この記事は2023年8月18日に「第一生命経済研究所」で公開された「ガソリン・灯油価格上昇による家計負担増」を一部編集し、転載したものです。
年間1万6000円の負担増の可能性。大きい地域差
6月からガソリン、灯油への補助金が段階的に縮小されていることで、ガソリン、灯油価格は急ピッチで上昇している。5月まではガソリン価格は1リットルあたり168円程度、灯油価格は111円程度で推移していたが、足元ではガソリン価格は181.9円、灯油価格も120.6円と、それぞれ2008年以来の水準となっている。今後も補助率は減額されていくことから、ガソリン、灯油価格は一段と上昇していくことが避けられないだろう。補助金が終了する10月になれば、ガソリン価格200円も視野に入る。
ガソリンにしても灯油にしても生活必需品に近い性格を持つため、使用量を大幅に減らすことは困難であり、値上がりが家計負担に直結する。ここで、1リットルあたりのガソリン価格が200円、灯油価格が140円まで上昇し、その水準で1年間高止まりした場合に一世帯あたりの家計負担が年間でどの程度増えるかを試算した。すると、2022年と比較して、全国平均では一世帯あたり年間1万6000円の負担増になることが分かった。内訳では、ガソリンで1万2000円、灯油で4000円である。これは年間消費額全体の0.5%に相当する。実質賃金が減少し個人消費も緩やかな伸びにとどまっている状況下においては、決して小さいとは言えない額だろう。
なお、ガソリンや灯油価格は、地域によって消費額が大きく異なるという特徴がある。たとえば、最も負担増が小さい東京都区部では年間3700円程度に過ぎないのに対して、最も大きい山口市では1万8000円程度に達するなど、5倍近い差がある。一般的に、公共交通機関の利用が多い東京や大阪といった大都市ではガソリン支出は少ないのに対して、自家用車を用いることが多い地方圏では支出が多い傾向がある。
灯油は地域差がさらに大きい。同様に、前述の前提の下、灯油価格上昇による負担増額を各都道府県の県庁所在地別にみると、最も支負担増が小さい神戸市では年間400円程度に過ぎないのに対して、最も大きい青森市では2万3000円近くに達する。冬場の気温が低く暖房需要が多い地域における負担増が圧倒的に大きいことが灯油の特徴である。ガソリン・灯油補助金は9月末で終了する予定だが、その後、秋から冬にかけても原油価格の上昇や円安進行が続いていた場合、こうした地域での負担は極めて大きなものになるだろう。
次に、ガソリン負担増額と灯油負担増額を合わせて見たものが下図である。やはり地域によって大きな差があることが確認できる。全国平均での年間負担増額は1万6000円だが、県庁所在地別で最も負担額の小さい東京都区部では4300円にとどまる一方、最も大きい青森市では3万5200円に達するなど、約8倍もの差がある。また、通勤に自家用車を用いている家計ではそれ以上の負担になることも考えられる。こうしたバラツキの大きさを考えると、単純に全国平均だけで語ることは難しい面もあることに注意が必要だろう。
このように、ガソリン、灯油価格上昇により、地域によっては非常に大きな負担増がのしかかる。ガソリン、灯油価格は生活必需品に近い性格を持つため、使用量を大幅に減らすことは困難であり、値上がりが家計負担に直結する。個人消費は景気の牽引役として期待されているが、ガソリン、灯油価格の上昇が家計の節約行動に繋がり、消費回復の頭を押さえることが懸念される。