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中小企業の事業承継は、企業存続の証

地域に根ざす「中小企業」は、年々変化する経営環境に柔軟に対応することが求められています。同族経営の色彩が濃い企業でも、その承継の是非で、企業そのものの存続に影を落とすことになりかねません。企業存続の証である「事業承継」にはどんな問題が潜んでいるのでしょうか?


経営面から見た承継問題

中小企業で問題化している多くは「後継者がいない」という点です。江戸時代創業といった酒造メーカーなどの合資会社などを除き、ほとんどの企業は戦後に創業されたものであり、現在の経営環境とは全く違う時代背景で「育ってきた」のが現状です。そのため、現在の経済状態では、承継を「リスク」と捉える後継者候補が出てきても、不思議はありません。

承継問題でネックになるのが、この「経営環境」です。経営者である親が、我が子を「後継者候補」と考えても、実際には承継しないケースが増加しています。理由として、創業者や二代目経営者が独創的なアイデアや技術力、コミュニケーション能力が秀でていることや、現在の経済状況を後継者候補が客観視した上で、後継者自ら『承継拒否』という決断を下すのです。損益分岐点の流動化は激しく、また経営環境の不安定さを鑑み、「後継者の配偶者」の反対、という伏兵によって承継不可となるケースも多発しています。


税制面、雇用面から見た承継問題

承継問題で、問題となっているのが「自社株」の評価です。2001年(平成13年)10月1日改正前の商法適用の場合、株式会社登記には最低資本金1000万円、額面5万円の株式という「縛り」が存在しました。増資を行い、株式分割を繰り返しても、創業者保有の株式は売却されることはまずありません。

そのため、創業後数十年の業績と保有資産などから、実際には元値の数十倍もの評価額が自社株に設定されます。同族会社は株式保有数によって、その経営権の承継を確かなものにしますので、承継者は経営権掌握に必要な株式を取得しなければなりません。つまり、現経営者が生前贈与していくか、死亡時の相続によって自社株を買い取らなければならないのです。

さらに問題は、生前贈与の「歴年実績」と相続の際の莫大な「相続税負担」の可能性です。特に厄介なのは「名義株」の存在です。1990年(平成2年)商法改正以前に創業された会社では、会社設立に7名の発起人が必要であったため、創業者が名義借りを行い創業するケースが続出しました。その結果、出資を伴わない「他人名義」の名義株が相続時に浮上し、「名義人」に買取を迫られる問題が発生しているのです。

雇用面では、「退職金規定」などが挙げられます。会社には本来退職金規定の義務はありません。が、創業者の意向で、もし労働基準監督署に規定書類を提出済みであった場合は、退職金の支払いは義務となります。仮に、経営者が世代交代する際に、古参の従業員が一斉に辞めてしまう事態に「退職金支払い」によって財務内容が悪化し、倒産の憂き目を見る会社も少なくありません。ですから、承継の際には会社の定款、各種の規定の有無と所管省庁への届出の有無なども事前確認する必要があります。


メインバンクのバックアップ問題

中小企業の資金借り入れは、多くが経営者の個人保証を伴います。自宅を担保に入れる場合や、経営者個人が借り入れて、会社に貸すといった形が多く見られます。特に、信用金庫などの地場に強い金融機関よりも、都市銀行や地方銀行にこの傾向が強く、貸し出し金額が大きい分、金利も高くなる傾向があります。そのため、経営者はメインバンクをどこにするのかを確認する必要があります。

例えば、信用金庫の場合は規模が小さく、地場に強い特長がありますので、理事長に直接取引を申し込み、企業承継の際にもしっかりと支援を依頼するなどの対策が必要です。金融機関は商取引だけでなく、企業情報もしっかり握っていますので、付き合っていくことで今後の経営に役立つ情報をどれだけ引き出せるかを見極め、メインバンクとの結びつきを強めなければなりません。


専業特化は最大の事業承継の道

事業承継で、大事なことは「専業」を引き継ぐこと、そして多角化へのタイミングは、よく見定めることです。社内の雰囲気もメインバンクも、早急な変化が予想される承継後の経営方針には「不安」を感じてしまうものです。専業化とは、事業の専業でもあり、経営方針のベクトルを引き継ぐ、ということに他ならないのです。