2023年10月のM&A件数(適時開示ベース)は85件と前年を2件上回った。9月は7カ月ぶりに前年比マイナスとなったが、国内案件、海外案件がそろって堅調に推移し、ひと月で増勢を取り戻した。1~10月の累計は前年比56件増の832件で、1000件の大台をうかがう位置にある。

一方、10月の取引金額(公表分を集計)は2143億円と振るわず、月別で今年3番目の低水準だった。1000億円を超える大型M&Aは7月から4カ月連続でゼロ件に終わり、2013年以来10年ぶりの記録となった。

海外案件増えても金額は伸びず

上場企業に義務付けられている適時開示情報のうち、経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Onlineが集計した。

10月の総件数85件の内訳は買収75件、売却10件(買収側と売却側の双方が発表したケースは買収側でカウント)。このうち海外案件は16件で、日本企業が買い手のアウトバウンド取引14件、外国企業が買い手のインバウンド取引2件だった。

海外案件は1~10月累計で159件(アウトバウンド108件、インバウンド51件)。前年125件(アウトバウンド70件、インバウンド55件)を34件上回り、コロナ前の2019年162件(アウトバウンド128件、インバウンド34件)とほぼ並ぶ。

海外案件については件数の回復もさることながら、内容的にも日本企業が買い手のアウトバウンド取引の復調が目立つ。前年と比較し、外国企業が買い手のインバウント取引の件数はさほど変わらないものの、アウトバウント取引は40件近く伸び、これが件数を押し上げている。

ただ、海外案件の件数増が金額の伸びにつながっているわけではない。一般に海外案件は金額が張ることが多いが、足元では案件規模の小型化が顕著だ。

トップは英国社買収の協和キリン

10月の金額首位は協和キリンが573億円を投じて英国のバイオ医薬品企業オーチャード・セラピューティクスを完全子会社化する案件。2023年1~10月の金額ランキングでみると、全体の16位にとどまる。2024年1~3月に買収完了を見込む。

協和キリンとしては過去最大の買収で、急成長する遺伝子治療分野で有望な新薬候補と創薬技術を獲得する狙い。オーチャードは、酵素の欠損や活性の低下で引き起こされるライソゾーム病(先天性代謝異常症)に対して、独自アプローチによる遺伝子治療法を開発した。欧州では治療薬としてすでに発売し、米国でも承認審査中。米国での承認など一定の条件が満たされた場合、買収金額は最大707億円となる。

取引金額が1000億円を超える大型M&Aについては10月もゼロ件。1~6月時点で7件あったが、7月から4カ月間途絶えたまま。1000億円超のM&Aが4カ月続けて姿を消すのは2013年3月から6月にかけて以来10年ぶりの“記録”となった。

M&A Online
(画像=「M&A Online」より引用)