本記事は、山本真司氏の著書『忙しすぎるリーダーの9割が知らない チームを動かす すごい仕組み』(PHP研究所)の中から一部を抜粋・編集しています。

「ベン図法」対話術

―面白いようにアイデアが引き出せる!

「ベン図法」対話術
(画像=PINO/stock.adobe.com)

私が「なるべく若い人と仕事をする」理由

私はなるべく若い人と一緒に仕事をするようにしています。スタートアップへ投資をしたり、大学院で若い人たちとも接点を持っています。

彼らと一緒に仕事をしていて楽しいのは、自分の経験に裏づけられ「正解」だと信じ込んでいた考え方や仮説が、若い人との触れ合いによって変わってくることです。つくづく、思い込みは怖いなと感じます。異質との触れ合いの重要性を感じる瞬間です。

しかし、「異質から学ぶ」などということは、余裕のある状況なら口にできても、日々業績のプレッシャーに追われ、上にも下にも気を遣いながら仕事をしているマネジャー層には、きれいごとにしか聞こえないかもしれません。そこで、ちょっとした技術をお伝えしたいと思います。それが「ベン図法」対話術です。

異質な人の考えをうまく取り込むためのコツは、自分と相手との間の考え方の共通集合を探すことです。どんな人とでも、考え方が重なる共通集合は絶対にあるはずです。

それを見つけるために、相手の発想に耳をそばだて、かつ、どうしてそういう発想を持つに至ったのかの理解に努めます。

ただ、相手と自分の考えがいかに一致しているかを確認するだけでは、あまり意味がありません。本当に重要なのはむしろ「異質な部分を探す」ことなのです。

お互いの考えを完全に一致させるのは、そもそも無理

ここでちょっと、想像してみてください。まず、あなたの考え方を円で表してみます。この円の中には、中心点であるあなたの主張とともに、それを導き出すために使った「観察事実」、つまり、「何が起きたか」ということと、「なぜそれが起きたか」という原因を考える「思考回路」の両方が描かれていると思ってください。

そして、異質で、あなたと違う意見を持つチームメンバーの主張、「観察事実」「思考回路」をもう一つの円で表してみます。相手の円は、あなたの円と重なることなく、離れたところに描いてください(図2)。

「ベン図法」対話術
(画像=忙しすぎるリーダーの9割が知らない チームを動かす すごい仕組み)
「ベン図法」対話術
(画像=忙しすぎるリーダーの9割が知らない チームを動かす すごい仕組み)

ここで多くの人は、この円の中心点を完全に一致させようとします(図3)。

確かに自分の円とメンバーの円が重なると嬉しいものです。共通点が多ければ多いほど、会話が盛り上がり、相手と仲良くなれるのはそのためです。そういうメンバーには安心して仕事を任せたいと思うはずです。

一方、円がずれているメンバーに対しては、なんとか自分と同じ考え方になるように、すなわち、完全に円が一致するように説得を重ねようとします。しかし、いくら説得を重ねたところで、メンバーと自分の考え方が完全に一致することはほとんどありません。その結果、メンバーに仕事を任せきれず、最後にはすべての仕事をジャックしてしまう。そう、まさに「一人プロジェクト」であり、メンバーも自分も不幸になります。

「違うんだよな……」の発想では、異質を取り込めない

そもそも、人間同士が完全にすべての価値観、考え方が一致することなどあり得ません。特に価値観が大幅に違うX世代、Y世代、Z世代では皆無と言えるでしょう。

いま思えば、「一人プロジェクト」の当時、円が完全に一致しているように見えたチームメンバーは、実は、私の円に合わせてくれているに過ぎなかったのだと思います。

彼らは個性を殺して、私の軍門に降ってくれた。これはいわゆる親分と子分の関係であり、まさにピラミッド型組織の典型です。

一見やりやすいけれど、それは、いわば私のコピーがチームに何人もいるようなもの。そこからはなんのイノベーションも生まれません。

さらに悪いことに、メンバーが私と円を少しでもずらした瞬間に、私はそのメンバーの忠誠心を疑いました。子分が離反するんじゃないかという不安が心に湧いてきて、「君は、まだまだだな。違うんだよ」とでも言って、その後、飲みに連れ出し、さらに説教していました。まさに最悪のマネジメントでした。

しかし、同じようなことをあなたもやっていないでしょうか。「違うんだよな」と思い、何度も説得を重ねる。そんなマネジャーをメンバーは疎ましく思っているに違いありません。

円が重なるところが「異質との出会い」

「ベン図法」対話術
(画像=忙しすぎるリーダーの9割が知らない チームを動かす すごい仕組み)
「ベン図法」対話術
(画像=忙しすぎるリーダーの9割が知らない チームを動かす すごい仕組み)

次に、マネジャーの円の外側にもう一回り大きな円を描いてみます(図4)。すると、二重円ができ上がります。

最初の円の中心点は結論であり、主張です。その主張を導く際には、「観察事実」と、何が原因でそういう観察事実が起きたのかという「思考回路」の両方を考慮したはずです。

それも、複数個の「観察事実」と、複数個の「思考回路」の中から、重要だと思うものを選択して結論である主張を出したはずです。それが最初の円の中身です。

その最初の円の周りに、主張を出す時には捨ててしまった他の複数個の「観察事実」と「思考回路」を書き入れて、円でくくるというイメージです。いわば思い込みを捨てて、こういう考え方もあるかな、と柔軟に考え方を広げるということです。

そして、マネジャーのあなたのこの周辺円を、メンバーの円と重なるところまで広げて描いてみましょう。昔懐かしい、ベン図のでき上がりです。この2つの円の共通集合が、マネジャーとしての「異質との出会い」です。

つまり、自分の主張や興味関心の輪を広げてみるという思考が大事だということです。そして、その重なった部分にはきっと、新しい刺激があるはず。そう考えることが重要です。

この作業によって、私も自分の考え方を何度も変えたことがあります。

ただ、それがメンバーの主張の丸飲みであったケースは少なく、彼らのアンテナに引っかかった「観察事実」や「思考回路」の一部を自らの思考に取り込んで、自分の領域に入れ込んでしまうことで新しい結論が出てくる(図5)。

そう、まさに「ブレインジャック」です。

忙しすぎるリーダーの9割が知らない チームを動かす すごい仕組み
山本真司(やまもと・しんじ)
立命館大学ビジネススクール教授。山本真司事務所代表取締役。1958年、東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、東京銀行入行。シカゴ大学経営大学院(現シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネス)にて修士号(MBA with honors、全米成績優秀者協会会員)取得。1990 年、ボストン・コンサルティング・グループ東京事務所入社。その後、A. T. カーニーマネージング・ディレクター極東アジア共同代表、戦略グループアジア太平洋代表、ベイン・アンド・カンパニー東京事務所代表パートナーなどを歴任。2005 年、英国ユーロマネー誌より、世界のトップ金融コンサルタントに、日本人として唯一選出される。2009年に独立。早稲田大学大学院客員教授等を経て、現在、立命館大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授、慶應義塾大学大学院非常勤講師として、教育の分野でも活動中。大手企業、経営者団体などに対する講演会多数。著書に、『40 歳からの仕事術』(新潮新書)、『実力派たちの成長戦略』(PHP 研究所)、『20代 仕事筋の鍛え方』(ダイヤモンド社)、訳書に『エンゲージド・リーダー』(英治出版、共訳)など多数。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)