この記事は2022年10月24日に「第一生命経済研究所」で公開された「2回目の為替介入、次のタイミングを占う」を一部編集し、転載したものです。


財政
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目次

  1. 骨太方針2023:財政再建目標は今回も維持
  2. 既に変容しつつある財政健全化目標
  3. 中長期試算の分析充実へ

骨太方針2023:財政再建目標は今回も維持

本稿では骨太方針2023の財政目標・財政運営関連の内容についてポイントをまとめる。ポイントは大きく3点で、①既存の財政再建目標を踏襲、②2024年度の点検・検証と“中期的な経済財政の枠組みの検討”、③政府中長期試算における分析の充実、である。特に②が財政再建目標の見直しを示唆するものであり、注目すべき内容といえる。

まず、①の目下の財政再建目標の維持について。資料1の通り財政再建目標や2024年度予算の編成方針について記載がなされている。骨太方針2021で掲げていた「2025年度の基礎的財政収支の黒字化」や「公債等残高GDP比の安定的な引き下げ」、「歳出目安に沿った当初予算の歳出抑制」の3つを継続することが示された。また、2022年の骨太方針で追記された黒字化目標が「重要な政策の選択肢をせばめることがあってはならない」の文言も引き続き記載。黒字化目標が新しい資本主義の掲げる公的部門の計画的投資を妨げない旨が昨年同様示された。計画的投資>財政目標の優先順位がここで明確になっている。

また、今回コロナ関連支出の正常化に関する内容も記載された。2020年以降コロナ関連の歳出は主に補正予算を通じて大きく膨らんでいたが、感染症分類の5類移行も実施された中でこれを縮小する方針を示した。これにより、コロナ関連の補正予算や財政の機動性確保のために当初予算に計上されてきたコロナ予備費は今後の予算で縮小されていく公算が大きくなった。

第一生命経済研究所
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既に変容しつつある財政健全化目標

第2のポイントは「中期的な経済財政の枠組みの検討」である。原案には資料3の通り「経済・財政一体改革の進捗について2024年度に点検・検証」するとともに、「中期的な経済財政の枠組みの策定」「経済再生と財政健全化の両立の枠組みなどについて検討を進める」としている。資料2にもあるが、「2024年度の点検」は骨太方針2021で既に示されていたことだ。ここでは2022~24年度の3年間の財政運営方針を定めていた。重要な点はその終了に伴って次の枠組み(≒目標)を定めることが明記されたことだ。

次の枠組み策定は来年度骨太に向けた話となる見込みでまだ先の話だが、基礎的財政収支の黒字化目標をはじめとした財政目標が全く同じ形で踏襲されることはなさそうだと考えている。すでに昨年度から「基礎的財政収支黒字化目標」は大きく変容しているためだ。骨太方針2022で「重要な政策の選択肢をせばめることがあってはならない」の一文が入ったことにより、財政目標からは計画的投資をはじめとした政府の重要政策は除外されることとなった。これを象徴する出来事が、前回2023年1月に経済財政諮問会議から示された中長期試算(中長期の経済財政に関する試算、経済財政諮問会議より半年おきに公表)である。中長期試算は政府の財政目標である国・地方の基礎的財政収支の将来図をモデルベースで推計してきたが、この際に東日本大震災からの復興関連の歳出入のみが計算対象から除外されてきた。この計算方法は2022年の中長期試算まで貫かれてきたが、23年1月の試算では復興関連に加えグリーンイノベーション基金等を用いて新たに行うこととなったGX投資も除いたベースの指標がメイン指標として記載された。

政府の目標指標である国・地方の基礎的財政収支はSNAベースであり、発生主義である。よって、歳出増はその歳出が発生した年度に計上される。GX投資は将来の償還財源が確保される予定になっているが、歳出が先行する形になるので当面の財政収支には赤字方向の要因になるものである。また、新しい資本主義の計画的投資拡大の方針の下、GX以外にも半導体関連等に数年間のスパンを想定した多くの基金が設けられている。SNA財政収支を黒字化するとしながら、将来の歳出の計画を立てている、という点ですでに財政目標と実勢にはある種のズレが生じているといえる。

今回そうしたSNAベースの財政目標と実勢のズレを埋めるかのように盛り込まれている文言が資料3にもある「多年度にわたる計画的な投資については財源も一体的に検討し歳出と歳入を多年度でバランスさせるとともに、経常的歳出について毎年の税収等で着実に賄われる構造の実現に向けた取組を進める。」である。SNAベースの「国・地方の基礎的財政収支」という言葉を使わず、経常的歳出と税収等のバランス、とされている。「経常的歳出」という言葉の使い方であれば、GXや目下で増加している基金等の支出(期間限定で一時的な投資)は除かれる、という説明ができるようになる。

来年度の財政目標見直しに向けても、すべての歳出を内包するSNAベースから「経常的歳出」(例えば当初予算の歳出)を一つのメルクマールとした財政目標へ移行することで現在の財政運営との平仄をとる、という方向性は考えられそうだ。「既存予算(社会保障費など)は抑制継続」「計画的投資はOK」との方向性を是認する、という形になる場合、扱いが注目されるのが補正予算である。毎年の編成が常態化する中で、その在り方については経済財政諮問会議等でも度々議題になっている。現在は特に規模や内容について制約のかかっていない補正予算がどう扱われるかが、「中期的な経済財政の枠組み」の議論において大きな焦点になると考えられる。

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中長期試算の分析充実へ

もう一つの注目点が中長期試算の分析充実について明記されたことだ。従来の経済・財政の将来推計値に加え、政策効果の発現の仕方や感応度分析などの対外発信情報を拡充するとしている。内容を含めた詳細はまだ不明だが、中長期試算は一定の条件のもとにおける将来予測値であると同時に、政府が今後の経済財政をどうみているか、という情報でもある。分析の充実は、経済政策の方向性を考えるうえで中長期試算がより重要な意味を持つことになることを意味する。

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第一生命経済研究所 経済調査部 主任エコノミスト 星野 卓也