2023年上期(1~6月)のM&Aは件数、金額ともにハイレベルで推移した。東証適時開示ベースで、件数は501件と前年を43件上回り、2008年のリーマンショック後の最多を記録し、年間1000件の大台を視野に入れる。一方、M&A金額(公表分を集計)も5兆2250億円に上り、3年ぶりに年間10兆円を突破する勢いだ。

上期件数、5年連続増加

上場企業に義務付けられた適時開示情報のうち経営権の異動を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Onlineが集計した。それによると、上期として件数は5年連続で前年比プラスとなり、金額は2年ぶりに増加した。

上期の総件数501件の内訳は国内案件が407件(前年386件)、国境をまたぐ海外案件が94件(同72件)。国内案件が引き続き高水準をキープし、海外案件もコロナ前の2019年上期(89件)を超え、復調ぶりを示した。

M&A金額は6月末、半導体材料大手のJSRが官民ファンドの産業革新投資機構(JIC)から9000億円規模の買収提案を受け入れて非公開化することを発表したのを受け、5兆円台に一気に乗せた。2022年は5兆円に届いたのは10月末だったので、今年はペースが4カ月速い。

M&A Online

(画像=適時開示ベース、※2023年は上期(1~6月)=M&A Online集計、「M&A Online」より引用)

5兆円突破も、ミドル案件が伸び悩む

上期時点で5兆円を超えるのは2018年(9兆6419億円)、2021年(5兆3834億円)に次ぐ。2018年は武田薬品工業がアイルランド製薬大手のシャイアーを約6兆2000億円で買収するメガ案件が突出し、年間トータルでも過去最高の13兆8187億円に達した。

2022年は金額トップが5000億円止まり(武田薬品、ソニーグループの買収案件が各1件)で、7年ぶりに1兆円を超えるメガ案件がゼロに終わった。

これに対し、2023年上期は東芝をめぐる2兆円規模の非公開化案件(3月発表)を筆頭に、アステラス製薬による8000億円規模の米国企業買収(5月発表)、そして今回のJSRの9000億円案件が続き、金額を押し上げた。国内投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)による東芝の非公開化を目指すTOB(株式公開買い付け)は7月下旬にも始まる予定だ。

こうした前年見られなかった大型案件が出現する一方で、金額100億円以上で括った場合の案件数は前年(47件)を約4割下回る29件で、数百億円規模のミドル案件が伸び悩む格好となった。

上期の金額上位30案件は次の通り。

◎2023年上期のM&A:金額ランキング上位30

社名内容金額
1 東芝 国内投資ファンドの日本産業パートナーズの買収提案を受け入れ、TOBで非公開化 1兆9987億円
2 JSR 産業革新投資機構のTOBを受け入れ、株式を非公開化 9039億円
3 アステラス製薬 米バイオ医薬品企業のアイベリック・バイオを子会社化 8040億円
4 キリンホールディングス オーストラリア健康食品メーカー大手のブラックモアズを子会社化 1692億円
5 NIPPON EXPRESSホールディングス オーストリア物流大手のカーゴ・パートナーを子会社化 1267億円
6 ENEOSホールディングス チリに保有する銅鉱山カセロネス銅鉱山の株式51%をカナダLundinに譲渡 1246億円
7 セガサミーホールディングス フィンランドのモバイルゲーム会社「ロビオ」を子会社化 1049億円
8 富士フイルムホールディングス 米国インテグリスから半導体用プロセスケミカル事業を取得 945億円
9 ゼンショーホールディングス 北米・英国で持ち帰りすし店展開のスノーフォックス・トップコを子会社化 874億円
10 三井物産 日米合弁給食大手のエームサービス(東京都港区)を子会社化 700億円
11 三井物産 米化学品大手セラニーズ傘下で機能性食品素材製造のオランダ「ニュートリノバ」を子会社化 660億円
12 三井物産 りらいあコミュニケーションズをTOBで子会社化 602億円
13 日清紡ホールディングス 日立国際電気を子会社化 370億円
14 オリンパス 消化器用金属製ステント開発・製造の韓国Taewoong Medicalを子会社化 333億円
15 岩崎電気 米投資ファンドのカーライル・グループと組んで、MBO(経営陣による買収)で株式を非公開化 327億円
16 イハラサイエンス MBOで株式を非公開化 323億円
17 出光興産 オーストラリア「エンシャム石炭鉱山」の全保有権益を現地Sungelaに譲渡 310億円
18 日本エスコン 不動産賃貸の四条大宮ビル(京都市)を子会社化 300億円
19 TBSホールディングス 個別指導塾「スクールIE」など運営のやる気スイッチグループホールディングスを子会社化 287億円
20 インパクトホールディングス MBOで株式を非公開化 272億円
21 クオールホールディングス ジェネリック医薬品製造の第一三共エスファ(東京都中央区)を子会社化 250億円
22 日本精工 ステアリング事業統括子会社を投資ファンドのジャパン・インダストリアル・ソリューションズ(東京都千代田区)に譲渡 200億円
23 ピーシーデポコーポレーション MBOで株式を非公開化 159億円
24 トリドールホールディングス ピザ料理などレストラン事業の英国Fulhamを子会社化 151億円
25 メタップス MBOで株式を非公開化 149億円
26 日本エス・エイチ・エル 英国SHLグループが日本エス・エイチ・エルをTOBで子会社化 146億円
27 塩野義製薬 感染症治療薬開発の米国キューペックス・バイオファーマを子会社化 143億円
28 日医工 ジェネリック医薬品製造の北米2子会社をシンガポールEllimistに譲渡 136億円
29 レンゴー 包装フィルム子会社のサン・トックスと三井化学傘下の三井化学東セロを経営統合 108億円
30 エレコム 美容・調理家電メーカーのテスコム電機を傘下に持つティーエスシー(東京都品川区)を子会社化 99.2億円

文:M&A Online