〔要旨〕
- 中央銀行:米国、ユーロ圏、日本の経済はそれぞれ異なる状況にあり、中央銀行はそれに応じて政策を調整する必要がある
- 決算シーズン:全体的には今のところ比較的良好だが、それは期待値が低いためであり、また注目企業の決算もいくつか期待外れの結果となった
- 「黄金の手錠」:高い住宅ローン金利は、米国の住宅市場への十分な供給が構造的に妨げられている要因の1つ
何人かの子供の育児は、中央銀行の政策理解に役立つ
ECBは慎重に対応しなければならない
日銀が驚きの政策調整を行う
中国株のミニラリー
不均衡経済では企業業績もさまざま
高い住宅ローン金利によりリアリティ番組からサスペンスが奪われる
今週の言葉
FRBは間違いを犯す準備ができているか?
今後について
私が、カナダのケベックシティで開催されるカンファレンスへの招待を受けたのは数カ月前でしたが、この講演が行われたのは先週でした。困ったことに、私の(また他の多くの参加者の)カンファレンスへの出席は、異常気象とフライトのキャンセルにより危ぶまれる状況となりました。そこで私は確実に出席できるよう、カナダへ車で往復することにしました。片道8時間の行き帰りの車中、様々な考えが頭を駆け巡りました(座って考えるには実に十分な時間です!)。私はこれらの様々な考えを、多岐にわたる考察としてできる限り整理してみました。
私が、カナダのケベックシティで開催されるカンファレンスへの招待を受けたのは数カ月前でしたが、この講演が行われたのは先週でした。困ったことに、私の(また他の多くの参加者の)カンファレンスへの出席は、異常気象とフライトのキャンセルにより危ぶまれる状況となりました。そこで私は確実に出席できるよう、カナダへ車で往復することにしました。片道8時間の行き帰りの車中、様々な考えが頭を駆け巡りました(座って考えるには実に十分な時間です!)。私はこれらの様々な考えを、多岐にわたる考察としてできる限り整理してみました。
ECBは慎重に対応しなければならない
ユーロ圏は米国とは異なる状況にあり、最近は経済の底堅さが弱まってきています。ユーロ圏購買担当者景気指数(PMI)速報値は、サービス業PMIは拡大領域を維持したものの、総合PMIは8カ月ぶりの低水準となりました。また、製造業は引き続き悪化しました3。欧州中央銀行(ECB)は慎重に対応する必要があり、今後の利上げは既定路線とは言えないことが、先週の理事会会合で明らかになりました。ラガルドECB総裁は注意深く選んだ以前の表現を変更し、6月に用いた「...ECBの主要政策金利は十分抑制的な水準に引き上げられるだろう...」との表現を避け、「...ECBの主要政策金利は十分抑制的な水準に設定されるだろう...」との表現を用いました。
日銀が驚きの政策調整を行う
そして日本です。インフレが上昇する中、日銀(BOJ)はイールドカーブ・コントロール政策に変更を加えずにいつまで持ちこたえられるだろうかと多くの人が考えていましたが、先週、金利をより柔軟に上昇させることを可能とする変更が発表されたことは、驚きをもたらしました。
日銀の植田総裁が記者会見で、1)1%はあくまで上限であり、10年債利回りの1%までの上昇は予想していない、2)日銀は国債買い入れオペの調整と固定利回り入札方式による買い入れオペの実施により、イールドカーブ(及び10年債利回り)のコントロールを続けるだろう、と述べたことは重要です。それまでは、日銀がどの程度まで、また具体的にどのような条件下で10年債利回りの上昇を許容するのか、実際のオペの状況を見ながら市場が観察していくと見られていました。日銀は3,000億円の「臨時の」国債買い入れを発表したばかりで、この動きは既に始まっています。
日銀の政策調整は、投資に重大なインプリケーションをもたらします。日銀はこれまで引き締めを行っていない数少ない中央銀行の1つであることから、日本円は(貿易加重ベースで)通常よりもかなり円安となっています。引き締めに向かえば、急激な円高となる可能性があります。円安が今年初めの日本株の好調の少なくとも一因であったことを考えると、株式に影響があるでしょう。従って、円高は日本株のパフォーマンス低下につながる可能性が高いでしょう。
中国株のミニラリー
先日、中国株はさらなる景気刺激策があれば大幅に上昇する可能性があると述べました。そして先週、中国の経済政策当局が消費関連の景気刺激策を発表したことで、中国株のミニラリー(ミニ上昇)が起きました。その中には、例えば「中古車買取」政策や省エネ住宅改修への補助金など、グローバル金融危機に直面した米国の政策を彷彿とさせるものも含まれます。こうした米国の政策は、いわゆる「グリーンシュート(景気回復の兆候)」を広げる効果があり、私は、こうした政策は中国にとって確実にプラスの影響を及ぼしうると考えています。
不均衡経済では企業業績もさまざま
目下、決算シーズンの真っ只中ですが、全体的には比較的良好と言えるものの、それは期待値が低いためでした。そのため、好業績のサプライズを発表しても、さほど株価が上昇したとは思えない銘柄がいくつもありました。しかも、今シーズンの決算では、注目企業の決算が期待外れに終わったケースがいくつかありました。私は、このような環境は今後も続くだろうと考えます。ご承知のように先進国では、特定のセクターや業種が他よりも好調であったり、同じ業種でも特定のビジネスモデルが他よりも好調であったりと、かなり不均衡になっています。ある大手ファーストフードチェーンにおいて、その店のマスコットを中心とした口コミキャンペーンが功を奏したという話は、興味深いものでした。特に消費者主導のビジネスにおいては、創造性と巧妙さにより、時に考えもつかなかった売上を上げられる場合があります。
高い住宅ローン金利によりリアリティ番組からサスペンスが奪われる
先週の米国の住宅データ、特にケース・シラー住宅価格指数の4カ月連続となる上昇を見ると、私の好きなテレビ番組の1つ、「Love It or List It」が米国で続けられるのか心配になってしまいます。
ご存じない方のために説明しておくと、この番組では、自分の家に不満を持っている住宅所有者が、2つの道を同時に追求します:自分の家がより好みにリフォームされるのと同時に、より好みに合いそうな他の家も紹介されます。番組の最後に、リフォームした自分の家を気に入ってそのまま住み続けるのか、それともその家を売り払い、見せられた家を購入するかを尋ねられます。そこでふと思ったのですが、米国の住宅ローン金利が非常に高いため、住宅所有者は家を売って新しい家を買うよりも、元の家に住み続ける方を選びたい気持ちになるのではないでしょうか。
住宅ローン金利の高さは、FRBが作り出した「金の手錠」のようなもので、住宅市場に十分な供給が行われない(その結果住宅価格が上昇する)構造的な障害の一因となっています。となるとこの番組は、このような「金の手錠」がない、新しい撮影場所を探す必要があるのかもしれません...。
今週の言葉
先週のFOMC記者会見で、パウエルFRB議長は、FRBの判断が今後データ次第となることを明言し、次回会合まで、8週間分の評価対象となるデータがあると述べました: 「利下げを行うのが適切と考える時が来れば、FRBとして利下げを行えるようになるだろうが、それは今年中ではないだろう。」
記者会見場に、FRBのメッセージに合わせて曲を流すDJがいれば良かったのにと思います。そうすれば、ケニー・ロジャースの古いカントリーソングのコーラスを流すチャンスになったでしょう: 「いつ止めるか/いつ折り返すか/いつ立ち去るか/いつ逃げるか、あなたは知っていなければなりません。」
FRBは間違いを犯す準備ができているか?
子育ての話題に戻ると、私が親になって学んだことの1つは、私たちは間違いを犯す、ということです。それは私自身が保証します。間違いを犯しやすいのは、中央銀行当局も同じです。というのも、子育てと中央銀行業務にはともに、アクションを起こしてから結果が出るまで大きなラグがあるからです。現実には、私たちはほぼ目隠しをして飛行しているようなものです。娘が10代で仕事をすることで得た経験が、大人になってからの消費行動に影響するでしょうか?それは数年後にわかることです。
同様に、中央銀行が現在適切だと考えている金融政策が、最終的にはインフレのコントロールに十分でないかもしれません。もしくは、それがやり過ぎだったことが判明し、経済が不況に陥る可能性もあります。だからこそ、中央銀行が各国の経済を「治療」するために最善を尽くそうとしている時、私たちは警戒を怠らないでいる必要があります。中央銀行が、いつ動きを止め、いつ折り返すべきかを知っていることを祈りましょう。さもないと、逃げ出す者も出てくるでしょう。
今後について
金融政策が経済に与える影響といえば、銀行貸出調査に注目したいところです。
- 先週発表されたECBの銀行貸出調査によると、不良債権に対する懸念の高まりから、与信基準が厳格化されました。加えて、金利上昇や消費者信頼感の低下といった要因により、商業用ローンへの需要が非常に大幅に落ち込んだことが示されました。私は、これは間違いなくECBの審議に影響を与えたと考えています。
- 8月7日には次回のFRBシニア・ローン・オフィサー意見調査の公表が予定されており、米国の第2四半期の貸出状況について重要な示唆が得られるでしょう。これを見逃す手はありません。
また、今週は更に決算報告や中央銀行会合(特にイングランド銀行とオーストラリア準備銀行)が予定されています。
(執筆協力:木下智夫)
1.出所:米国経済分析局、2023年7月28日
2.出所: 米国経済分析局、2023年7月27日
3.出所: S&PグローバルHCOB、2023年7月25日
クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト
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