説明する。従来のパック旅行では、たとえば夫婦で参加したら同じ旅館に宿泊し、決められた同じ観光スポットを2人で一緒に巡るパターンがほとんどである。それに対して「パートタイムソロ」の考え方では、すべてを一緒に行動するのではなく、妻は話題の最新スポットを巡り、夫は古刹こさつ巡りというようにそれぞれが「ソロ」で行動し、昼食や宿泊は共通で楽しむというやり方である。

もちろんお互いの興味が一致する場所は一緒に巡ればいいが、必ず2人一緒にすべての行動をともにする必要はないのだ。つまり、従来までの「フルタイムのグループ活動」か「フルタイムのソロ活動」の二者択一ではなく、3つめの行動、それが「パートタイムソロ活」という考え方である。

誰の中にも「1人でいたい」「1人になりたい」という気持ちはある。ない人なんていない。別に誰かと一緒が苦というわけではないが、1人の時間が全然ないとストレスになることは、今回のコロナ禍で多くの人が実感したことだろう。

コロナ禍で在宅勤務となった家族の方の中には、「いつも家族と一緒でうれしい」「通勤の満員電車に乗らなくていいから楽だ」などと最初は思ったかもしれないが、それが長く続いたことで原因不明のストレスを抱えた人は多いはずだ。

実は、通勤の時間は、周りにたくさん人がいても「1人になれる貴重な時間」だった。スマホや読書やひとり物思いにふける人もいただろう。1日の中で往復1~2時間の通勤は、そうした「1人になる」ことで心をリセットする大事な時間だったともいえる。

独身や既婚という状態に関わらず、男女も関係なく、人間を集団派と個人派に区分けするものでもなく、時と場合により、誰もがソロ活を求める気持ちはある。ソロ活市場というのは、そうしたニーズが潜在的にあるのだということである。

知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質
荒川和久
独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。韓国、台湾などでも翻訳本が出版されるなど、海外からも注目を集めている。著書に『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会─「独身大国・日本」の衝撃』(PHP新書)、『結婚しない男たち─増え続ける未婚男性「ソロ男」のリアル』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(以上、ディスカヴァー携書)などがある。

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